東京都中小企業振興公社

no.180

「地図の力」で企業や個人を支える

代表取締役の阿部紘士氏は「Diground」のプレスリリースを2年間で30回配信。マーケット調査やSEO対策まで踏み込んだ新しい切り口の配信方法を試み、利用者数を大きく伸ばす。この独自の手法が評価されプレスリリース配信代行の依頼が増加、現在は大きな収益源のひとつとなっている。

地図上に写真などを記録できるサービス

 2016年創業のディグランドが手がけているのは、地図上に写真やコメントを記録できるスマホ用アプリ「Diground」だ。個人で使う場合は、旅行先の思い出や行きつけの飲食店を記録して友達と共有するなど多彩な楽しみ方が可能。また、地図上に顧客情報を表示できる法人向けサービス「Diground Biz」も提供している。
「顧客情報の管理ツールを導入しても、営業メンバーが入力を面倒がり、ツールが有効活用されないケースは珍しくありません。その点Diground Bizは、地図を長押しするだけで簡単入力できる点が長所です」(代表取締役 阿部紘士氏)
 Digroundの開発が始まったのは2014年。IT系企業に入社してから2年目、営業職だった阿部氏は社内の新事業コンテストにDigroundの原案を提出し、見事に優勝を果たした。
「大学4年生のとき、サークルで『タイムカプセル』を埋める企画を考えたのですが、都会では埋める場所が見つからずに断念。この経験をもとに、『地図アプリ上に写真やコメントを登録し、1年後にその場所に行くと内容を確認できる』というサービスを考えました。ところが前職は中小ベンダーで、開発に必要な人員や予算の確保に苦労しました。これでは日進月歩のアプリ市場で勝ち抜けないと考え、私は会社からDigroundの権利を買い取って独立しました」(阿部氏)

Digroundは競合サービスに比べてシンプル。また、iOSとAndroidの双方で使える点、利用者のプライバシーが守られる点も評価されている。

苦境打開のため公社の専門家に助言を求めた

 買い取りにかかった費用は「8ケタ」。多額の借金を抱えた阿部氏だったが、事業は期待通りには進まなかった。
「そもそもタイムカプセルは、人生で数回利用するかどうかという存在。そのためDigroundの利用者数は全く伸びませんでした。そこで方向転換し、地方自治体向けに『デジタルスタンプラリー』としての利用を提案したのですが、地方自治体の数は全国でたった1,700市町村。1カ月で営業先はなくなり、創業から数カ月の段階で当社は大ピンチに陥りました」(阿部氏)
 悩んだ阿部氏が見つけたのが、東京都中小企業振興公社(以下、公社)のサービス「事業可能性評価事業」。これは、経験豊富な専門家が中小企業の事業計画に対して助言・支援を行う仕組みだ。
「当時はお金も、経営面でアドバイスをくれるような人もいなかったため、わらにもすがる思いで面談に伺いました。そして、公社担当者とのやり取りなどもあって『一般企業向けに作り替えれば需要が見込めるのでは』というアイデアが浮かび、それがDiground Bizにつながったのです」(阿部氏)
 顧客情報の入力や管理が簡単で、価格が手頃な点が受け、さらにテレビ番組などで紹介されたことも手伝い、Diground Bizは一気に利用者数を増やした。その結果、ディグランドの売上額はここ数年、飛躍的に伸び続けている。

諦めない心で、ピンチをチャンスととらえた

 阿部氏が大切にしているのは「諦めない心」。
「Digroundのリリース当時、地図に記録を残す便利さを理解してくれた人はごく少数でした。ところが半年後に『ポケモンGO』が登場し、多くの人が『地図の楽しさ』に気づいて状況は好転したのです。当時は資金ショート寸前でしたが、諦めず続けられたことが、今につながっています」(阿部氏)
 阿部氏はポケモンGOの日本公開初日、部下と2人で首都圏300駅にどんなポケモンが登場するか調査。結果をDiground上で公開して大きな話題を集めた。その結果、それまで1日数件だったダウンロード数は、数千件に跳ね上がったのだ。
「最初にポケモンGOの話を聞いたときは、競合になるかもしれないと危機感を覚えました。でも、これはチャンスかもしれないと考え直し、すぐ動いたのです」(阿部氏)
 ピンチに際して頭を切り替える力と、決断して直ちに行動を起こす実行力。この2つが、阿部氏の強みかもしれない。

Diground Bizの画面。営業メンバーが登録した顧客情報は簡単にリスト化されるため、さまざまな切り口で検索して活用することが可能だ。

オンラインを活用した販路開拓を推進

 「事業可能性評価事業」を利用したことが大転機だったと、阿部氏は振り返る。ネット情報では解決できない経営の悩みに対し、公社の専門家から励ましや解決策を授かったことは心の支えとなった。また、専門家から紹介されて申し込んだ公社の販路開拓支援(現・オンライン活用型販路開拓支援事業)も有益だったという。
「会社員時代は営業職だったので販路開拓の基礎知識はあるつもりでしたが、さらなる成長を目指すため、オンライン活用法を学び、会社の顔である自社ホームページを刷新することができました。今後も公社には、起業したばかりの経営者を支えるサービスを数多く提供していただきたいですね」(阿部氏)

利用事業 : 事業可能性評価事業

新たな事業計画についてアドバイス・評価を行い、成長性が高いと認められる事業計画に対しては、公社の各種支援メニューを活用して、事業化に向けた継続的な支援を行います。
お問い合わせ 経営戦略課 
TEL 03-5822-7232 
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/hyoka/index.html

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