東京都中小企業振興公社

no.202

「人柄の良い設計」で顧客の要望に応える

代表取締役の土屋さおり氏(写真右)は、舞台女優や司会業、専業主婦などを経て社長に就いた。自らの知識が不十分であることを逆手に取り、「わからないことがたくさんあるので、ぜひ教えてください!」というスタンスで営業を行い、その結果、多くのお客さまをつかむことに成功した

お客さまの立場になって装置を開発する

 コーダ電子は、回路、基板、FPGA、ソフトウェア、筐体等、ものづくりに必要な設計を全て社内で対応している。顧客からの要望に応じ、産業用検査装置等の開発・設計から製造・組立までの受託開発をしている企業だ。
 技術力と対応力を評価され、他社の自社製品や1点物の装置開発などを手掛ける。最大の強みは「人柄の良い設計」ができることだと代表取締役の土屋さおり氏は語る。
「例えば仕様書に不明な点や懸念点があった場合、製品の仕様から判断し、追加の仕様やケーブルが必要なのではないかというご提案をさせていただきます。言われた通りにやるだけではなく、社員全員がお客さまの立場に立って開発を進める社風です」(土屋氏)
 そうした社風を作るため、土屋氏は採用時に、応募者が気遣いできる人かどうかを必ず確認する。また、全社員に毎日声をかけるなど、日頃から社内の風通しを良くする取り組みも行っている。「品質の良い製品を開発できているのは、高い技術力を持ち、お客さまの立場に立って開発する、気遣いのできる社員がいてくれているから。彼らが働きやすい環境を整え、ものづくりに集中できるようにするのが私の一番の仕事です」(土屋氏)

知識不足を開き直りお客さまの懐に飛び込む

 土屋氏が実父から経営を引き継いだ2013年、コーダ電子の業績は最悪だった。他業界でキャリアを積んでいたために技術的知識や営業経験が皆無だった土屋氏だが、新規顧客開拓を目指して営業活動に出た。
「会社の主力だった半導体関連の仕事が激減しており、就任当時、会社の経営は酷いものでした。とにかく仕事を取らなければと思いましたが、社長として営業に行くのは自信がなかったので「営業」と小さく書かれた名刺を持って外に出ました。ですが途中で、営業でも社長でもやることは何も変わらない!会社はこれ以上酷くはならない!と開き直り、『社長です。でも何もわかりません!是非お話聞かせてください!』と既存・新規の会社さんにアポを取り年間100社以上ご訪問させていただきました。色々な方とお話をしていく中で、私自身も、自社の業務内容や強み、業界の動向を理解していきました。
 その時に心掛けたことは、「仕事をください!」ではなく、まずは私自身がどんな人間で、どんな哲学で経営をしているかをわかっていただくということでした。良い関係を築く、遠回りに思えるかもしれませんがこれが一番の近道です」(土屋氏)

スタッフが半自動圧着機を使って加工している様子。高い技術を持つ技術者たちが、この会社にとって最大の財産だ

1回目の訪問時に「2回目の訪問」の理由をつくる

「初訪問のお客さまには、『当社についてお話しさせてください』とお伝えしてアポを取ることができます。関係性ができた後の訪問は簡単ですが、一番難しいのは2回目です。
 私の場合は、1回目訪問時に『来月にケーブルの圧着機をまた改めてご説明させてください』とか、次にも訪問しますよとアピールをします(笑)」(土屋氏)
 メディア出演や、年に1回つくっているTシャツ等のノベルティも訪問するためのツールだ。
 9月には40周年を迎え、HPもリニューアルする。また、会社のゆるキャラ【コーダ君】を、色々なアーティストにつくってもらい、それらをお披露目するイベントの開催を予定している。

コーダ電子が展示会用に製作したカラフルで大きな基板。土屋氏はお客さまへのアピール方法を常に意識している

自社の売上だけでなく、業界全体を盛り上げる

 どんな要望にも『できない』と言わないことがモットーのコーダ電子だが、案件の内容によってはつながりのある会社を紹介することもある。
「人柄の良い設計をしてくださる、私が信頼できると思った会社さんにお話をさせていただいています。その際は、紹介料はいただきません。予算がない中で、みんな必死に少しでも良いものをつくりたいと思っている。紹介料を開発費に回せれば、更に良いものができるでしょ。会社の売上を上げることも大事だけど、業界全体が盛り上がってくれることも大事なので」(土屋氏)
 会社の売上だけではなく、業界全体のことを考え行動し、お客さまとの信頼関係を丁寧に重ねた結果、コーダ電子の売上は10年間で十数倍に増えるほどのV字回復を遂げた。

新技術創出交流会で横のつながりを持つ

 コーダ電子は、展示をしながら大企業と商談できる「新技術創出交流会」に参加。土屋氏は、ブースに立ち寄った方に手書きのお礼状を出してつながりを持ったという。
「大手企業さんだけでなく、交流会に出展している会社さんと横のつながりを持てたことが一番の魅力です」(土屋氏)
 公社はもっと積極的に「公社では何ができるか」を発信するべきだというのが土屋氏の意見だ。
「困った時にはそれを解決できる会社さんをご紹介いただきました。支社にある3Dプリンターを無料で使わせていただき、試作品開発の際はとても重宝しました。でも、そのようなことをやっていただけると知らない経営者さんがたくさんいらっしゃって、とてももったいないと感じます。困ったら公社に相談できる!という安心感で中小企業の経営者を支えていただきたいです」(土屋氏)

利用事業 : 多摩イノべーション総合支援事業

「新技術創出交流会」、「随時マッチング」、「個別面談会」の開催など、ユニークな技術を持つ都内中小企業とオープンイノベーション志向の大手企業等とのマッチング支援を行います。支援を通じて、都内中小企業による成長産業等への参入、新分野展開、新たな技術・製品開発等を促進し、東京発のイノベーション創出に取り組みます。
お問い合わせ 多摩支社
TEL 042-500-3901
https://tama-innovation.jp/

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