東京都中小企業振興公社

no.182

攻めのコラボで唯一無二を生み出す

代表取締役の山田明良氏は、中小企業の「デザイン経営」には時間が必要だと考えている。「もし商品が一時的に話題を呼んでも、すぐに経営が上向くわけではありません。デザインの力で会社が変わるまで、10年くらいはかかると思います」(山田氏)

オリジナルのヒット商品を生み出す紙器会社

 印刷や紙の加工などを手がける福永紙工は、ユニークな紙製品を世に送り出している企業である。例えば、薄い紙を広げて形作る「空気の器」は、花瓶や皿など形を自由に変形できたり、見る角度によって色合いが変わったりする点が人気を呼び、同社の名前を一躍有名にした。また、紙の建築模型である「テラダモケイ」、ペーパークラフトシリーズの「gu-pa」などもヒットしているし、2016年には、大人気マンガ『スラムダンク』の作者である井上雄彦氏と取り組んだ「イノウエバッジ店」も話題となった。
 そんな福永紙工だが、以前は顧客から頼まれたままに紙のパッケージを印刷・加工する印刷会社だった。
「当社には優れた技術がありますが、以前は下請けとしての仕事しかしていませんでした。だから価格競争に巻き込まれがちでしたし、従業員は仕事への誇りも持ちづらかったのです。さらに、印刷業界は紙の需要が減って厳しい状況。そこで、もともとアートやデザインが好きだった私は、『従来のやり方を続けていては先細り。現状から抜け出すため、デザインを活用してブランド力を上げ、顧客と直接取引できるよう変わろう』と周囲を説得しました」(代表取締役 山田明良氏)

立川駅近くの「GREEN SPRINGS」内にある福永紙工が企画・運営するショップ「TAKEOFF-SITE」では、自社製品以外に、多摩地区にゆかりのある作品も販売中だ

自社でまかなえないことは他社の協力を仰ぐ

 2005年、山田氏は国立市のデザインディレクターと出会って意気投合。そして翌2006年、「かみの工作所」という名のプロジェクトを立ち上げ、社外クリエイターのアイデアを福永紙工の技術で実現するスタイルで製品づくりを始めた。
「作品を展示すると、思っていた以上に良い反応が得られました。それで本格的に販売を開始し、以降、クリエイターとの協働プロジェクトが社内に定着したのです」(山田氏)
 社外とのつながりを最大限に生かしたことが、福永紙工がヒット商品を生み出せた要因のひとつ。山田氏はさまざまなイベントや展示会に通い、クリエイターとの出会いを求めた。また、他社とのコラボにも積極的に取り組んだという。
「『~の仕事しかしません』というスタイルでいると、声をかけてくれる人・企業はおのずと限られます。そこで当社は、紙にかかわる仕事なら何でもやると明言しております。もちろん、当社は中小企業で経営資源には限りがありますが、自社でまかなえない部分は他社に協力を仰げばいいと考えたのです。また、とがったモノ、面白いモノをつくり続けることで、他社から声をかけられることも増えました。そうして社外とのネットワークを築いたことで、業界の枠にとらわれないものづくりが可能になったのです」(山田氏)
 こうした取り組みの結果、福永紙工では下請け仕事から抜け出した。現在は、自社製品の企画・製造・販売と、企業と対等な立場で進めるクライアントワークだけで経営が成り立っている。

儲けより「たたずまいの美しい企業」を目指す

 売り上げだけではなく、社会貢献度などの指標で企業を評価するやり方があってもいいというのが、山田氏の考え。
「私たちが目指しているのは、『必需品ではないが必要なモノ』です。大量消費材ではないが、暮らしに楽しさや潤いをもたらすものを開発しています。
 これまでの日本では右肩上がりに成長している企業が良いとされていましたが、そういった価値観も、少しずつ変わりつつあると思います。今後は成長より、社会や人にどれだけの幸せを届けられたのかなどの観点が重視されるのではないでしょうか。私自身も、いくら儲かっても、美しいと思えない仕事はあまりやりたくありません。そうして、より『たたずまいの美しい企業』を目指すことが、私の目標なのです」(山田氏)

BtoB向けのプロジェクト「UNBOX」。デザインとサスティナブルの両側面で紙箱の可能性を広げようとしている

海外での知的財産保護のため知財センターを利用

 福永紙工は近年、蔦屋書店と提携して中国など海外市場への進出を行っている。この際に役立っているのが、東京都知的財産総合センター(以下、知財センター)の支援だ。
「中国におけるデザイン意匠の手続きや、商標申請に関するレクチャーを知財センターにお願いしました。海外で先に商標を取られると大変な問題になりますから、わかりにくい手続きについて具体的に指導してもらったのは大変ありがたかったです。また、社員教育の一環として、知財センターのアドバイザーが知財戦略関連の知識を授けてくれる『ニッチトップ育成支援事業』にも参加中です。自社製品の模倣などを防ぐため、今後も取り組みを進めるつもりです」(山田氏)

利用事業 : ニッチトップ育成支援事業

都内中小企業が知財戦略導入をした経営を行えるようになるため当センターのアドバイザーが最大3年間の継続的な相談・助言等を行う実践的な支援です。
お問い合わせ 東京都知的財産総合センター
TEL 03-3832-3656
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/shien/nichetop_ikusei.html

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