東京都中小企業振興公社

no.176

研究機関を支える技術力で 事業拡大に挑戦する

代表取締役の小野芙未彦氏(右)と息子の真徳氏が手にしているのは、小野電機製作所が特許を取得している「三次元的動作機構構造体」。一般的な2軸ジンバルと異なり、2台のモーターを一か所(基部)に格納できる構造にすることで、通常のジンバルでは対応が難しい用途での使用を可能とした。

数多くの研究機関・企業に試作品を納品

 小野電機製作所は1938年に創業。1980年代後半に3代目社長の小野芙未彦氏が技術部を設置したのを機に、ロボットや各種装置の受託製造を主に手がけるようになった。2014年にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)から委託されて惑星探査用ロボットの「健気(けなげ)」を開発するなど、数多くの企業・大学・研究機関に“一点モノ”の製品を納めている。「当社の強みは大きく分けて3つあります。1つ目は、幅広い分野のロボット・各種装置を開発した実績があること。熟練の技術者が最新の工作機械を駆使し、お客さまの要望に応じた多彩な製品を作る実力があります。2つ目は、設計から製作、組み立て、調整までワンストップで行えること。複数の企業が分業する場合に比べ、よりスピーディーな開発が可能です。そして3つ目が、大手企業の研究開発部門や大学の研究室などから直接受注をいただいていること。『最先端研究開発支援モノづくり企業』として評価されることで研究者の方々からご紹介をいただき、そこから新たな顧客を開拓できています」(芙未彦氏)

慶應義塾大学との共同研究により開発した、マスタースレーブ操作型ロボットアーム「ハプティクスプラットフォーム」

後継者が中心となって事業拡大に挑戦する

 先端技術と、顧客の要望をかなえる提案力とを兼ね備えた試作品メーカーとして確固たる地位を築いてきた小野電機製作所だが、2020年以降は自社開発製品にも力を入れている。背景にあるのは、コロナ禍による外部環境変化への危機感だ。「当社の強みを活かし、賃加工だけでなく、より付加価値の高い設計案件に注力しています。コロナ禍による影響を受けていますが、この逆境を乗り切るためには、自社製品開発を含めた事業拡大に挑戦する必要があると考えています」(芙未彦氏)
 事業拡大においてリーダーシップを発揮しているのが、芙未彦氏の息子で、後継者として期待がかかる小野真徳氏だ。「現在は慶應義塾大学と共同で『マスタースレーブ操作型ロボットアーム』の開発に取り組んでいます。従来のロボットアームは対象にあわせて力を加減するのが難しかったのですが、当社の製品は、モノの硬さを判断して適切な力を加えることが可能です。例えば柔らかい果物を潰さないようにするなど、人間の手のように繊細な作業ができます」(真徳氏)

若手のやる気を伸ばすため設備投資に注力

 現在29歳の真徳氏を含め、全社員の約4割が20~30代という小野電機製作所。若手のモチベーションを高めるため、芙未彦氏が注力しているのは設備投資だ。
 航空・宇宙分野などでは高度な加工が求められるため、東京都中小企業振興公社(以下、公社)の助成金を利用して最新の5軸複合加工機を導入した。
「費用を惜しんで安い機械を入れた結果、機能面で不満を感じると、社員たちのやる気はどうしてもしぼんでしまいがちです。ですから、現場から機械の導入要請がきたときは、できるだけ高スペックなマシンを入れるようにしています。好きな機械を自分たちで選び、職場で存分に活用させる。そういう環境を与えれば、社員に責任感が芽生え、自然とモチベーションが高まり、成長していけるのではないでしょうか」(芙未彦氏)
 芙未彦氏は目先の売り上げにこだわらず、将来を見据えて顧客や協力企業などとの長期的な信頼関係を大事にしている。「当社が80年以上も継続してこられたのは、多くの方々とのご縁に恵まれたから。これからも、ご縁を大切にして事業展開をしていきたいと考えています」(芙未彦氏)

法律関連など幅広い文書の作成効率を高めるため開発されたLAWGUEは、DXに取り組む企業や官公庁などに数多く採用されている。

デザイン経営スクールで未来の経営力を学んだ

 真徳氏は2020年、公社が開催した「デザイン経営スクール」に参加した。「デザインを取り入れた経営に興味があった私は、公社のメルマガでスクールの存在を知り参加しました。全10回の講座ではビジネスモデルの立て方やブランディングだけでなく、経営者自身がデザインの上流に関わっていく心構えも身につけられました」(真徳氏)
 小野電機製作所では他にも、「知的財産戦略導入支援事業(ニッチトップ)」や「成長産業等設備投資特別支援助成事業」などの公社サービスを利用している。「中小企業が経営指導・支援を受ける機会はそれほど多くありません。そうした中、無料で経営相談を受けられたり、協力企業や見込み客を紹介してくれたりする公社は、とても頼りになる存在だと実感しています」(芙未彦氏)

利用事業 : デザイン経営支援事業

企業のデザイン力を高め、新たな製品やサービスを生み出すための各種支援(スクール、セミナー、デザイン相談等)を行っています。
お問い合わせ 総合支援課 TEL 03-3251-7917
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/design/index.html

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