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2014年6月20日 掲載

中国模倣品事件の対応(6)
模倣品対策における民事訴訟(2)

3.民事訴訟のプロセス及び関連手続

(1)提訴

 下記の必要書類を持参して管轄を有する裁判所の立案廷に提出し、立案廷の審査を受ける。立案廷の審査を通過すれば、訴訟費用納付通知書が発行される。納付通知書に従い、関係銀行に訴訟費用を納付する。
(i)訴状及び証拠。
(ii)当事者の身分証明書(外国企業であれば、公証認証及び裁判所が指定した翻訳機構により翻訳する必要がある。外国企業の場合、公証・認証された法人代表者身分証明書及び中国語訳、公証・認証された現在事項全部証明書(法務局から取寄せたもの)及び中国語訳)。
(iii)訴訟代理人への授権委任状(公証・認証された授権委任状及び裁判所が指定した翻訳機構の翻訳による中国語訳)、訴訟代理人の身分証明書。

(2)一審

(i)受理
裁判所は民事訴状を受け取った後、審査を経て、受理条件を満たしていると認めた場合、通常、7日以内に事件の立件可否を権利者に通知する。
(ii)被告への送達
裁判所は立件日から5日以内に訴状の副本を被告に送達する。
(iii)被告の答弁状及び管轄権異議の提出
被告は、訴状を受け取ってから15日以内に答弁状を提出することができる(被告が答弁状を提出しなくても、事件の審理には影響がない)。裁判所は被告の答弁状を受け取ってから5日以内に答弁状の副本を権利者に送達する。
また、被告は答弁期間内に、裁判所の管轄権について異議を提出することができる。裁判所は、審査を経て、異議が成立すると認めた場合、管轄権を有する裁判所に事件を移管するが、異議が成立しないと判断した場合は、管轄権異議を却下する旨の裁定を言い渡す。被告は、管轄権異議に関する裁定書に不服がある場合は、裁定書の受領日から10日(外国人或いは外国企業は30日)以内に上訴することができる。実務においては、模倣業者は、時間を引き延ばしたり、証拠を隠滅したりすることを目的として、管轄権異議を提出する場合が多い。
(iv)合議体の構成に関する通知
裁判所は合議体を設置し、かつ設置日から3日以内に合議体の構成メンバーを当事者双方に通知する。
(v)立証期限
通常、立件受理通知書を受け取ってから1ヶ月以内が立証期限である。立証期限内に証拠の提出が不可能である場合、裁判所に延期を申請することができる。
(vi)開廷審理
裁判所は、開廷審理の3日前に、開廷審理に関する召喚状を発行して、当事者に通知する。権利者は開廷審理を傍聴することができる。外国人或いは外国企業の場合、事前に裁判所へ傍聴に関する事項を伝え、裁判所の要求にしたがって、関連資料を準備する必要がある。
(vii)書面代理意見の提出
当事者は、開廷審理における議論内容について、書面による代理意見を提出することができる。
(viii)判決の言渡し
書面による代理意見提出後、適当な時期に裁判所が一審判決を言渡す。法律規定に従い、受理日から3ヶ月以内に判決を言い渡さなければならないが、特別な状況があれば、上級裁判所の認可を得て、審理期間を延長することができる。

(3)二審

 当事者は一審判決を不服とする場合、一審判決を受領してから15日以内(外国当事者の場合は30日以内)に一審裁判所の上級裁判所に上訴を提起することができる。上訴状は一審裁判所に提出すべきであるが、当事者が直接、上級裁判所に上訴状を提出した場合、上級裁判所は5日以内に上訴状を一審裁判所に移送する。
二審の手続は、一審と殆ど同じであるが、簡単な事件であれば、開廷審理をせず、書面審理を行うこともある。

