東京都中小企業振興公社

no.206

お客さまから「選ばれる理由」をつくろう

東商ゴム工業代表取締役社長の末永大介氏(写真一番右)は、トライアンドエラーから得られたノウハウこそが会社の財産だと語る。「何度も挑戦して貴重な技術を確立してくれる社員は、会社にとって本当に貴重な存在。彼らを支えるのが、経営者の役割だと思っています」(末永氏)

一貫生産でゴムローラーを手掛ける

 東商ゴム工業は、OA機器などさまざまな機械で使われる「ゴムローラー」の製造を得意とする企業だ。自社工場での一貫生産体制により、試作品から大量生産品まで柔軟に対応可能。また、医療・介護・航空など幅広い業界の企業と共同開発し、豊富なノウハウを蓄積している点も強みだ。だが代表取締役社長の末永大介氏は、以前から強い危機感を覚えていた。
「一貫生産体制や技術力だけでは、競合との差別化が難しくなる一方でした。そこで生き残りを図るため、お客さまから『選ばれる理由』をつくろうと試行錯誤を始めたのが、約10年前のことです」(末永氏)
 末永氏がまず心がけたのは、自社を売り込み商談の機会を増やすため、とにかく多くの人と出会うこと。
「ネット全盛の現代でも、直接顔を合わせて信頼を得るのが商売の基本。私は種まきのつもりで、展示会や商談会などであいさつをし続けました」(末永氏)

試行錯誤を重ねレコード用カートリッジ用部品を開発

 人との縁を広げる中で末永氏はあるカートリッジメーカーから声をかけられ、カートリッジの内蔵部品である「ダンパーゴム」を開発することとなった。
「レコードは表面に掘られている溝を針がなぞり、その振動を音に変換する仕組みになっています。このとき、ダンパーゴムの材質や形によって音の良し悪しが大きく変わるのです。私たちはゴムの配合や加熱のやり方などを何度も試行錯誤した結果、ついにお客さまにご満足いただける製品を生み出せました」(末永氏)
 東商ゴム工業製のダンパーゴムが採用されたカートリッジは、1個数十万~百数十万円もする超高級品。高額なだけに、要求されるレベルも高い。
「ある製品は、完成まで4年以上もかかりました。開発の苦労は並大抵ではありませんでしたが、その分だけ競合他社とのリードを広げ、『選ばれる会社』に近づけたのではないでしょうか」(末永氏)

東商ゴム工業は、1966年の創業から積み重ねた技術とノウハウで顧客の課題を解決する「ゴムのコンサルタント」だ

価格改定と新素材「フリーゴム」に挑戦中

 東商ゴム工業は近年、新たな取り組みを2つ始めたという。1つ目は、不採算品の価格改定である。
「コロナ禍直前の当社では、約800種類ある製品のうち180種類くらいは採算割れを起こしていました。商売上仕方ない側面もあったのですが、これではいけないと値上げ交渉に踏み切ったのです。その際、お客さまにお伝えしたのが『社員を大事にしたい』という信念でした。当社は営業利益の3分の1を社員に還元していて、彼らの頑張りに報いるため正当な金額をいただきたいと主張したのです。値上げにより取引額が下がった取引先もありましたが、全社的な利益は増え、従業員の給料アップを実現できました」(末永氏)
 もう1つの挑戦は、同社オリジナルのシリコーン製ゴム材料を使った「フリーゴム」だ。これは、ゴムを粘土のような感覚で形作り、オーブントースターなどで加熱して好きな形に仕上げられるもの。
「現在はジュエリーメーカーと一緒に宝飾品を作るなど、他社とのコラボによって製品化を模索している段階です。また、子どもやクラフト好きな大人などを対象にしたワークショップを開催するなどして、製品の認知度アップを目指しています」(末永氏)

「フリーゴム」は特殊な成形機などを使うことなく、気軽に楽しくクラフトできる新素材として注目されている

公社の専門家から得られる助言には重みがある

 同社はこれまで、事業継続の支援が得られる「事業承継・再生支援事業」や、技術アドバイザーの派遣などが受けられる「生産性向上のためのデジタル技術活用推進事業」といった公社サービスを利用してきた。
「事業承継・再生支援事業では、公社から派遣された専門家の方から経営の管理手法に関する助言を数多くいただけたのが本当に役立ちました。『不良率が○%上がると原価が×円も余計にかかる』などわかりやすく教わったことで、社員の数字に対する感覚は、以前よりずっと鋭くなったと感じます。また、社外のプロからいただく言葉にはやはり重みがあり、現場スタッフの意識改革につながりました」(末永氏)

利用事業 :事業承継・再生支援事業

将来への事業継続に向けた承継計画づくりや実行上のアドバイスなど継続的に支援します。また、売上の維持・向上や資金繰りの改善などを通じた事業の磨き上げについても、公正中立な立場から、経営者の方が具体的に取り組みやすい支援を行います。
お問い合わせ 総合支援課
TEL:03-3251-7885
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/revival/index.html

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