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中国模倣品問題の最新事情 トップページへ

2014年5月30日 掲載

中国模倣品事件の対応(4)
行政摘発

1.模倣品への行政摘発概要

 中国では、模倣品侵害に対して、前述した警告書発送という私的救済以外に、権利者は、行政ルート(※1)及び司法ルート(※2)を通じて、公的救済を求めることができる。行政ルートは、中国特有の制度である。中国では、各地方政府において模倣品侵害に対して、それぞれの管轄行政機関が設置されている。下記のグラフを参照のこと。
※1)行政ルートとは、中国各行政区の地方政府に設置された管轄行政機関が、当事者からの侵害者の侵害行為に対する取締り請求に基づいて紛争を解決するための方法である。
※2)司法ルートとは、権利者が他人による侵害行為に対して、民事訴訟法に基づいて裁判所に訴訟を提起し、裁判所は関連法規に基づいて、その権利侵害者に侵害行為の差し止めや影響の除去、謝罪及び損害賠償といった民事責任を命じる方法である。

行政摘発 模倣品侵害 請求人 管轄行政機関
専利権侵害 専利権者、利害関係者 地方知識産権局
商標権侵害 商標権者、利害関係者 工商行政管理局
著作権侵害 著作権者、利害関係者 版権局
不正競争法違反 知名商品の特有名称、包装、装飾の権利者 工商行政管理局

2.模倣品への行政摘発のメリット・デメリット

 司法ルートと比べれば、行政ルートは、請求手続が簡便で、行政機関が対応する行動が迅速で、調査・処理が素早く、事件終結までの期間が短く、コストが低いなどのメリットがある一方で、損害賠償を請求できず、手続の公開度と透明度が高くなく、不正や職務怠慢に遭遇する不確定な要素や地方主義の影響を受ける等のデメリットもある。行政摘発のメリット及びデメリットについて、以下のとおり紹介する。

メリット デメリット
行政摘発
  1. 訴訟より、費用がかからなく、行政機関の行動が迅速で、摘発の速度も比較的速く、事件終結までの期間も短いこと。
  2. 行政摘発の手続が簡便であり、訴訟と比べて、証拠の形式要件をさほど厳格に要求されないこと。
  3. 行政摘発現場で入手した証拠、行政処罰決定書等が侵害訴訟での証拠として使用できること。
  1. 侵害となるかどうかに関する関係主管機関の判断が重要なポイントになること。
  2. 行政機関のレベルが裁判所よりさほど高くないこと。
  3. 通常、侵害品の在庫がある事件を取り扱うが、インターネット上の侵害行為については受理してくれないことがあること。
  4. 相手企業が現地で、影響力を有するとか、政府的な背景を有する企業である場合、地方保護主義の影響を受けるおそれがあること。
  5. 損害賠償を請求できないこと。

3.模倣品への行政摘発のプロセス及び関連手続

 行政ルートによって公的救済を求める場合、模倣品侵害の性質により、それぞれ対応する行政機関に請求し、異なる書類及び証拠を提出しなければならない。具体的な内容について、下記のとおり紹介する。

(1)商標権侵害
 中国では、登録商標侵害の模倣品侵害について、侵害行為発生地、または侵害製品を製造する県級以上の工商局が、模倣・粗悪品を製造・販売する他人の商標を侵害・盗用するメーカー、販売者又は不正競争を行うメーカー、販売者に対して、「中華人民共和国商標法」、「中華人民共和国商標法実施条例」、「不正競争防止法」等の法律・法規に基づいて、行政摘発を実施することができる。
権利者は、摘発を請求する場合、関連書類及び証拠を提出する必要がある。具体的な提出書類及び証拠、工商局の処理プロセス、並びに処理結果などについては、下記のとおり紹介する。

☆提出書類及び証拠

  1. 外国企業は代理人に依頼する必要があり、授権委任状。
  2. 権利者の有効な全部事項証明書と商標登録証明書。
  3. 摘発請求書類を提出するが、その中には請求対象、侵害事実と事由、法的根拠及び処理要求等の内容を明記すること。
  4. 必要な権利侵害証拠と証拠の出所を提出する必要があるが、それには権利侵害実物、権利侵害標識、写真等が含まれること。
  5. 商標権者が外国企業である場合、授権委任状と全部事項証明書は日本で公証・認証を行う必要があること。

☆処理プロセス
 管轄権を有する工商局へ摘発を請求する前に、事前のアポイントメントを取ることが必要である。工商局への請求時に、工商局の担当者は、請求者より提供された書類と証拠などを審査した後、間違いがなければ受理する。
各地方の工商局のやり方により摘発方法も異なる。一般的な地方工商局は、案件を受理した後、被請求者を管轄する工商支局または工商所に連絡する。管轄権を有する支局または工商所の大部分は、管轄区内の企業又は店舗を管理するために、直接摘発行動を行うことができる。摘発を担当する担当官の都合にもよるが当日現場へ摘発に赴かせることもあるが、後日摘発を手配することの方が多い。
摘発時に、商標権侵害の模倣品が発見された場合には、工商局はその侵害製品等を差押え、一般的には、被請求者に15日間の答弁期間を与え、非侵害証拠を提出するように求める。被請求者が非侵害証拠を提出しない場合、現地工商局より上級工商局へ報告して、行政処罰決定の発行を請求する。

