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日本の中小企業が中国に進出する際の留意点 トップページへ

2015年4月22日 掲載

日本の中小企業が中国に進出する際の留意点

IV.契約を締結する際の注意点

1. 契約関係でよく利用される中国の法律

☆「中華人民共和国民法通則」
☆「中華人民共和国契約法」
☆「『中華人民共和国契約法』の適用における若干の問題に関する最高人民法院の解釈(一)
☆「『中華人民共和国契約法』の適用における若干の問題に関する最高人民法院の解釈」(二)
☆「渉外民事又は商事合同紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する最高人民法院の規定」
☆「『中華人民共和国民法通則』貫徹執行における若干の問題に関する最高人民法院の意見」

2. 実務における留意事項

(1)契約当事者の確認
日本の中小企業が中国パートナー会社と契約を締結する場合、先ず、契約締結者の主体資格を確認する必要があり、かつ、契約書に責任主体を明確に記載する必要がある。例えば、パートナー会社の会社名義で契約を締結する必要があり、法定代表者、またはその他の経営者の個人名義による、もしくは販売店の店舗名義による契約などは、締結しないように留意する必要がある。

(2)契約当事者の権利と義務の明確化
契約を締結する際、契約事項、及び、契約当事者の権利と義務に関する規定が明確であればあるほど、当事者の契約履行に有利であるだけではなく、将来、紛争が生じた際の責任負担と追及にも便利である。
そのため、日本の中小企業が中国パートナー会社と契約を締結する場合、契約書において、総括的な業務提携の方式などを規定するだけではではなく、当事者の権利と責任などに関して、できる限り明確に規定することが望ましい。例えば、委託製造契約の場合、製造を委託する製品とその数量、納期、対価などを規定するだけでなく、製造者の品質管理、秘密保持管理、工事安全管理責任、及び瑕疵担保責任なども詳細に規定し、かつ、委託生産のために委託者が提供した技術、商標及びその他の資料などの帰属と取扱を明確に規定する必要がある。その他にも、製品の品質要求、不合格品の処理、第三者侵害責任の負担、及び、委託者の検査権利等に関しても明確に規定することが望ましい。

(3)違約責任の明確化
違約責任に関する条項は、守る側の権利を保障する重要な条項である。明確な違約責任の負担方式が規定されていれば、将来、相手側が違約した場合、自社の損害を証明した上、相手側に損害賠償責任を求める必要なく、直接に契約規定によって相手側の違約責任を追及することができる。
したがって、日本の中小企業が中国パートナー会社と契約を締結する際、「違約側は、相手側の損害を賠償しなければならない」というような原則的な違約責任ではなく、直接実行できる明確な違約責任を規定することが望ましい。

(4)紛争解決手段と解決機関の選定
紛争解決手段には、訴訟と仲裁があるが、それぞれ下記のメリットとデメリットがある。

訴訟 仲裁
専門性 当事者が裁判官を選ぶことができないこと。 当事者が仲裁人を選ぶことができるので、その関連分野の専門家を選ぶことができること。
秘密性 特別な理由がなければ、公開で審理され、かつ、判決の内容も公開されること。 当事者の同意がなければ、仲裁手続及び仲裁裁定は、非公開であること。
迅速性 二審終審制であり、手続きが煩雑なので、仲裁に比べ、長時間がかかること。 「一裁終結制」であるので、早期解決ができること。
国際性 判決の承認と執行に関する国際契約を締結した国は、多くないので、判決の外国での執行が困難なこと。 仲裁裁定の承認と執行に関する国際契約を締結した国は多いので、外国でも執行され易いこと。
救済可能性 上訴を提出できること。 一裁終結なので、救済が困難なこと。

