東京都中小企業振興公社

no.204

競争ではなく「共創」で新市場を拓く

エアロネクストの代表取締役CEOを務める田路圭輔氏(写真一番右)は電通在職時、日本初の電子番組表「Gガイド」のサービス立ち上げに携わった。このとき、知的財産をビジネスに活かす面白さを知ったのが、ドローンビジネス立ち上げのきっかけの1つになったそうだ

荷物を安定して運べるドローンの技術を開発

 宅配便などのニーズが増える一方、トラック運転手の不足が深刻化している物流業界では、配送にドローンを活用する取り組みに注目が集まっている。こうした中、物流向けドローンの研究開発を手掛けるスタートアップとして2017年に創業されたのが、田路圭輔氏が率いるエアロネクストだ。
「一般的なドローンは、プロペラやモーターといった『飛行部』と、荷物を載せる『搭載部』が一体化されています。そのため、ドローンが方向を変えたり風を受けたりすると、荷物も大きく傾いてしまうのです。一方、当社が特許を取得している技術『4DGRAVITY®』は、飛行部と搭載部を分離して『ジンバル』と呼ばれる機構でつなぐ仕組みです。これならドローンが傾いても荷物は傾きませんから、ラーメンなどもこぼさずに運べます。さらに、ドローンの重心が安定するため、燃費や飛行速度も高まるのです」(田路氏)

量産や販売は他社に任せてリスクを最小化

 エアロネクストが行うのは、ドローンの技術開発から試作まで。量産や販売は外部の企業に任せている。
「理由は2つあります。1つ目は、複数のメーカーに技術を提供し量産化してもらうことで、市場を急拡大したいから。2つ目の理由は合理性です。正解がわからない市場で自社製品にこだわって失敗を重ねるより、いろいろな企業が競い合う中で『強い製品』が生まれるのを期待する方が理にかなっているのです」(田路氏)
 自社工場などの資産を持たず、リスクを最小限に抑えるのが田路氏の経営方針だ。ただし、1つだけ例外を設けた。それが、2021年に設立した100%子会社のドローン配送サービス会社「ネクストデリバリー」だ。
「技術を確立して特許を取っても、それだけで市場が成長するわけではありません。特に、ドローンのような新市場では、多くの企業が参入して事業化するまで長い時間が必要なのです。そこで、私たちが自ら見本を示すため、事業会社を立ち上げました。既にいくつかの企業や地方自治体などと協力し、ドローン物流の成功事例を生み出しています」(田路氏)

独自の機体構造設計技術『4D GRAVITY®』により、機体が傾いても荷物は水平を保つ、安定性とエネルギー効率を両立した飛行を実現

興味を持たれない市場にこそ可能性がある

 田路氏のポリシーは、他社と争わないこと。互いに潰し合うより、多くの企業に技術供与して市場拡大を早める方が、自社の利益につながると考えている。
「私たちの役割は磁石のようなものです。圧倒的に優位な技術力で大企業を含めたパートナーを引きつけ、短期間でドローン物流を普及させたいですね」(田路氏)
 競争のない環境で新事業を始めるには、「興味を持たれていない市場」に注目することが必要だと田路氏。
「多くの企業が有望視している市場では、激しい競争が起こります。一方、誰もが『とても儲かりそうにないな』『手間ばかりかかって大変そうだな』と敬遠する市場にこそ、大きなポテンシャルがあるのではないでしょうか。私は昔から他人と違うことを考える習慣が身についていたのですが、それが新市場を見極めるために役立っているのかも知れません」(田路氏)

山梨県小菅村など過疎化や高齢化に悩む地域でドローンによる定期配送が始まっている

特許を外国出願する際、公社は強い味方

 エアロネクストは知的財産に関わる業務を社外弁理士などに外注せず、すべて内製化している。
「エアロネクスト単体で17人いる社員のうち、知財部所属者が5人。そのうち2人は弁理士の資格を持っています。私たちは技術とその特許で成り立つ会社なので、社内に専門家を置き、常に特許を磨き続ける必要があるのです」(田路氏)
 同社は公社の事業可能性評価事業、外国特許出願費用助成事業などを利用した。
「当社の特許は、欧米、中国でもビジネスを展開するため外国出願を行っています。各地で手続きをする際の手間や出願書類の翻訳コストといった負担はかなり重いのですが、これらを公社に支援していただいているのが本当に有り難いです。グローバル市場で知財を武器に事業展開したい企業なら、ぜひ公社を利用すべきだと思います」(田路氏)

利用事業 : 外国特許出願費用助成事業

優れた技術等を有し、かつ、それらを海外において広く活用しようとする中小企業の方に対し、外国特許出願から中間手続に要する費用の一部を助成します。
お問い合わせ 東京都知的財産総合センター
TEL 03-3832-3656
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/tokkyo/index.html

バックナンバーを見る