(4)再審

 中国の裁判制度は二審制であるが、二審判決、又は効力が発生した一審判決に対して、当事者が明らかな誤りが有すると認めた場合、上級裁判所に再審を提起することができる。但し、この場合、元の判決、裁定の執行は停止しない。
 再審を提起するルートには、①裁判所職権による再審、②検察院控訴による再審、③当事者申請による再審の3つがある。再審開廷審理は、原審の裁判所を指定して審理する場合は、原審裁判所が一審裁判所であれば、一審手続にしたがって審理を行い、原審裁判所が二審裁判所であれば、二審手続にしたがって審理を行う。最高裁自ら再審審理を行う場合は、二審手続にしたがって審理を行う。

(5)執行

 効力が既に発生した判決について、当事者は、執行しなければならない。さもなければ、当事者は、発効判決に確定された履行期限が満了してから2年以内に、訴訟事件の一審裁判所、或いは一審裁判所と同級である執行財産所在地の裁判所に執行を提起することができ、裁判所より強制執行を求める。

4.実務における留意事項

(1)証拠について

 知的財産権侵害訴訟において、権利者は、裁判所に証拠保全を申請することができ、或いは裁判所自ら証拠保全を行うこともできるが、知的財産権侵害訴訟に関する実務において、裁判所自ら証拠保全を行うケースは少ない。しかも、当事者による証拠保全の申請が受理されるケースも少ない。
 上記の司法現状に鑑み、裁判所による証拠保全を申請する場合は、その申請が認められる確率或いは認められるためにどのように申請理由を記載するかについて、事前に法律専門家と相談したほうがよい。
 また、権利者自ら証拠を収集する場合、模倣品侵害への民事訴訟において、証拠の証明力は非常に重要であるので、証明力の高い証拠を収集するために、下記の事項に留意する必要がある。
(i)中国の裁判では証拠に対する要求が厳しいため、権利者は、証拠を収集する際、証拠の真実性、合法性、関連性の要件を検討しなければならない。
(ii)証拠の証明力を高めるために、できるだけ、国家機関、公的団体などの権威機関から書類、証拠の原本、直接証拠を収集する必要がある。
(iii)外国で形成された証拠の場合は、当該証拠の所在国の公証機関による証明と当該国に駐在する中国大使館、領事館で認証を行わなければならない。
(iv)具体的な対応策として、訴訟を行う場合、侵害証拠を確保した場所が侵害地になるが、模倣業者所在地は地方保護主義の影響を受けるリスクがあるので、侵害証拠の確保地を変更すること、例えば、北京、上海などの大都市で侵害証拠を確保することを通じて、自分に有利な訴訟の管轄地を選定することができる。

(2)調停・和解について

 中国では、他の民事訴訟と同様に、知的財産権侵害訴訟においても、当事者は裁判官の調停のもとで、或いは自ら和解を求めることができる。
 調停の場合は、裁判官が民事訴訟法に基づき、訴訟当事者に説得、助言などを行うことを通じて、当事者双方に合意が得られれば、裁判所が調停書を発行する。当該調停書は判決書と同様に、強制執行力を持っている。
また、和解とは、双方の当事者が自ら協議を経て、合意に達成し、和解契約を締結したうえ、権利者が訴訟を取り下げるか、或いは、裁判所に調停書を発行してもらうことをいう。また、裁判所によって発行された調停書とは異なり、当事者の間の和解契約は強制執行力を有しない。
 知的財産権侵害訴訟における和解のタイミングは、必ずしも開廷審理の後に限られておらず、侵害訴訟において、裁判所が事件を受理した日から判決の執行段階まで、双方当事者は何れも和解を行うことができるので、当事者は事件の進捗状況及び自社の実情に応じて、適時に和解を行うことができる。執行段階においても和解が可能であるため、被執行人の財産が少ないか或いは執行に不利な情況である場合、他の和解条件を入れて、被執行人と和解を進めていくことも必要である。また、和解の範囲は、訴訟請求内容に限られておらず、ライセンス契約などの締結、他の商業上の提携事項について協議を達成することも含めて和解を行うことができる。

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