東京都中小企業振興公社

no.173

ボトムアップで社員が働きやすい環境をつくる

子育て中の女性が気兼ねなく定時に帰宅できるように、突発的な顧客対応などが発生しやすい仕事は社員一丸となってカバーし、全社で早く帰ることのできる仕組みと雰囲気をつくり、不公平感が出ないように留意している

新手法の導入と顧客主義で新たな人形を創出

 ふらここは2008年に創業された、ひな人形や五月人形の企画・製造・販売を行う企業だ。この業界では、職人がつくった人形と屏風などのパーツを販売店が仕入れて、それらを組み合わせて売るやり方が一般的。しかし、同社は古いしきたりを破り、自社で商品企画から販売までを一貫して手がける。「以前の節句人形は、祖父母がかわいい孫のために買うケースが多かったのですが、今はお母さまが選ぶようになりました。そのため、豪華な分、かさばる商品より、現代の住宅事情にフィットしたコンパクトなものが売れるようになっています。また、顔も昔ながらのスタイルより、今のお母さんに好まれる『赤ちゃん顔』の方が人気です。当社はお客さまの生の声を集めて商品企画を行い、3Dプリンターなどの先端技術を使って商品のブラッシュアップを繰り返します。そうすることで、変化する市場ニーズにあった人形を追求しているのです」(代表取締役 原 英洋氏)
 少子化などで苦しむ人形業界だが、ふらここは創業以来、右肩上がりの成長を維持。コロナ禍真っ只中だった2020年も、売り上げを10%伸ばした。また、伝統とイノベーションを融合させる姿勢が評価され「東京都経営革新優秀賞」の最優秀賞を受賞するなど、東京都からも高評価を得ている。

顧客から寄せられたアンケート。伝統に固執するのではなく、若い顧客層のニーズに徹底して向き合ったことが成功のカギだった

半数近い社員の退社が方向転換のきっかけに

原氏は創業時から、「全員が同じ方向を目指す一体感のある職場」を目標としていた。そこでさまざまな制度をトップダウンで整えていたのだが、そのやり方は裏目に出たという。「社員が働きやすくなるだろうと考え、私は2013年に新たな社内ルールを作成。歓迎されると期待していたのですが、ふたを開けてみると『特定の人をえこひいきしている』と大反発されました。そして、12人いた社員の半分近くが退職してしまったのです。ショックでした。人によって事情はさまざまなのに、私はそれを十分考慮することなく、社員を束縛する制度を押しつけたのがいけなかったのです。このとき、コミュニケーションをしっかり取り、皆に納得してもらいながら制度をつくることの大切さを学びました」(原氏)

皆で考えながら女性が働きやすい環境を整備

 痛烈な経験をきっかけに、原氏はボトムアップ式手法へと方針転換。まずは全社員に会社への希望を挙げてもらい、それを実現できる制度を全員でじっくりと考えることにした。その結果生まれたのが、夏休みなどの時期に小さな子どもを連れて出勤できる制度や、出産や育児で休んだ社員の仕事を肩代わりした社員に、特別手当を支払う制度などだ。「家庭内での人形購入の決定権を持つ女性の気持ちがわからなければ仕事になりませんから、当社社員のほとんどが女性です。彼女たちが働きやすい環境を整えるため、仕事と家事・育児を両立しやすい仕組みは今後も整備したいですね。また、家族と一緒に参加できる食事会や親睦を深める社内イベントも、さらに充実させる方針。従業員同士の相互理解が進めば、困ったとき互いにカバーしやすくなりますから」(原氏)
 今の課題は、業務効率を高めて残業を減らすこと。「業績が伸びた結果、一部社員にかかる負担が重くなってきました。そこで、閑散期の5~10月に月1回ペースで全社員が集まり、仕事のやり方を変える話し合いを行っています。確かに仕事は大切ですが、『仕事のための人生』であってはいけません。試行錯誤しながら、より豊かな人生を送れるような職場づくりを、これからも進めていきたいです」(原氏)

3Dデザインツールで人形を設計。データ化することで修正を繰り返し、ニーズ通りの商品に近づけられる

新サービス創出スクールで経営知識を学んだ

 以前から公社の存在は知っていた原氏だが、補助金に関する相談などで実際に使い始めたのは3年前から。そして2020年には、革新的サービスの事業化を支援する「東京都新サービス創出スクール」のベーシックコースとアドバンスコースを、原氏自身が受講した。「以前から、節句人形商戦以外の時期でも通用する新事業を生み出せないかと考えていました。そんなとき、公社からのメールで『創出スクール』を知り、すぐに申し込みました。
 経営者として自分なりに勉強はしてきたつもりでしたが、スクールでは経験豊かな先生から充実したお話を伺えたことで、たくさんの学びや気づきが得られました。また、新規事業を模索している他社の経営者と出会えたことも大きかったですね。やる気のある人々と一緒に学ぶことで刺激を受けましたし、人間関係も広げることができました」(原氏)

利用事業 : 東京都新サービス創出スクール

東京発の新たなサービスモデルの創出や、サービス分野で生産性向上を図るうえで必要な基本的知識の習得、実践力を養成するスクールです。
お問い合わせ 企業人材支援課 TEL 03-3251-7904
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/service/school.html

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