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2014年3月19日 掲載

知財権侵害の最新事件(3)
実用新案権侵害事件

中誉電子(上海)有限公司と上海九鷹電子科技有限公司との間の実用新案権紛争事件

基本情報

 再審事件番号  最高裁判所(2011)民提字第306号民事判決書
 再審申請人(一審原告、二審上訴人)  中誉電子(上海)有限公司
 再審被申請人(一審被告、二審被上訴人)  上海九鷹電子科技有限公司

事件の経緯

中誉電子(上海)有限公司(以下、「中誉公司」という)は2009年8月、上海市第二中等裁判所に訴訟を提起した。当該訴状によれば、実用新案権者である田瑜と江文彦は2008年2月13日、「操舵装置」について、登録番号がZL200720069025.2の実用新案権を取得した。その後2009年2月10日、中誉公司は実用新案権者との間で「専利実施許諾契約」を締結した。当該契約には、実用新案権者の許諾によって、中誉公司が当該実用新案権に対して、専用実施権を有し、かつ、当該専用実施権の期間は、2017年4月17日までであることが規定されていた。その後、中誉公司は2009年2月、ドイツニュルンベルク国際春季玩具見本市において、上海九鷹電子科技有限公司(以下、「九鷹公司」という)が宣伝していた「FreeSpirit Micro NE R/C 210A」という規格の船の模型に使用されていた操舵装置が、自社の実用新案権の権利範囲に属していることを発見した。そのため、中誉公司は、九鷹公司に対して、直ちに侵害行為を停止することを要求する弁護士書簡を送付したが、九鷹公司がその要求に従わなかったので、中誉公司は、訴訟を提起した。中誉公司は、裁判所に対して、九鷹公司が直ちに侵害行為を停止すること及び合理的な費用を含む500万元の損害賠償を支払うように請求した。それに対して、九鷹公司は、当該製品が使用した技術は、公知技術や技術常識と同一又は実質的な相違がないので、「操舵装置」について、実用新案権侵害を構成しないと抗弁した。

裁判所の判決

一審裁判所は、審理後、被疑侵害製品の考案が公知技術と技術常識の簡単な組み合わせなので、九鷹公司の公知技術の抗弁を認めるべきであり、被疑侵害製品が係争実用新案権侵害を構成しないと認定した。
中誉公司はこれを不服として上訴を提起したが、二審裁判所によれば、被疑侵害製品の考案が公知技術と実質的な相違がないという一審裁判所の認定は妥当である。しかも、九鷹公司の公知技術抗弁が成り立たないという中誉公司の上訴理由が成立するとしても、本事件においては、禁反言の原則により、被疑侵害製品は均等侵害を構成しないので、中誉公司の上訴請求は棄却されるべきである。したがって、上訴を棄却し、一審を維持するとの二審判決を言い渡した。中誉公司は二審判決を不服とし、最高裁判所に対し、再審を申請した。
最高裁判所によれば、本事件においては、禁反言の原則が適用されないので、被疑侵害製品の考案は実用新案権の権利範囲に入り、かつ、九鷹公司の公知技術の抗弁が成立しないので、九鷹公司は係争実用新案権に対する侵害を構成する。したがって、最高裁判所は、一審と二審の判決を取り消し、九鷹公司が実用新案権侵害を構成し、かつ、中誉公司に対し、200万元の損害賠償を支払うことを命じる判決を言い渡した。

ポイント

禁反言の原則は、司法実務において、裁判所が専利権侵害を判定する際に採用する非常に重要な原則の1つであり、均等論における重要な限定性原則でもある。専利審査・登録又は無効審判手続きにおいて、出願人又は専利権者は、書面による声明又は専利書類の補正などの方式により、専利請求項における権利範囲を限定し、又は放棄することができると同時に、当該限定又は放棄により、専利権の登録又は専利権の維持を実現することができる。また、専利権侵害訴訟において、裁判所は、均等論を適用して専利権の権利範囲を確定する際に、専利書類に対する審査を経て、条件を満たす場合は、自ら禁反言の原則を引用している。すなわち、専利権者がすでに自分より限定・排除し、又はすでに放棄した内容を改めて専利権の権利範囲に入れることを禁止しなければならない。かかる状況に鑑み、専利請求項における権利範囲を限定し、又は放棄する際には、慎重に検討した上で、決定することが必要である。

資料協力 北京林達劉知識産権代理事務所別タブで開く

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