☆摘発結果の処理
 同工商局は上級工商局より許可を得た後、行政処罰書を発行し、押収した侵害商品を処分する。被請求者に対する行政処罰決定の発行については、通常、3ヶ月内に決着することができるが、複雑な案件の場合、延長することもできる。被請求者は工商局の処罰に対して、不服がある場合、行政不服審査を提出することができる。そのため、工商局は、類似する商標侵害案件、または渉外案件の場合には、上級工商局の法律処に報告して、侵害か否かの判断を求めた後、処理する必要がある。

(2)専利権侵害
 中国では、専利権侵害模倣品を発見した場合、侵害行為地、または侵害製品を製造するメーカー所在地の地方の知識産権局は、他人の専利権を侵害するメーカー、専利権侵害製品を販売する業者に対して、「中華人民共和国専利法」、「中華人民共和国専利法実施細則」に基づき、行政摘発を実施することができる。
専利権侵害模倣品に対して、行政ルートによって救済を求めるために、行政摘発を請求した場合、提出が必要な関連書類及び証拠、その処理プロセス、並びに処理結果などについて、下記のとおり紹介する。

☆提出書類及び証拠

  1. 授権委任状(外国企業の場合)。
  2. 有効な営業証明書(全部事項証明書)。
  3. 国家知識産権局より公告された係争専利権証明の謄本、専利明細書と前回の年金納付の領収書の写し。
  4. 請求書には、権利侵害対象、侵害事実と事由、法的根拠及び請求事項等を明記する必要があること。
  5. 被請求者が権利者の許諾を得ずに、その専利権を実施したことを証明できる書証、物証、鑑定結果などの関連証拠。
  6. 権利者が外国人、または外国企業である場合、上記の①、②について、所在国でそれぞれ公証・認証手続きが必要である。

☆処理プロセス
 管轄権を有する知識産権局へ摘発請求を行う場合、事前に予約を入れる必要がある。知識産権局へ請求を行った場合、知識産権局の担当官は、請求者より提供された関連書類等を厳密に審査し、書類上の不備がないと判断したら、受理する。
知識産権局は、正式に受理した後、被請求者の現場での実地検証を実施する。実地検証は、知識産権局が相手側に通知することなしに、相手側の所在地へ赴き、侵害品のサンプルを取り寄せ、侵害品の在庫、製造状況などを確認の上、記録するという手続きである。また、実地検証に請求者が同行できない場合、実地検証の現場で、担当官が請求者の申請書及び証拠を被申請者に交付する。
実地検証を行なった後、被申請者は、答弁期間内に答弁を行い、知識産権局は合議体を構成して、当事者へ通知の上、口頭審理を行う。口頭審理の通知は、少なくとも5日前に当事者に告知する必要がある。
合議体は、口頭審理をし、合議を行った上、被申請者の行為が侵害に該当するか否かについて判断する。被申請者の行為が権利侵害に該当すると判断した場合、行政摘発を実施する。

☆摘発結果の処理
 知識産権局は、権利侵害者の権利侵害事実及び関連証拠に基づき、侵害行為が成立し、かつ権利侵害の事実が明白で、その証拠が確実で、行政処罰規定に合致すると認められる場合、行政処罰の決定を下す。専利の偽造・偽称行為が犯罪とみなされる場合は、公安局に移送する。専利権侵害摘発案件において、知識産権局は通常立件から2ヶ月以内に処罰決定を下し、案件を終結させなければならない。事情により、期限を延長する必要がある場合、2ヶ月間延長することができる。再度期限を延長する必要がある場合は、局長の決裁が必要である。

(3)著作権侵害
 中国の各版権局は、主に「中華人民共和国著作権法」、「中華人民共和国著作権法実施条例」、「コンピューター・ソフトウェア保護条例」、「情報ネットワーク伝達権保護条例」、「コンピューター・ソフトウェア著作権登録弁法」、「著作物自由意思登録弁法」、「著作権行政処罰実施弁法」、「万国著作権条約(UCC)」などの法律、法規、規章、国際条約を準拠法として、海賊版の書籍、録画・録音著作物、ソフトウェア等、及びそれらを製造・販売する企業又は個人に対して、行政摘発を実施することができる。また、インターネットの普及に伴い、その摘発対象もますます拡大されている。現在では、著作権者から授権されることなしに、文字著作物、音楽著作物、録画・録音著作物等の著作物をインターネットにアップロードし、公衆にダウンロード、オンライン放送などのサービスを提供するウェブサイトの経営者、正規のインターネット・ゲームを模倣するゲーム経営者等の権利侵害者が行政摘発の対象になっている。
権利者より提出する必要がある関連書類及び証拠、摘発の処理プロセス、並びに処理結果などについて、下記のとおり紹介する。

