no.237
人手不足時代に対応し新たな打ち手を放つ
田原電機製作所は1936年創業の老舗企業。代表取締役社長を務める田原一樹氏(写真左)は、制御盤や配電盤、電子機器といった「モノ」の開発・製造にとどまらず、顧客との間に強い関係性を築いてニーズに合ったシステム全般を提供する「コトづくり」企業への脱皮を目指している
配電システムと電子機器の2事業を運営
田原電機製作所は、発電所や上下水道といった社会インフラ向け配電・制御システムの構築と、計測器などに内蔵される電子機器の製造を手がける企業だ。前者の多くが長期プロジェクトであるのに対し、後者の開発・製造期間は比較的短期。事業サイクルと市場環境が異なる2部門があるために景気の波に左右されにくく、堅調な業績を長年にわたって維持できている。
そんな同社の強みの1つは、一貫生産体制だ。
「配電盤の製造を行う企業は他にもありますが、私たちは機器に内蔵される電子基板やソフトウェアの開発から、現場における試運転までの幅広い範囲をカバーします。『箱と中身』を一社で完結できる総合力があるからこそ、お客様の多彩なご要望にぴったり合ったシステムを提供できるのです。また、単なる量産とは異なり、必要十分な機能だけを形にする提案力にも自信があります」(代表取締役社長・田原一樹氏)
収益性向上と育成強化で人手不足に対応
田原氏が社長に就任したのは約10年前。当時と今とで最も変わったのは、人材採用の環境だという。
「以前は当社でも新卒の理系大学生を採用できましたが、コロナ禍以降は採用の難易度が跳ね上がりました。『仕事があるのなら人を採ればいい』という考え方は、もはや通用しなくなったと感じます」(田原氏)
そこで田原氏は3つの方向性を打ち出した。1つ目は、社員を疲弊させない仕事を見極めること。以前は依頼を可能な限り受けるスタンスだったが、自分たちの実力を最大限に生かすことができ、収益を確保しやすい案件を能動的に選ぶやり方に変えた。2つ目は、人材教育への注力だ。人が採れないなら今いる人材に輝いてもらおうと考え、教育環境を整備。さらに、従業員の取得資格・スキルを社内掲示するなどの工夫を施してモチベーションアップを目指した。その結果、同社は令和7年度の「東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞」の優秀賞を受賞。今後も、人材育成や働きやすさ向上に力を入れると田原氏は意気込む。
公社の助成を受けて導入した、電子基板の検査機。新鋭機器の導入や生成AIの活用などを通じ、少数精鋭でのものづくりを目指す
従業員の向上心を育み多能工化を進めるため、メンバーごとの資格やスキルを社内に掲示するなどして可視化している
生成AI活用で企業を未来に進める
そして、田原氏が打ち出した3つ目の方向性が、生成AIの導入だ。すでに同社では、マニュアル作成や人材教育などの分野でAI活用が進んでいる。
「社内には、『いつかやりたいけれど、今は忙しくて取りかかれない業務』がたくさんあります。AIは、それらを一気に前進させる原動力になり得るのです。例えば当社の技術や製品を社外向けに説明したいとき、ゼロから資料を作るのは手間がかかります。ところが、AIに必要な情報を入れれば数分でたたき台ができ、修正するだけで精度の高いものが完成します。また、技術者は高度な職人技を持つ人ほど、後輩に分かりやすく伝えるのが苦手なもの。しかし、AIを使えば膨大な経験をマニュアルにまとめやすくなります。
今は時代の変わり目でもあり、企業にとっても激変期。AIの活用で業務効率や人材育成を変える取組が、今後は不可欠ではないでしょうか」(田原氏)
公社事業は自社が前進するための「羅針盤」
田原電機製作所は、公社の人材育成支援や助成金などの制度を積極的に活用中。さらに公社は、自社が進む際の指針になっていると田原氏は語る。
「ほとんどの中小企業には、経営企画部を設置して情報を集めたり経営戦略を立てたりする余裕がありません。そのため、時に井の中の蛙かわずとなる危険性があるのです。そこで、当社は公社事業を、社会の動きを知るための物差しにしています。例えば、公社が省エネや廃棄物に関する助成制度を増やしているなら、社会的に環境問題への関心が高まっていると分かるでしょう。また、助成金の申請フォーマットを読めば、事業計画を立てる際に何がポイントになるのかが分かります。つまり公社の支援は、中小企業が世の中の動きを知ったり、自社の価値や立ち位置を見極めたりする際の『羅針盤』になるのです」(田原氏)
令和7年度「東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞」優秀賞を受賞
東京都では、都内の中小企業等で技能者の育成と技能継承の取組に特に成果を上げた中小企業等を「東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞」として表彰しています。
株式会社田原電機製作所は、人事評価や社内教育の仕組みの工夫、取得資格・スキルの明確化等、長年にわたる技能継承と人材育成への取組が高く評価されています。

