東京都中小企業振興公社

no.179

誰もがAIを使える世の中を実現したい

代表取締役の橋本雅史氏(写真後列右)率いるリサーチコーディネートは、アスリートの動作分析も行っている。例えば早稲田大学レスリング部との共同研究では、各選手の長所・短所の把握や優れた選手の特長の把握などに活用しているそうだ。

特別な器具なしで動作解析ができるサービス

 リサーチコーディネートは「AIモーションキャプチャー」の技術を生かし、ライフサイエンス分野の研究支援や事業支援などを手がけているベンチャー企業だ。
 モーションキャプチャーとは、人や動物、モノなどの動きをデジタルデータとして記録する技術を指す。例えばコンピュータグラフィックスを使った映画では、役者の体にたくさんのセンサーを取り付け、専用カメラで撮影することで動作や表情を記録するのが一般的だ。
 ところがリサーチコーディネートの手法では、撮影対象に特別な機器を必要としない。一般的なスマホやカメラで撮影した映像を、そのままAIによって分析し、被写体の動きや特徴を把握できるのが利点だ。
「AIモーションキャプチャー」が使える場面は多岐にわたります。医療分野やスポーツ、演奏などの分野では、身体の動きを解析して診断や練習効率アップに役立てることが可能。また、工場での生産効率アップや動作マニュアル作成、漁業・畜産業などでの魚や動物の成育状況把握など、アイデア次第でいろいろな使い方が可能です」(代表取締役・橋本雅史氏)

人の関節部分などに印をつける(①)と、AIが動きを自動的に分析してくれる(②)。ドローンで撮影した映像なども利用可能だ(③)。

マッチングイベントで顧客開拓に成功

 創業時のメイン事業は動物試験のコンサルティングだったが、AI技術の進歩に注目した橋本氏は事業転換を決意。
「私は動物病院で獣医師として働いた後、大学院に進んで動物の動作解析を研究していましたが、当時は大変な手間をかけて猿の行動データを集計・分析していました。ところが、AIを活用すれば短時間でデータ解析できるという文献を読み、AIはビジネスになると直感。それで、動作解析とAIを組み合わせたサービスに取り組み始めたのです」(橋本氏)
 動作解析サービスを手がけ始めた当初は医療分野に的を絞り、製薬メーカーやバイオ関連企業、研究機関などが集まって提携先のマッチングを行うイベントに参加した。
「医師などが主観に頼って診察する場合に比べ、当社のサービスを使えば客観的・定量的に診断ができます。また、安くて使いやすい点も評価され、多くの企業から引き合いがありました。ただし当社は受託解析なので、お客さまから最初の入金をいただくまでは半年くらいかかりましたね。
 厳しい時期をなんとかしのげた理由の1つは、創業時の当社が個人事業に毛が生えたようなものだったからです。経営規模をできるだけ小さくして経費を抑えることは、ベンチャーにとって成功のカギを握るのかもしれません」(橋本氏)

誰もが簡単にAIを使える世の中を目指す

 橋本氏のポリシーは「仕事を楽しむこと」。仕事を楽しめない人には新たな価値など生み出せないという意見だ。
「獣医学科で学んでいた頃は、動物の遺伝子配列を検出する作業に熱中していました。新たな配列を見つけると『遺伝子銀行』に登録することが、未開地の地図を作り上げていくようでとても楽しかったのです。一方、大学院では教授などに指示された作業をこなすのが苦手でした。自らの意思で取り組む仕事は楽しめますが、決められた通りにこなすだけの仕事はつらいし、作業効率も落ちてしまうもの。そこで部下には、仕事を押しつけたりせず、自主性を尊重するよう心がけています」(橋本氏)
 大企業だけでなく中小企業や個人がAIを簡単に使えるようにすることが、橋本氏にとって目標の1つになっている。
「いずれは、街の定食屋さんがAIを使って翌日の販売予測を立てるような世の中を実現できたらいいですね」(橋本氏)

「医療機器産業参入支援事業」の活用

 リサーチコーディネートはこれまで、各分野の専門家が新規事業計画を総合的に評価し実現への支援を行う「事業可能性評価事業」や、展示会出展の支援サービスといった、東京都中小企業振興公社(以下、公社)のサービスを利用してきた。
「会社立ち上げ前、創業支援施設の『Startup Hub Tokyo』に頻繁に足を運んでいたため、公社がさまざまなサービスを提供していることは知っていました。動作解析サービスの開始当時には、医療機器分野に参入する企業をサポートする『医療機器産業参入支援事業』を活用し、医療機器等開発着手支援助成事業への採択等含め、いくつかの助成金を受けています。
 公社には、助成金の申請手続きをもっと簡略化していただければと期待しています。ただ、資金面で不安のあった当社にとって、助成金はとてもありがたい支えでした。今後も、技術ある中小企業を支えていただきたいですね」(橋本氏)

利用事業 : 医療機器産業参入支援事業

都が委託する医工連携HUB機構を通じて医療機器メーカー及び臨床機関等との連携を促進し、都内中小企業による医療機器開発等を支援します。
お問い合わせ 取引振興課 医工連携担当
TEL 03-5201-7323
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/medical/index.html

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