 日本の中小企業が中国のパートナー会社と契約を締結する場合も、仲裁、または訴訟を紛争解決手段として、選ぶことができるが、仲裁による紛争解決を求める場合、事前に仲裁事項と仲裁機関等を明確に約定する必要がある。当事者の間に明確で且つ有効な仲裁合意がない場合、裁判所の管轄となる。
しかも、渉外契約の場合、中国法律上に特別な制限がない限り、契約当事者は、紛争解決機関として、中国の裁判所または仲裁機関だけではなく、外国の裁判所または仲裁機関を選定することもできる。
したがって、日本の中小企業が中国のパートナー会社と契約を締結する場合も、日本での仲裁または訴訟を選定することができる。そして、日本の企業にとっては、中国の裁判所または仲裁機関の公証性に質疑があるという理由で、日本での仲裁または訴訟を望む傾向にあるが、将来の執行上の問題を考慮すると、中国で仲裁または訴訟を行うことが望ましい。
なぜならば、訴訟の場合、日本と中国は判決の相互承認と執行に関する条約を締結していないので、将来的に日本において勝訴判決を得たとしても、被執行者が所在する中国において、当該判決を執行できないからである。また、仲裁の場合、日本と中国は、「外国仲裁裁定の承認及び執行に関する条約」加盟しているので、日本の仲裁裁定は、一定の条件を満たせば、中国でも執行できる。但し、実務上、外国仲裁機関の仲裁裁定を中国で執行することは決して簡単なことではない。したがって、執行上の問題を考慮すると、やはり、中国での裁判または仲裁を約定することが得策である。

(5)契約の準拠法
中国法律規定によれば、渉外契約の当事者は、法律上別途規定がある場合を除いて、契約紛争に適用する法律を選択できる。
したがって、通常、日本の中小企業が中国のパートナー会社と契約を締結する場合、双方は協議の上、日本の法律または中国の法律を準拠法として約定することができる。準拠法は、契約紛争の解決に用いられるので、一般的には、紛争解決機関所在地の法律を選択することが望ましい。上記のように、執行上の問題を考慮して、日本企業と中国企業との間の契約紛争は、中国において解決を図るほうがよいので、準拠法も中国法律と規定することをお勧めする。

(6)中国法律上の強制規定への注意
意思自治の原則に従い、契約の大部分の内容は、当事者の間で合意に達することができればよい。にもかかわらず、契約の約定は、社会の公共利益を損害したり、中国の強制性規定に違反したりしてはならない。さもなければ、契約は無効とされるおそれがある。
そのため、日本の中小企業が中国のパートナー会社と契約を締結する場合、中国の強制性法律規定に留意する必要がある。特に、技術ライセンス取引を行う際には、中国で技術輸出入に関して幾つかの強制性な規定を設けているので、更に留意する必要がある。その点については、特に、中国の弁護士による確認が必要である。

(7)その他
日本の中小企業が中国のパートナー会社と契約を締結する場合、通常、日中両国語バーションの契約を締結するが、契約の解釈に違いがある場合に、優先的に適用するバージョンを明確に規定することが望ましい。
また、契約の発効日及び発効条件、契約条項の修正方法、契約の有効期限など、何れも明確に規定することが望ましい。
なお、契約での署名捺印についても、特に留意する必要があるが、責任者の署名と社印の押印の両方を取得することが望ましい。そして、中国では、責任者の署名よりは、社印をより重要視してるので、パートナー会社の社印を捺印してもらうことに留意する必要がある。
取引関係において、契約は、場合によっては、事業全体の存続にさえ影響を与えることもある。したがって、中国進出しようとする日本の中小企業にとって、事業を展開する前に、パートナー会社と取引開始前の関係が良好な時期に、しっかりと内容を吟味した上で、契約の締結を完了させておくことが重要だと考える。上記のように、契約締結に関する一般的な留意点を紹介したが、具体的状況に基づいて、更に契約各事項を検討・決定しなければならないので、契約の締結に関して、中国の弁護士と相談することをお勧めする。

おわりに

 以上、日本の中小企業が、中国に進出する際の方法と留意点について簡単にまとめた。中国への進出を考えている企業にとって、「信頼できる現地パートナーの確保」は、最も重要な課題と言える。しかし、信頼できる現地パートナーを確保しさえすれば、万事めでたしだと安易に考えてはならず、その後の各段階でも、しっかりした対応を講じていく必要がある。中国のビジネス環境及び商習慣に慣れていない日本企業にとっては、法律による武装、知財による武装こそ、複雑なビジネス環境下において、自社を守り、かつ、健全に発展できる道であると考える。勿論、中国での事業展開を軌道に乗せるためには、パートナー会社との信頼関係の樹立と維持も非常に重要であるので、常にパートナー会社の活動状況をフォローし、綿密なコミュニケーションの確立も必要である。本稿が、日本の中小企業の中国進出のための情報整備に、少しでも資することができれば、筆者としてこれにまさる喜びはない。

資料協力 北京林達劉知識産権代理事務所別タブで開く

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