東京都中小企業振興公社

no.234

社員の自主性を引き出し企業の底力を高める

ミューテック35が誇る加工技術は、工業製品以外の領域でも活用できる。代表取締役・谷口栄美子氏(写真右)の次女でデザイナーの翠(みどり)氏が手掛け、ニューヨークのアート展で高く評価された「鳳凰」のような金属を使った芸術作品群は、その1つだ

ミューテック35が誇る加工技術は、工業製品以外の領域でも活用できる。代表取締役・谷口栄美子氏(写真右)の次女でデザイナーの翠(みどり)氏が手掛け、ニューヨークのアート展で高く評価された「鳳凰」のような金属を使った芸術作品群は、その1つだ

「チャレンジ道場」で自社ブランドを創設

 現在ミューテック35は、試作・多品種少量生産を強みとし、精密板金・機械加工・溶接などを一貫して手掛ける企業。高度な技術力と創意工夫で顧客から信頼を得ている。だが、リーマン・ショックが起きた2008年から数年間は苦境に陥った。「当時は創業者である父から、私と弟に代替わりしたばかり。景気が落ち込んで受注が減る中、受注生産型の工場はこのような局面では“待ちの姿勢”にならざるを得ないことを痛感しました。そこで、事業を“攻め”の体質へと変えていかなければならないと考え、自社ブランド商品を持つことを決心したのです」(谷口氏)  
 そんなときに出会ったのが、公社の「事業化チャレンジ道場」。計2年間のプログラムに参加して企画から商品化、販路開拓までの過程を学んだ後、2016年に立ち上げたのが、メタルアクセサリーブランドの「THE BLOSSO(ザ・ブロッソ)」だ。「無機質で冷たい印象のあるステンレスですが、ヘアライン加工を施すことで驚くほど繊細な輝きを出せます。こうして売り出したアクセサリー類が予想以上の反響を呼んだことで、当社は『オリジナル製品を持つメーカー』へと脱皮できました」(谷口氏)

自社ブランドがもたらした思いがけない成果

 自社ブランドを打ち立てたことで、社内のムードは一気に好転した。その一つが、採用面での変化だ。
「アクセサリー事業はすぐに評判になったわけではなく、公社のご支援もあり、さまざまな場面で取り上げていただく中で、徐々に認知が広がっていきました。その結果、応募者が増えただけでなく、『これをつくりたい』という明確な思いを持った方が集まるようになったのです。単に機械を扱える人ではなく、自ら形にしたいものを持っている人。そうした方は総じてものの機構まで理解しており、技術力も高いと感じています。」(谷口氏)
 そうして中途入社したうちの2人が始めたのが、バイク部品の新ブランド「Corherz(コエルズ)」だ。最初は、その社員が知人から古くて在庫がないバイク部品の製作を頼まれ、手掛けていたものだったが、口コミで広がり、事業化に至った。この事業では、製品ラインナップの構成やSNSでの発信など、幅広い部分を社員の裁量に委ねている。また、売上額に応じた報酬を給与に加算する仕組みも導入している。「多くの社員は『これを作りたい』という夢を持っています。それを引き出し、自由に挑戦してもらうことが、企業の底力向上につながると考えています」(谷口氏)

技術者の夢から始まったバイクのレストア。製品や技術でなく、人を起点に発想するのが谷口氏の手法かもしれない

技術者の夢から始まったバイクのレストア。製品や技術でなく、人を起点に発想するのが谷口氏の手法かもしれない

自社ブランド『THE BLOSSO』の商品開発で磨いてきた技術をさらに深化させ、その延長線上で生まれた作品、「鳳凰」

自社ブランド『THE BLOSSO』の商品開発で磨いてきた技術をさらに深化させ、その延長線上で生まれた作品、「鳳凰」
「Artexpo New York」(2026)において『AWARD of EXCELLENCE』を受賞
                

訪問者への質問で自社の強みを客観視

 ミューテック35は、試作・多品種少量生産を強みに、多様な業界への営業活動を通じて顧客を広げてきた。その転機となったのが、2011年に行った経営理念の策定である。「その年は震災による売上げ減に加え、高価な機械が立て続けに壊れて散々でした。私が悩んでいると、知人が経営理念を成文化するセミナーを勧めてくれたのです。厳しい指導は数カ月にわたり、私は必死で自社の経営理念を考え抜きました。このとき強く感じたのが、自社の強みを知ることの大切さです」(谷口氏)
 経営理念のベースになるのは「自社の強み」だが、自らの特徴を客観的に見極めるのはとても難しい。そこで谷口氏は、自社を訪れた人々の声に耳を傾けた。「強みは他社との比較の中で初めて見えてくるものです。他社の営業担当者などが来訪した際には工場を案内し、忌憚ない意見を数多く集めることで自社を知ろうと努めました。理念策定後は迷いがなくなり、むしろその変化に戸惑うほどでした」(谷口氏)

無関係そうなセミナーで視野が広がることも

 ミューテック35は「事業化チャレンジ道場」以外にも、公社から支援を受けている。優れた技術を持つ中小企業と大手企業とをつなぐ「新技術創出交流会」では、現在も多額の取引がある大企業とマッチング。他にも「ビジネスマッチングin東京」などの商談会に参加し、多くの顧客を獲得してきた。こうしたイベントに参加する際には、受け身ではなく、1件でも成約を取ろうという意気込みで臨むと谷口氏。
「公社主催のセミナーもできるだけ受講しています。一見すると無関係に思えるテーマであっても、刺激を受けたり、新たなアイデアが生まれたりするからです。公社からのご案内は、私にとって世界を広げる『縁』。積極的に活用することで、視野が開け、環境が変わっていくのを実感しています」(谷口氏)

利用事業:多摩イノベーション総合支援事業

 都内中小企業と大手企業開発部門等との技術連携を目指し、個別面談と製品展示を同時に実施する大規模なマッチングイベント『新技術創出交流会』などを開催。大手企業などと
の技術連携による成長産業分野への参入を支援します。
https://tama-innovation.jp/

お問い合わせ
多摩支社 TEL:042-500-3901

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