☆提出書類及び証拠

  1. 授権委任状。
  2. 有効な営業証明書(全部事項証明書)。
  3. 合法的な権利証明。
  4. 摘発請求書には当事者の姓名(又は名称)、所在地及び取調べを要求する根拠となる主な事実・理由を説明しなければならないこと。
  5. 被侵害著作物(又は製品)及びその他の証拠。

上記の1、2について、外国企業である場合、通常、所在国で公証・認証手続きが必要である。

☆処理プロセス
 著作権侵害事件に遭遇した場合、事件の性質により、国家版権局、または地方版権局へ摘発を請求することができる。また、版権局へ摘発を請求する前に、事前にアポイントメントを取る必要がある。版権局は、全ての請求資料を受領した後、受理するか否かを決定し、かつ請求者に通知する。受理しない場合は、書面によって理由を通達する。
各地方の版権局のやり方により摘発方法も異なっている。一般的な版権局は、案件を受理した後、文化執法管理機関という部門に連絡する。版権局の担当官は、文化執法管理機関と一緒に摘発活動を実施する。当日現場へ摘発に赴かせることもできるが、侵害事件が多いため、後日に摘発を手配することが多い。

☆摘発結果の処理
 版権局は、侵害事実及び関連証拠に基づいて、侵害行為が成立し、侵害と認めた場合、被請求者に対する処分を行い、行政処罰決定書を発行することができる。侵害金額が刑法に規定された基準になった場合は、公安局に移送する。

4.実務における留意事項

(1)損害賠償の取得について
 前述したとおり、模倣品侵害行為に対して、行政ルートにより摘発を請求した場合、処理時間が早く、コストが低いというメリットがある一方で、権利者は、侵害者に対して損害賠償金を請求することができないデメリットがある。
また、行政ルートにより侵害者に対して侵害行為を停止するよう命じても、侵害者が履行しない場合、行政機関は、強制力を有しないため、裁判所に強制執行を求める方法しかない。
これに対して、侵害事件において、行政ルートにより、解決したい場合、当事者は侵害のための経済損失について、行政機関に調停してもらうことができるが、賠償金額について、合意に達しない場合、唯一のルートとしては裁判所に提訴することができる。
そのため、侵害行為により、大きな損失を受けて、或いは、現地での地方保護主義傾向により、更に損害賠償金を請求したい場合、司法ルートを利用して解決することが望ましい。また、侵害訴訟の際には、行政ルートにおける関係書類、たとえば、現場実証の記録、行政処罰決定などは、有効な証拠となる。

(2)地域による法律解釈の相違及び侵害認定基準の不一致について
 中国では、法律規定において明確に規定しているが、それぞれの地方行政当局における法律に対する認識、又は処理方法が違うので、侵害認定の基準が一致しないケースが少なくない。
そのため、それぞれの地方行政当局に摘発を請求した場合、同じような侵害行為でも、異なった結論が出される可能性がある。これに対して、上部機関又は国家レベルの主管部門に意見を求めることが考えられる。また、事件を順調に解決するために、事前に、地方行政機関の特徴を把握し、地方行政機関と友好関係を築き、十分に交流したうえ、期待する結果が得られるようにすることも必要である。

(3)行政摘発書類に対する要求について
 侵害事件の性質及び提出先である行政機関によって、行政摘発書類に対する要求が異なっているので、実務において、この点を留意しなければならない。書類の不備により受理されないことを回避するために、正式に行政機関へ摘発を請求する前に、事前に確認したほうが確実である。
また、代理人に依頼する場合、基本的に、授権委任状、全部事項証明書、侵害証拠及び摘発請求書を提出しなければならないが、現在、一部分の行政機関は、侵害証拠に対する要求が非常に厳しくなっている傾向があるので、注意する必要がある。
そして、外国権利者の授権委任状、全部事項証明書については、所在国の公証局を経て公証し、かつ現地の中国大使館の認証を受ける必要がある。この点について、商標局及び知識産権局は、何れも公証・認証された書類を提出する要求があるが、その他の行政機関の場合、公証・認証されない書類でもよい。

(4)地方保護主義の回避
 行政摘発の際に、模倣業者の所在地に申請しなければならない。模倣業者が所在地において影響力などがある場合、地方保護主義の影響を受ける可能性が高くなる。できるだけ地方保護主義の良くない影響を避けるため、幾つの点にご留意いただきたい。

  1. 事前調査の際に、相手の現地における影響力も調査したほうがよい。もし、相手が現地で、行政機関と良好な関係を持っていることが分かったら、行政摘発を避けたほうがよい。
  2. 行政摘発申請の際に、できるだけ上級機関に申請し、上級機関より所在地の基層機関に指示してもらったほうがよい。
  3. 弁護士の同行は重要である。権利者自らまたは調査会社に依頼して、行政摘発を行う場合、法律問題の説明が明確ではないので、行政機関の担当官に説得できないケースが多い。弁護士が同行すれば、行政機関に対しても、プレッシャーになるので、成功率が高くなる。

資料協力 北京林達劉知識産権代理事務所別タブで開く

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