no.225
現地社員との信頼関係醸成が海外進出の成否を左右

オーディオプレーヤー「ウォークマン」など、消費者にもおなじみの商品の部品を多数手掛けるセキコーポレーション。代表取締役社長の山木孝之氏(写 真中央)は外資系企業でのキャリアを生かしながら、日本企業と外資系企業の長所を組み合わせた経営手法で同社を引っ張っている
プレス加工技術に定評あるグローバル企業
セキコーポレーションは、カメラや自動車、オーディオ機器などに使われる精密部品を製造する企業だ。プレス加工の技術力が高いだけでなく、金型の設計・製作から組み立てまで一貫して手掛けることや、自動化を得意としていて効率的な製造ができることで強い競争力を発揮。多くの顧客から信頼されている。
同社は中国やマレーシア、タイにも拠点を置き、海外売上比率が7~8割にも達するグローバル企業だ。だが、全ての海外工場が最初からうまくいったわけではないと、代表取締役社長の山木孝之氏は振り返る。
「2013年に中途入社した私は半年後、タイ事業所の責任者に任命されました。当時のタイ事業所は、会計や総務といった企業運営に不可欠な組織がガタガタでしたし、従業員が居つかず四半期の離職率が25%を超える状況。さらに、2011年の大洪水の影響で売り上げが激減していました。現地を見た私も、こんなにひどい状況なのかと驚いたものです」(山木氏)
信頼できる現地社員を見つけ裁量を与えた
全分野で改革が必要だったタイ事業所で山木氏がまず着手したのは、組織の核となる人材の確保と育成。
「人事部と経理部で管理職を務めていたタイ人の社員に、私は小さな課題を出しました。そして、彼女らの取り組み姿勢を見て『この人たちなら一緒に働ける』と確信した後は、一定の裁量を与えました。
海外拠点の立て直しを任された日本人は、日本式のやり方や、他の海外拠点での成功手法を押しつけがちだと感じます。でも、国によって市場環境や法律は異なりますし、国民性も千差万別。ですから、信頼できそうな現地社員を見いだしたら、その人に任せる方が良い結果を生み出しやすい。ただし、任せっきりにするのはダメ。コミュニケーションを密に取って信頼関係を深めつつ、その国、その拠点に合った道を一緒になって模索することが大切です」(山木氏)

元請け企業と下請け企業、外資系と日系など幅広い経験を持つ山木氏。そ れらの長所を組み合わせつつ、各現場に合わせた手法で経営を行っている

タイ事業所では一律のボーナス制度を廃止し、成果に応じた報酬制度を導 入。現地社員との交流活発化と合わせて、離職率の大幅低下につなげた
色眼鏡を外して現地社員と積極交流すべし
山木氏はタイでの信頼関係を広げるため、普段から現地社員などと積極的に交流を図っている。
「海外で働く日本人ビジネスパーソンの中には、日本人だけで固まる人が珍しくありません。しかし、それでは人間関係のトラブルといったデリケートな情報はなかなか耳に入らず、とても危険だと感じます。
今の日本企業では飲み会など社員同士の交流が減っていますし、外国人に対して『上下関係がある中で誘って良いのだろうか』と心配する人もいるでしょう。でも外国人の中には、私たちとの食事会を歓迎する人もたくさんいます。色眼鏡を外して飛び込めば互いにわかり合え、人と人との付き合いができるのではないでしょうか」(山木氏)
タイはシンガポールやマレーシアと異なり、英語が通じない人が多い。そこで山木氏はタイ赴任中、1日に1つはタイ語を覚えて現地社員に話すのが習慣だった。つたなくとも現地語を話すことで会話のきっかけをつかみ、絆を強くする山木氏のやり方は、海外進出を目指す中小企業にとっても参考になるだろう。
現地社員のやる気を高めた人材育成講座
セキコーポレーションは約20年前から、「海外ビジネス・チャレンジ塾(4ページ参照)」や「事業化チャレンジ道場」といった公社事業を利用。タイ現地法人では、現地幹部人材を育てる「タイ現地幹部人材育成講座」が大いに役立ったと山木氏は言う。
「タイ現地法人の社員に受講させたところ、彼らの意識はガラリと変わりました。例えば、会議では受け身の姿勢を捨て、当事者意識を持って積極的に発言するようになったのです。公社のような公的機関で講座を受けられたことは、彼らにいい意味でのプライドを与えてくれたのだと思います。いつかは外国人社員を、都内で行われる集合形式講座に参加させたいです。そうすれば彼らのモチベーションはさらに高まるでしょうし、現地社員同士の横のつながりが生まれてビジネスでも役立つだろうと思います」(山木氏)
利用事業:タイ現地幹部人材育成講座
ローカライゼーションを見据えた現地幹部人材による海外拠点経営を志向する企業に対し、現地幹部人材登用の必要性を改めてご理解いただくとともに、将来的に拠点経営を担える現地幹部人材の育成を目的とした講座です。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/TTC/session/exective_Thailand.html
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企業人財支援課 TEL:03-3434-4275