東京都中小企業振興公社

no.196

自慢の設計力で海外に飛び出す

代表取締役社長 中瀬 勲氏が操作しているのは、生産ラインから出てくるすべての製品の検査を行う機械。傷や打痕、異物混入、リークテストなど、一連の確認作業をすべて自動的に行える。こうした自動化システムを幅広い業界に提案することで、河政工業は売り上げを大きく伸ばしてきた

工場の自動化システムを開発する企業

 河政工業は1930年の創業当初から、金属板に圧力を加えて凹状にする「深絞り加工」で日用品や文具、機械部品などを作ってきた企業だ。しかし、1990年代に入って多くの日本メーカーが工場の海外移転を進める中で、同社の業績も厳しくなっていった。
 潮目が変わったのは、現社長の中瀬 勲氏が入社した2001年以降。同社は、工場に自動化システムを提案する「エンジニアリング事業」に取り組み始めた。
「中学時代に父が経営する河政工業でアルバイトをし、『職人さんの仕事を自動化すれば、作業効率がもっと高まるのになあ』と感じたのが、私の原点です。それで専門学校で機械設計を学びエンジニアリング会社に就職。知識と経験を身につけてから河政工業に入社しました。深絞りの仕事が激減する中、私は前職でお付き合いのあった方々に機械設計の案件をいただき、徐々に自動化システムの仕事を増やしていったのです」(中瀬氏)
 同社の自動化システムは自動車業界や航空宇宙業界、医薬品業界などで採用され、幅広い顧客と共働する中でさまざまなノウハウと柔軟な対応力を身につけることに成功した。現在のエンジニアリング事業は全売上額の95%を占める、同社の大黒柱となっている。

いち早く経験を積むため海外進出を加速

 河政工業は2013年から、海外進出を本格化させた。きっかけは、国内展示会への出展だったという。
「トルコのコンサルティング会社から『我が国ではいまだに手作業のものづくりが主流だから、一緒に自動化システムを売れば絶対にウケる』と声をかけられました。さまざまな事情があってトルコでのビジネスは実現しませんでしたが、海外でも自動化のニーズは大いにあると手応えを感じたのです」(中瀬氏)
 2017年、河政工業はタイの展示会に相次いで出展。現地企業とのつながりを得られたことで、海外から部品を輸入して組み立てた製品を、また海外に輸出するという流れができあがった。また、2024年3月にはベトナム・ハノイで初の海外生産を開始する予定。生産拠点の開設準備を進めている。
「海外で生産する方がコスト的に有利ですし、現地の日本企業に対してもサポートがしやすい。そして何より、少しでも早く進出して経験を積んでおこうと考えたのが、海外に出た最大の理由でした」(中瀬氏)

従業員の平均年齢は30代半ば。特にエンジニアリング事業では、若手の設計担当者が活躍している

製造業でも顧客に感動を与えるべし

 海外の顧客とやり取りする時、価格と性能の折り合いをつけるのはかなり難しい作業だ。
「こちらは性能が良く信頼性の高いモノを提供したいのに対し、海外企業からは値段の安さを求められます。向こうの事情をくみ取り、性能と価格のバランスを取ることを、いつも大切にしています」(中瀬氏)
 ビジネスでは、相手に驚きや感動を与えることも大切だと中瀬氏は考えている。きっかけは、学生時代にしたフレンチレストランでのアルバイト経験だった。
「お客さまの中にある言語化されていない要望をかなえ、心を動かす。それはサービス業だけでなく、製造業にも求められることだと思います。そのためには、とにかく提案を繰り返すこと。相手が関心を示したらそこからさらに深掘りし、相手のモヤモヤした課題感を解決することで次の受注につなげます」(中瀬氏)

METALEX展(2018年 タイ・バンコク)で現会長の中瀬鐘太郎氏と。河政工業では3~5年以内に海外売上比率を3割程度に高める方針だ

海外進出時に手厚いサポートを受けた

河政工業はこれまで、多くの公社事業を利用してきた。中でも有意義だったのが、「海外拠点設置等戦略サポート事業」や「海外企業連携プロジェクト事業」といった、海外進出を支援するサービスだったと中瀬氏は振り返る。
「公社の支援を受けて海外展示会に何度も出たおかげで、現地での販路が開けました。また、商談会への参加や、現地企業とのマッチングなどをサポートしていただいたのもありがたかったです。さらに海外での商標登録や、『革新的事業展開設備投資支援助成金』による最新機械導入の助成まで、公社には幅広く手助けしてもらっています。海外進出を考えている企業であれば、ぜひ公社の支援を仰ぐべきです」(中瀬氏)

利用事業:海外企業連携プロジェクト

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