東京都中小企業振興公社

no.226

興行主と鑑賞初心者をつなぎエンタメ業界を盛り上げる

創業者の栗林氏(写真中央)は中学~大学時代、ダンスに熱中してプロを目指した時期もあった。その後は電通に入社し、首相官邸のクリエイティブディ レクターなど幅広い案件を担当。パフォーマーやクリエイター、情報発信など幅広い立場で働いた経験が、現在の仕事に生きている

創業者の栗林氏(写真中央)は中学~大学時代、ダンスに熱中してプロを目指した時期もあった。その後は電通に入社し、首相官邸のクリエイティブディ レクターなど幅広い案件を担当。パフォーマーやクリエイター、情報発信など幅広い立場で働いた経験が、現在の仕事に生きている

舞台などのチケットをサブスクで提供

「recri(レクリ)」は芸術鑑賞のチケットを毎月届ける、サブスクリプション型のサービスだ。対象となるのは演劇、ミュージカル、歌舞伎、落語、バレエ、アートなど。個人の好みや価値観に合わせて7~10程度の演目を提案し、利用者がその中から選ぶ仕組みだ。
「舞台の興行主は観客、中でも新しくファンになってくれるお客さまを集めたがっています。一方、recriユーザーは鑑賞初心者が中心で、『時間があるので舞台やアートを楽しみたいが、何を見ればいいの……』と悩む方が多いのです。そこで両者の橋渡しをし、舞台を盛り上げつつ鑑賞初心者の世界を広げるのがサービスの目的です」(栗林氏)
 recriは2023年の正式版サービス開始以来、すでに累計7,000人以上のユーザーを獲得。首都圏では大手興行主の90%以上と提携済みだ。近い将来に関西進出も計画しており、存在感は急速に高まっている。

利用者に直接インタビューし方針を転換

 栗林氏は学生時代にダンサーとして活躍。他の創業メンバーもエンタメ業界に造詣が深い。そのためか、サービス開始当初は自社サービスに対する思い入れが強すぎて空回りした面があったと、栗林氏は振り返る。
「当時は、『recriのユーザーは~に違いない』とか『我々のサービスはこうあるべきだ』という思い込みが強かったと思います。その考えが変わったきっかけは、2022年に開いたユーザーインタビュー。10人くらいに話を聞いたところ、語学学校やヨガ教室と舞台鑑賞を同じまな板の上に載せ、比較する人が多いと分かりました。それに基づいてサービスを修正した結果、ユーザー数が大きく伸びたのです」(栗林氏)
 自社が決めつけていたユーザー像と、実際の顧客との間にズレがあることは、決して珍しくない。直接意見を聞いてそのギャップを埋めたことが、recriにとって大きな転換点となったのだ。

ユーザーが登録した好みに沿った作品を単純に推薦するのではなく、鑑 賞後の感想といった情報をくみ取り、より最適なチケットを提案していく

ユーザーが登録した好みに沿った作品を単純に推薦するのではなく、鑑 賞後の感想といった情報をくみ取り、より最適なチケットを提案していく

チケットと一緒に送る解説文は出来合いの文章の転載ではない。台本を読 んだライターがまとめた、初心者でも作品を楽しめるガイドになっている

チケットと一緒に送る解説文は出来合いの文章の転載ではない。台本を読 んだライターがまとめた、初心者でも作品を楽しめるガイドになっている

アナログとテクノロジーのバランスが大切

 エンタメには「手作りのぬくもり」が欠かせないというのが、栗林氏の見立てだ。そのためrecriでは、ユーザーが希望したチケットと一緒に、作品を楽しむためのオリジナル解説文を印刷して送付している。
「文章はデータでも読めますが、紙の手触り感はユーザーを楽しませる大事な要素と考え、こうしています。
 ただ一方で、技術の活用も重要なテーマです。エンタメ業界ではアナログな手法が今も残っていますし、関係者の中には職人気質で効率化に関心を示さない人が珍しくありません。でも、業界全体を改善し多くのお客さまを効率的に呼び込むためには、技術の活用が不可欠。recriでも、ユーザーの好みを割り出して最適なチケットを提案するのは、人ではなくアルゴリズムの役割です。我々には、アナログとテクノロジーのバランスをうまく取ることが求められるでしょう。また、舞台の専門家と渡り合えるだけの知識と、プロのビジネスパーソンとしてエンタメ業界を盛り上げるスキルの両面が必要だと考えています」(栗林氏)

東京都のスタートアップ支援の手厚さは別格

 創業時の自己資金は決して多くなかった反面、事業が軌道に乗るまでは2年半以上を要した。そのため、資金面では苦しい時期が続いたという。そうした中で起業家の先輩から教えられたのが、創業初期にかかる費用の一部を公社が助成する「創業助成金」だった。
「助成事業の申請に当たり、丸の内にある『TOKYO創業ステーション』で事業計画書策定支援を受けました。今振り返ると、このとき専門家の方に説明するために事業内容をブラッシュアップしたのが、自分の考えを整理するいい機会になったと感じます。また、創業ステーションの担当者がものすごく親身だったのは、とても心強かったです。
 スタートアップに対する東京都の支援は、他の道府県と比べて格別に手厚い。ぜひ、存分に活用すべきですね」(栗林氏)

利用事業:創業助成事業

 都内で創業予定の個人または創業から5年未満の中小企業者等に対し、創業初期に必要な経費の一部を助成する「創業助成事業」を実施しています。
https://startup-station.jp/m2/services/sogyokassei/

お問い合わせ
創業支援課 TEL:03-5220-1142

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