東京都中小企業振興公社

no.181

社員の自主性が5G開発を加速させる

世の中では「5G」に注目が集まっているが、森田テックではすでに「6G」への取り組みを始めている。代表取締役の森田治氏は、技術者の自主性を引き出し働きやすい環境を整えることで、開発を加速させていく考えだ

5G関連ソリューションなどで需要急増の企業

 森田テックは、「5G(第5世代移動通信システム)」「シールド」「高周波」「電磁波」の4つをキーワードにして事業展開している企業。電波などを遮る「シールドボックス」、高周波デバイスなどを組み合わせた「スイッチボックス」、電磁波を測定する機器などをカスタムメイドで提供している。中でも需要が急増しているのが、5G関連のソリューションだ。
「特許取得済み製品の『アンテナカプラ』は、5G基地局などで使われる機器や5G対応端末の試験に使われています。今は5Gの接続可能エリアが急拡大しており、当社製品の需要はとても大きくなっているのです」(代表取締役 森田治氏)
 同社の強みは「対応力」だと森田氏は語る。顧客企業がどんな試験をしたいのか聞き取り、要望に応じた機器を設計することで顧客の信頼を勝ち得てきた。その積み重ねが、現在の好業績につながっているというのだ。また、今年10月には5G関連技術の発展に貢献したことが評価され、森田氏は「東京都功労者表彰(技術振興功労賞)」を受賞している。

社内には70歳以上の技術者が何人もいる。豊富な経験と知識を兼ね備えたベテランは、若手社員にとって良い手本だ

自社開発に乗り出し社内の雰囲気が一変

 1993年の創業から受託開発によって利益を得てきた森田テックだったが、2010年頃に転機が訪れた。ある企業から電磁波を可視化する装置の開発を依頼された際、森田氏は「これは自社の強みを活かすことができる技術分野なのではないか?」とひらめいたのだ。
「そこで、自社技術を活用した電磁波可視化装置を展示会に出展したところ、反応は期待以上でした。そして、展示会で『この製品は必ず売れる』と声をかけてくれたコンサルタントと二人三脚で開発を進め、ついに初めての自社製品を生み出したのです」(森田氏)
 自社開発に乗り出したことで、社内の雰囲気はガラリと変わった。顧客から示された仕様に基づいて製品を作っていた頃に比べ、現場のモチベーションが飛躍的に高まったのだ。
「創意工夫をしながらものづくりができるのは、技術者にとって大きな喜びです。つまり自社開発を手がけることが、社員たちに良い緊張感とやりがいをもたらすのです」(森田氏)
 主力製品となった5G対応アンテナカプラを新開発できたのも、自社開発を通じて技術者たちに「自ら取り組み、工夫する習慣」が身についたからだと森田氏は考えている。

自らを「サービス業」と考え顧客と向き合う

森田テックはメーカーだ。しかし森田氏は、自社を「サービス業」だととらえ、折に触れ社員にもそう伝えている。
「私たちの最終目的は、お客さまに喜んでいただくことです。ですから製品だけを見るのではなく、顧客ニーズを常に意識するよう社員には伝えています。また、『自らの後工程も顧客だと考える』ことも強調します。例えば、営業担当者が設計担当者に顧客からの要望を伝えるとき、お客さまに説明するようなつもりでていねいに話せば、それだけニーズに合った製品を作れるようになるわけです」(森田氏)
 ところで、多くのメーカーは若い世代の技術者をほしがるが、森田テックでは年齢の高い人材を積極採用している。
「ベテラン技術者の中には、自分なりのテーマを持っている人がたくさんいます。そして時間的余裕がある4月や10月になると、主体的に研究を行って技術を磨いたり、新製品のヒントを見つけてきたりするのです。一方、『歳を取ると先端技術を学ぶ力が衰えるのでは?』と考える経営者がいるかもしれませんが、それは杞憂です。彼らには、豊富な経験を生かして新しい技術をものにする地力があるのです」(森田氏)

森田テックのアンテナカプラは、国内の大手携帯キャリア4社から採用。
試験環境の改善に大きく寄与している

助成金が5G開発を成功に導いた

 森田テックは2020年、東京都中小企業振興公社の「革新的事業展開設備投資支援事業」に選ばれた。これは、競争力強化や成長産業への参入、IoT・ロボット活用などを目指す中小企業に対し、機械設備購入費の一部が助成される制度だ。
「5G、6Gの開発には数千万円もする機械が必要でしたが、当社は機械導入の後押しとなる助成金を受けられたのです。当社が5G開発に成功したのは、助成金の力が大きかったですね。また、助成金申請の際には、担当者の方からいろいろと支えていただきました。『お役所の申請窓口は冷たい』という先入観を持っている人がいるかもしれませんが、それは誤り。こんなにも温かくしていただけるのかと意外に感じたものでした」(森田氏)

利用事業 : 革新的事業展開設備投資支援事業

上記事業は令和2年度で終了。現在は「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」となり、機械設備等を新たに導入するための経費の一部を助成しています。
(R3年度申請予約期間は終了)
お問い合わせ 設備支援課
TEL 03-3251-7884
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/yakushin.html

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