東京都中小企業振興公社

no.175

経営者の覚悟を胸にプロの社員たちを支える

能田電気工業株式会社

社員が話しやすい雰囲気をつくろうと、井上氏は気を配っている。以前は社長室として使われていた部屋は会議室に切り替え、自らのデスクを社員たちと同じフロアに移し会話の機会を増やした。特に若手社員とは、積極的にコミュニケーションを取って悩みや希望を聞き取るようにしている。

歴史ある電気工事会社を突然引き継いだ

 能田電気工業は1931年創業の電気工事会社だ。主に手がけているのは屋内配線工事で、戸建て住宅から大規模なオフィスビル、宮内庁をはじめとする公的施設など多彩な案件を担当。また、1980年以来サンシャイン60の指定業者としてビル内に常駐し、電気施設のメンテナンスを行っている。
 代表取締役を務める井上有子氏は、創業者で井上氏の祖父である能田秀雄氏から数えて4代目の経営者である。会社は井上氏の父・舜二氏、兄の浩一氏へと引き継がれてきたが、2013年、浩一氏ががんを患ったことでピンチに陥った。「鹿児島県の屋久島で主婦をしていた私に、兄から『体調が悪いので、会社を手伝ってくれないか』と電話がきました。そのときは兄が亡くなるなんて思いもよりませんでしたし、週2~3日くらい事務仕事をすればいいのだろうと軽く考え、東京に戻ったのです。ところが、入社してから2年後の2016年に兄が亡くなってしまいました。そして私は、右も左も分からないまま、代表取締役に就任したのです」(井上氏)

同社には、先輩が後輩を親身になってマンツーマン指導する「ブラザー制度」がある。導入後、社員の定着率は大きく改善されたそうだ。

採用面接で生まれた経営者としての覚悟

 主婦だった井上氏には、経営や電気工事に関する知識がほとんどなかった。そのため、入社直後は「何も知らない人が入ってきた」などの反発も受けたそうだ。井上氏は書籍を読みあさったりセミナーに参加したりして必死に学んだが、当初は心の片隅に「私は手伝い」という思いがあったという。
 そんな井上氏の意識ががらりと変わったのは、高校生の採用面接に立ち会った時だった。「若い子が目をキラキラと輝かせながら『この会社で頑張りたい』と言ってくれる姿に、心を打たれたんです。兄の病状は思わしくありませんでしたし、会社の未来も決して明るいとは言えない状況でした。私が踏ん張らなければこの子たちの将来を潰してしまう。そう痛感したとき、急に覚悟が固まり、経営者としての視点が開けていったのです」(井上氏)
 これ以来、井上氏は以前よりずっと高い視座から物事を考えるようになった。社員の声にきちんと耳を傾けながら、同時に、全社的な視点に立って経営に取り組み始めたのだ。

働きやすい環境を整えて社員を後押し

 先代の兄・浩一氏は、強いリーダーシップで部下を引っ張るスタイルの経営者だった。一方の井上氏は、自らを「社員を後押しするタイプ」だと分析している。
「社員たちは皆、私が足元にも及ばないほど豊富な経験と高い技術を持つプロです。ですから私は、彼らの意見を吸い上げ、能力を思い切り発揮できる環境を整えることに徹しています。例えば以前、若い現場代理人(工事現場でスタッフを指揮し、プロジェクトを管理する役割)から『仕事量が多くてつらい』と相談されたときは、一緒に担当業務の再確認をし、工事で出た廃棄物の運搬業務を外注に切り替えるなどして負担の軽減に努めました。また、全ての現場代理人にiPadを持たせてすき間時間に仕事ができるようにしたり、池袋営業所と本社をSkypeでつないだりするなど、業務効率化や社内コミュニケーション強化にも取り組んでいます」(井上氏)
 井上氏が経営者として大切にしているのは「三方よし」の考え方。自社の利益は確保しながら、社員の待遇・労働環境を改善し、協力会社にきちんと対価を支払う。「そんな姿勢や誠実な仕事ぶりが評価されたのでしょうか、ある取引先から『請負額がこんなに安くて大丈夫なの? もっと高くても大丈夫ですよ』と言っていただいたことがあります。このときは本当にうれしかったですね」(井上氏)

法律関連など幅広い文書の作成効率を高めるため開発されたLAWGUEは、DXに取り組む企業や官公庁などに数多く採用されている。

事業承継塾を通じ生まれた経営者同士の絆

 井上氏は代表取締役就任直後、東京都中小企業振興公社が主催する「事業承継塾」を受講。経営戦略の立て方や組織づくり、企業会計などを学んだ。その後、事業承継塾卒業生を主体とした異業種交流会「東京コネクト」に参加している。「孤独になりがちな経営者にとって、東京コネクトのつながりは本当に有り難いですね。経営者仲間とのお付き合いを通じ、いろいろなことを学ばせていただいています。また、公社にBCP策定支援をしてもらったことにも感謝しています。災害が起きて当社が管理する施設に被害が出たとき、BCPの仕組みをきちんと整えていなければ社員に大きな負担をかけてしまうと教えていただき、目を見開かされた思いでした。
 今の目標は、私を補佐してくれる人材の育成です。公社の育成プログラム『経営人財NEXT20』などを利用して、私の右腕となってくれる社員を育てたいですね」(井上氏)

利用事業 : 事業承継・再生支援事業

事業承継の計画づくりや実行上のアドバイスを継続的に行う支援を行います。「事業承継塾」は、都内中小企業の後継予定者、または承継後間もない方を対象とした後継者育成講座です。
お問い合わせ 総合支援課 TEL 03-3251-7885
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/revival/index.html

バックナンバーを見る