東京都中小企業振興公社

no.197

IT専門の社員と共に社内のデジタル化を加速

代表取締役社長の石原康裕氏がかけているのが独自に開発したピッキングシステムのスマートグラス。画面に品番や在庫数などを表示できる。「計数ばかりとの往復が不要でピッキング作業での移動時間が半減、ミスも減りました。今後もAIやIoTなどを活用し、作業効率を高めるつもりです」(石原氏)

多彩なコントロールケーブルを製造する企業

 石原金属化工の主力製品である「コントロールケーブル」は、 押したり引いたりした力を離れた場所に伝えるケーブルのこと。わかりやすいのが自転車のブレーキで、タイヤに抵抗を加える部品にブレーキレバーを引いた力を伝えるのが、コントロールケーブルの一種である「ブレーキケーブル」の役割だ。現在の石原金属化工では、農機具や産業機器、住宅機器、船舶などに使われるコントロールケーブルを手がけている。
 コントロールケーブルの国内メーカーは10~20社程度。その中で、石原金属化工の強みは対応力の高さにあると、代表取締役社長の石原康裕氏は語る。
「コントロールケーブルは、引く力を伝える『プルケーブル』、押し引き両方の力を伝える『プッシュプルケーブル』、回転する力を伝える『ロータリーケーブル』に大別されます。当社はこの業界では珍しく、3種類すべてを自社生産。そのため、お客さまに合ったケーブルを柔軟に提案できると自負しています」(石原氏)

1990年代からデジタル化を積極的に進める

 銀行員だった石原氏は1990年、父・正之氏が経営する石原金属化工に入社。直後からExcelやAccessを活用し、部品や取引先企業などの情報を独力でデータベース化したという。
「当時の私たちは多くの中小企業と同様に、全情報を紙ベースで管理していました。それがあまりに面倒で、生産管理のデジタル化を進めたのです。原動力は、『楽をしたい』という思いでした(笑)」(石原氏)
 デジタル化に熱心な同社は2019年、AR(拡張現実)技術を活用したピッキングシステムを開発。以前は、タブレット端末につないだバーコードリーダーで品番を確認し製造に必要な部品を集めていたが、メガネのようなスマートグラスの画面上に品番などの情報を表示させ、さらに自社製作の「電気ばかり」と組み合わせることで、素早く確実なピッキングを可能にした。
「電気ばかりで部品の重さを量って点数が短時間で分かる仕組みを作ろうと言い出し、試作品を完成させたのは総務課の社員でした。当社の社員は、皆が知恵を出し、小学生が夏休みの宿題に取り組むようにして仕事に役立つ機材を作ってしまうのです」(石原氏)

社員の提案で作られた、乗せるだけで部品点数がわかる電気ばかり。全員が開発に積極参加する社風がある会社だ

IT専門家が社内にいる利点を活かす

 石原金属化工は社員数30人の企業だが、ITの専門知識を持った社員が1人いる。
「中小企業にITの専門家がいるのは、珍しいことかもしれません。でもシステム開発を外注する費用を考えれば、彼の人件費は十分に見合っていると思うのです。また、システムを少しだけ手直ししたいとき、他社に頼むとかなりの時間がかかりますが、彼に頼めばすぐに済みます。デジタル化を加速できるのも、IT専門家がいる大きな利点でしょう」(石原氏)
 同社は近年、部品の輸入販売業や、ケーブル以外の中間組み立て品の製造にも進出してきた。
「当社ではケーブルなどを作るため、4000点以上の部品に触れています。そのノウハウを生かして商社事業にも乗り出し、現在は全社の売り上げの4割まで高めました。今後はケーブル以外の製品をどんどん生み出し、利益を増やしたいですね」(石原氏)

納期などが一覧できるモニターを工場内に設置。製品ごとの進捗状況を見える化したことで納期遅れは激減した

公社の交流会は経営者にとって貴重な存在

 石原金属化工は2021年から公社の「生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業」を利用している。
「公社から派遣されたデジタル技術アドバイザーには、他社の成功事例を教えてもらったり、現場が抱えているモヤモヤした悩みの解決方法を提案してもらったりしたものです。これらは社内の専門家だけではカバーしきれない分野なので、とても助かりました。また、公社異業種交流グループ『グローバルTOKYO』に参加できたのも大きかったです。銀行からの借入利率から助成金に関する情報、事業に関する悩みなどを本音で相談し、共感し合える仲間ができたおかげで、良い影響も受けましたし支えられもしました」(石原氏)

利用事業 : 生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業

ICT、IoT、AI、ロボット等のデジタル技術の導入・活用に関する総合的な支援を実施することで、生産性向上に資する取り組みを支援する事業です。アドバイザーが現地調査を行って全社的・経営的な視点から課題を明確にした後、デジタル技術の導入から活用までを一貫して支援します。
【お問い合わせ】 総合支援課 デジタル技術活用推進担当
TEL 03-3251-7917
https://iot-robot.jp/

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