東京都中小企業振興公社

no.178

建築士の枠組みを飛び越え未来の街づくりに携わる

UAo創業者の伊藤麻理氏(写真左)は東洋大学大学院工学科建築学専攻を修了後、4年間のオランダ修行を経て帰国し、2006年に独立。30代前半という若さで「サイエンスヒルズこまつ」のコンペに勝利するという快挙を成し遂げた気鋭の建築家だ。

話題の公共建築物を手がけた建築事務所

 UAoは公共建築物や集合住宅、個人宅などを手がける一級建築士事務所。ものづくりをテーマに据えた石川県小松市の博物館「サイエンスヒルズこまつ」をはじめ、話題の建物を設計した実績を誇る。同社が公共建築物をつくる際に大切にしているのは、その街が抱える風景や歴史、文化に寄り添った建物をつくること。そして、地域に住む人が自然に集まる場を生み出すことだと、代表取締役の伊藤麻理氏は語る。
 その設計思想が存分に生かされたのが、2020年9月、JR黒磯駅前でオープンした「那須塩原市図書館 みるる」である。「まず求められていたのは、少子高齢化や経済の落ち込みなどに悩む街の活性化でした。そこで私たちは、図書館としての機能をあえて2階に集約。1階には駅と市街とを結ぶ通路を置き、その周りにカフェや『森のポケット』と呼ばれる展示スペースをレイアウトしたのです。こうすることで、駅から周囲の学校や商業施設に通う人々が楽しく通り抜けたり、自然に交流したりできる仕掛けをつくりました」(伊藤氏)
 人々の動線が交わる場所に居心地の良い場所をつくり、地域住民の化学反応を促すという伊藤氏たちの狙いは、見事に当たった。「那須塩原市図書館 みるる」は、多くの地域住民が交流する場として機能し、各所から注目を集めているのだ。

白山連峰の山並みや、周囲に建つ低層住宅群にマッチし、さらに公園としても楽しめるように工夫された「サイエンスヒルズこまつ」の外観

熱意は自然と伝わり、周囲を動かせる

 伊藤氏にとって大きな転機となったのが、2014年に全面開業した「サイエンスヒルズこまつ」のプロジェクトだ。白山連峰など周囲の風景に溶け込むよう曲線を大胆に取り入れた設計でコンペに勝利。しかし、施工の難易度がきわめて高かったため、建設業者とは何度も交渉を重ねる必要があった。
「『この設計では施工できません』と拒絶されても、私たちは『このやり方ならできませんか?』と提案し続け、最後は何とか完成にこぎ着けました。諦めず知恵を絞れば道は開けると学びましたね。同時に、コミュニケーションも大切にしました。せっかく世界に通じる建物に関わっているのだからできるだけ良いものをつくろうと、折に触れ現場を説得。すると徐々に、周囲からの協力が得られるようになったのです。
 熱意とは、自然と相手に伝わるものだと思います。当社には設計に情熱を注いでいる人たちがいて、その熱い思いは若いスタッフたちにも受け継がれています。だから当社は、多くの人たちを熱意で説得して巻き込み、大プロジェクトを完成させられるのかもしれませんね」(伊藤氏)

調整能力を発揮し建築士の領域を超えて働く

 普通の設計事務所は受注した建物のことだけを考えるものだが、UAoは違う。建設予定地の風景や歴史、発注元の自治体や企業の考え方、周辺に住む多彩な人たちの思いなどを丹念にくみ取り、街の未来まで見通しながら案を練るのだ。それだけに、他の設計事務所より設計にかける手間は大きい。
「私たちは街づくりまで考えながら設計図を描きますし、現場の施工方法などに関しても積極的に意見を出します。現代の建築家はプロデューサー。設計の領域を飛び越え、発注元の地方自治体や企業、施工業者、そしてその地域の住民を巻き込む役割が求められています。それだけに、調整能力や幅広い知識が大切ですね」(伊藤氏)
 今は、ものづくりでもサービスでも他社との協業が欠かせない。調整能力を発揮して周囲を巻き込み、案件を成功させた伊藤氏のやり方は、他業界でも参考になるはずだ。

「那須塩原市図書館 みるる」では飲食や会話が許されており、単なる図書館の枠を超えた住民交流の場として活用されている

協力企業の紹介など公社のネットワークに期待

 UAoは2013年、東京都中小企業振興公社(以下、公社)が個人・企業の新規事業計画を総合的に評価し、事業化に向けて支援する「事業可能性評価事業」に選ばれた。対象となったのは、旧耐震基準で建てられたビルの最上階に免震装置を設置する『増築マスダンパー制振による耐震補強工事方法』。
「東京工業大学などと技術開発した新工法で、ビルの基礎工事が不要な点が強みです。事業可能性評価事業に選定されたことが評価され、支給を受けた助成金を研究所との実証実験等に充てることができました。また、特許出願を申請する際に、公社の知的財産総合センターから支援してもらったのも助かりましたね。
 公社には多くの企業とのネットワークがあります。今後はそれを生かし、当社に協力してくれそうな企業や潜在的な取引先を紹介いただければと期待しています」(伊藤氏)

利用事業 : 事業可能性評価事業

新たな事業計画についてアドバイス・評価を行い、成長性が高いと認められる事業計画に対しては、公社の各種支援メニューを活用して、事業化に向けた継続的な支援を行います。
お問い合わせ 経営戦略課 
TEL 03-5822-7232 
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/hyoka/index.html

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