東京都中小企業振興公社

no.229

厳しい時代だからこそ攻めの姿勢で改革を進める

代表取締役の大越優氏(写真中央)は社長に就任してすぐ、社内改革に取り組み始めた。「現状維持を目指して何も手を打たずにいると、企業はすぐに衰えます。私は、『安定を欲するなら攻めなければならない』というポリシーを大切にしたいです」(大越氏)

代表取締役の大越優氏(写真中央)は社長に就任してすぐ、社内改革に取り組み始めた。「現状維持を目指して何も手を打たずにいると、企業はすぐに衰えます。私は、『安定を欲するなら攻めなければならない』というポリシーを大切にしたいです」(大越氏)

航空・宇宙分野で高い技術力と提案力を発揮

 立川精密工業は、航空機エンジンや宇宙機器、医療用機器などに使われる部品を手掛ける企業だ。得意分野は難削材の加工。1961年の創業以来、高品質な製品を適切なコストで、納期どおりに提供することで顧客からの信頼を得てきた。また、技術力に加えて提案力の高さも強みだと、代表取締役の大越氏は胸を張る。それを支えるのが、技術と営業のチームワークだ。
「提案をしたり製品に問題が発生したりした際、当社はお客さまの元に、営業担当と技術担当をコンビで向かわせます。こうすることで技術担当はお客さまとのやり取りを円滑にこなせますし、営業担当は現場で技術を学べるのです。それが結果として、提案力の向上につながっているのかもしれません」(大越氏)

積極投資と働きやすい職場づくりを目指す

 コロナ禍で航空需要が激減したことで、航空機エンジン部品を手掛ける立川精密工業も打撃を受けた。ここ数年の業績は回復傾向だが、まだ安心はできない。そうした状況下の2025年、社長に就任した大越氏はあえて、積極的に設備投資する方針を打ち出した。
「製品に求められる水準は高まる一方ですし、競合も努力しています。そうした中で生き残るには、しっかり投資を行って技術力や生産効率を高める必要があるのです。厳しい時代だからこそ、攻めの姿勢を忘れない。その考え方が経営の安定を生み、従業員とその家族の幸せを実現すると私は考えています」(大越氏)
 大越氏は新社長として、社内改革にも乗り出している。例えば、風通しの良い職場づくりを目指し、経営陣と現場メンバーが率直に意見交換できる会合を定期的に実施。また、それまでは分かりづらい部分もあった給与体系や評価制度を、スキルや経験に基づいた透明性の高い仕組みに変えようとしている。
「風通しが悪く、頑張っても評価されない職場では、やる気など出ません。『ここまで努力すればこれだけ報われる』という目安をはっきり見せることで、従業員のモチベーションを高めたいですね」(大越氏)

大越氏が社長就任直後、全従業員に示した経営方針の一部。この会社に入って良かったと従業員が思える職場づくりを目指している

大越氏が社長就任直後、全従業員に示した経営方針の一部。この会社に入って良かったと従業員が思える職場づくりを目指している

2021年、本社近くに新設した第二工場の様子。積極的な設備投資は品質や生産効率の向上はもちろん、優秀な人材の採用にもつながるという

2021年、本社近くに新設した第二工場の様子。積極的な設備投資は品質や生産効率の向上はもちろん、優秀な人材の採用にもつながるという

従業員の待遇改善目指し顧客と価格交渉

 設備投資と社内改革に加えて大越氏が取り組んでいるのが、受注価格の引き上げ交渉だ。
「今はさまざまな原価が高騰していますし、何より、従業員の給与水準をもっと引き上げたい。それで昨年度から、お客さまに対して価格の見直しをお願いしているところです。しかし、単に値上げを主張するだけではうまく進みません。お客さまに対しては、データを使って当社や業界が置かれた状況を丁寧に説明することが大切でしょう。一方で社内には、技術を磨いて価格に見合う価値を提供しようと呼びかけつつ、そのための仕組みも整えています」(大越氏)
 大越氏自身もスキルアップに取り組んでいるところだ。その1つが、承継して間もない経営者や次世代経営者に経営知識などを教える、公社の「事業承継塾」。大越氏は、多忙な社長業の合間を縫って受講している。
「私以外の受講者は20~40代が中心で、その前向きな姿勢は刺激になります。また、受講後の懇親会で他業界の若手経営層と触れ合うことで視野も広がり、私にとって本当に貴重な機会になっています」(大越氏)

人材の採用・育成を支える支援に期待

 大越氏が参加した事業承継塾以外にも、同社はこれまでに「中小企業人的資本経営支援事業」や「企業変革推進事業」といった公社事業を利用してきた。そして今は、人材に関する支援に関心があるという。
「若手の採用に役立つ支援や、次の経営幹部を教育する支援を利用できれば、当社の成長に大きなプラスをもたらしてくれると期待しています。
 設備投資をして高価な機械を入れても、それを動かす人がいなければ価値は生まれません。公社の支援を利用しつつ、私たち自身もさまざまな制度を整えて、未来の当社を支える人材を育てたいです」(大越氏)

利用事業:事業承継塾

 後継者育成に向けた講座を通じて、事業承継塾では経営者に必須の知識やスキルの習得、後継者イノベーションスクールでは既存事業に留まらず発展的承継への新たな取組を支援します。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/topics/2506/0015.html

お問い合わせ
総合支援課 TEL:03-3251-7885

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