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韓国の2014年改正商標法及びデザイン保護法と侵害事件の最新事情 トップページへ

2015年4月22日 掲載

韓国の2014年改正商標法及びデザイン保護法と侵害事件の最新事情

IV.知財権侵害の最新事件 商標権侵害事件

小犬形状のネックレス用ペンダントは商標権侵害ではない

1.基本情報

事件番号:大法院 2013.1.24.宣告 2011ダ18802判決
原審判決:ソウル高等法院 2011.1.19.宣告 2010ナ51989判決

2.事件の経緯

原告はフランス国籍の貴金属販売会社で‘貴金属製ネックレス’等に対する“※図1”の商標権者である。被告はクリスタル製品の卸・小売業を営む法人で、多国籍企業の国内子会社としてクリスタルでつくった小犬形状のネックレス用ペンダント“※図2”を販売した。
 これに対し原告が、2008年12月26日に被告を相手取ってソウル中央地方法院に商標権侵害禁止及び損害賠償を請求する訴を提起したところ、1審法院は原告の登録商標と被告の製品形状は類似し、被告の製品は商品出所表示としての機能も遂行していると判示して、原告の侵害禁止請求及び損害賠償請求のうち、一部金額を認容する判決を下した(ソウル中央地方法院 2010.4.29.宣告 2008ガ合130448判決)。
 しかし、被告の控訴による控訴審にて、ソウル高等法院は「原告の登録商標と被告の製品形状は非類似であり、被告製品の小犬形状はデザインとして使用されたに過ぎず、商品の出所表示又は識別標識として使用されたものではないので商標権侵害ではない」と判決した(ソウル高等法院 2011.1.19.宣告 2010ナ51989判決)。
 原告は大法院に上告したが、大法院は次のような理由で原告の上告を棄却し、原審判決を維持した。

3.判決の要旨

 原告の登録商標と被告製品の形状は、いずれも小犬を形状化したもので互いに類似する特徴があるが、原告の登録商標は2次元の平面形態であるのに対し、被告製品の形状はクリスタルをカッティングして製作された3次元の立体感のある形態である点、原告の登録商標の小犬は足を地面につけてじっとしている姿であるのに対し、被告製品の小犬は足を前後に伸ばして走っている点、原告の登録商標の小犬には首輪があり、その首輪の色相が胴体の色相とは区別されているのに対し、被告製品の小犬には首輪がない点、その他小犬のしっぽ、眉毛、耳、臀部の形態等にも細部的な点で差があるので、原告の登録商標と被告製品の形状は外観において類似するとは言えない。
 呼称においても原告の登録商標と被告製品の形状はいずれも「カンアジ(小犬)」と呼称される。しかし、小犬をモチーフとする多様な模様の図形商標は多数登録されている現況にあって、そのような図形商標が外観の類否とは関係なく、呼称と観念が類似するという理由のみで対比対象となる商標と全体的に類似すると見なされる場合、商標の類似範囲があまりに拡大され第三者の商標選択の自由が不当に制限されてしまうことを考慮するとき、原告の登録商標と被告製品の形状がいずれも「カンアジ(小犬)」)と呼称及び観念されるとしても、それだけで両者を類似すると断定することはできない。
 また、他人の登録商標と同一類似する標章を利用する場合といえども、それが商標の本質的機能である出所表示のためのものではなく、デザイン的にのみ使用された場合には登録商標の商標権を侵害したと言うことはできず、それが商標としての使用に該当するか否かを判断するためには、商品との関係、当該標章の使用態様、登録商標の周知著名性、そして使用者の意図と使用経緯等を総合して、実際の取引界にてその表示された標章が商品の識別標識として使用されているか否かを総合的に判断しなければならない。
 本件についてこれを見ると、被告製品のようなネックレス用ペンダントにおいて、そのペンダントの形状は主に視覚的、審美的効果を通して消費者の購買欲求を刺激する要素であり、ペンダントの形状自体が当該商品の出所表示のために使用されるとは言えない点、被告は原告の登録商標の出願以前から小犬をはじめ多様な動物を形状化したクリスタル材質のペンダントを製造・販売しており、被告以外の装身具会社も小犬形状を利用したネックレス用ペンダント等を広く製造・販売している点、原告の登録商標が国内一般需要者にある程度知られているとは推定できるが、被告の登録商標も国内一般需要者に相当に知られたものと推定できる点、被告製品の裏面はもちろん、被告製品の包装等に被告の登録商標が表示されており、被告の主要売場にも被告の登録商標が表示されている点、等を確認することができる。このような事実関係を考慮するとき、被告製品の形状は、デザインとしてのみ使用されたに過ぎず、商品の識別標識として使用されたとは言えない。

4.コメント

 商標権侵害禁止請求事件における商標類否の判断時には、商標の外観、称呼及び観念の形式的な比較にとどまらず、全体的に商品出所の誤認・混同を避けることができるか否か、総合的に実際の取引界で表示された標章が商品の識別標識として使用されているか否かを全て考慮しなければならない。このような点で本判決は指定商品である貴金属類に対し多様な模様の小犬図形商標が登録されている点、被告に意図的な模倣意志がない点、その他業界の実情等を十分に考慮した上で、両商標が相互に非類似であると判断した点で、妥当な説示であると言える。
 また、本判決は被告のペンダント製品形状が商標的に使用されたかを判断するために、被告のペンダント製品形状が使用された意図と被告製品の製造・販売形態及び経緯や、被告を含む多様な装身具会社が小犬形状のアクセサリーを長年に渡り製造・販売しているという実質的かつ具体的な取引実情に加え、被告の商号商標が国内需要者に相当知られている点、被告製品の包装、保証書、看板、その他被告の製品を販売するインターネットサイトで被告の商号商標が出所標識として表示されている点、等の事実関係も忠実に考慮しているので、製品形状が出所標識として使用されたか、それともデザインとして使用されたかを判断した既存判例が考慮対象とした諸要素に立脚して、被告製品と関連して具体的な事実関係を十分に考慮した妥当な判決であると言える。

(※図1
(※図2

資料協力 リ・インターナショナル特許法律事務所

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