63(5)物語性(Story)に基づく発信「情報は伝言ゲームを繰り返す中で薄まっていく」と言う法則は、誰もが日常の経験の中で感じているものです。組織においても、元の情報から多かれ少なかれ本来の情報とは異なるものに変化するものです。この情報とは単なる情報だけではなく、企業・経営者の熱意や価値観、あるいは危機感と言ったものも内包されます。必要な情報や意志が組織全体に共有されなければ前述した「戦略策定・推進力」や「業務遂行・実践力」の発揮を望むべくもありません。したがって、専門性の高いキーワードを自らの言葉で易しく翻訳し、「物語性」を意識した工夫が必要となります。ここで言う「物語性」とは、従業員の心を動かし、共感を呼び、求心力につながる機能を意味します。物語の持つパワーは、ある事柄が自分との関係性が強く、連想が広がりかつ「物語性」を持って伝えられた時に、心の奥深くに大きなインパクトとして与えられます。組織内で「物語性」を持たせると言うことは、指示や説明を行う際、前後の文脈をしっかり語ることです。エピソードとして、「上司から反対された研究員が無報酬で製品開発に取り組み成功し、副社長まで昇進した」例があります。この物語の元となる3Mという企業が組織の価値観として、自ら信じるものに取り組む姿勢を評価・重視するこで、物語を象徴として示し、社内に価値観・文化を浸透させている例となります。(リチャード・ダフト「組織の経営学」参照) したがって、自社における改革の背景、目的、将来の姿について、自社流のやり方を試案・創意工夫し実践を繰り返すことが重要です。②フィードバックの重要性「リーダーシップ」は、一朝一夕でつくられるものではありません。それは、日々の日常における業務・オペレーション管理という短期的視点と、先を見通す中長期的視点といった性質のまったく異なる2つの視点を通して同時に獲得していかなければならないからです。フィードバックは、当初の目標に対して、結果はどうであったか、何ができ、何ができなかったか、何が原因であったかを組織として今後にどう活かしていくかを共有するものとなります。ここで重要なことは、失敗という事象への向き合い方です。組織が進化していくためには、「失敗なくして発展はない」と言われる反面、致命的な失敗は企業に大きなダメージとなり極端な場合は、発展や存続の機会を失うことにもなります。強いと言われる組織・企業は「失敗を活かす仕組みや方法、ノウハウ」を持っており、フィードバックを通した失敗の原因、構造を掘り下げることでチャンスに変えることを重要視しています。
元のページ ../index.html#65