東京都中小企業振興公社

no.184

高い技術力で「優しい世界」の実現目指す

代表取締役の河野剛進氏(写真右)の横に映っているのは、さまざまな施設の混雑状況をリアルタイムで知らせるVACAN Mapsの画面。行列の待ち時間を減らすなどして顧客満足度を高める効果があり、「密」の発生を抑えることで新型コロナウイルス対策にも大いに貢献できる

「空席状況」という切り口で新サービスを開発

 バカンは2016年創業のITベンチャー。レストランやカフェ、トイレなどの空き情報をリアルタイムで提供するサービスを手がけている。現在の事業の柱は、地図上で店舗や公共施設などをタップすると混み具合を示す仕組みを用意する、空席情報プラットフォーム「VACAN(バカン)」だ。
「会社員時代、商業施設で子どものために飲食店を探したときに空きが見つからず、子どもが泣き出したことがありました。それで、大学院時代に研究していた画像解析の知識を生かし、センサーやカメラなどから集めた情報をAIで自動分析して施設の混雑状況を知らせるサービスを提供したら便利だろうと考えたのが、創業のきっかけです。まずは、トイレが空いているかリアルタイムで知らせるサービス『Throne(スローン)』を開発。そして2020年から、VACANの提供を開始しました」(代表取締役 河野剛進氏)
 VACANプラットフォーム上で動くマップ型空き情報配信サービス「VACAN Maps(バカン マップス)」には、飲食店やスポーツジム、宿泊施設など多くのスポットが掲載されている。そして各所で混雑を減らし、顧客満足度を高めているのだ。

AirKnock端末に滞在時間とトイレの混雑状況を表示することで、30分以上の長時間利用者を6割以上減らす効果が得られた。

避難所の混み具合を伝え「密」回避に貢献

 各種施設の空き状況を知りたいというニーズをとらえ、創業直後から順調に成長していたバカンだったが、コロナ禍で転機を迎えた。VACANのメイン顧客層だった飲食店や宿泊施設などが、軒並み休業などに追い込まれてしまったのだ。
「当社の業績にも、大きな影響が出ました。そんなとき、ある地方自治体から『VACANを使って投票所の混雑度を下げられないか』と問い合わせを受けたのです。このとき、公共施設でも当社のサービスが役立つと気づきました」(河野氏)
 現在自治体から多く寄せられているのは、避難所の混雑状況を可視化したいという要望。新型コロナウイルス対策で避難所でもソーシャルディスタンスの確保が必要になっているため、VACANの導入によって市民に混み具合を伝えて特定の避難所に人が集中することを避けようとしているのだ。
「VACAN Mapsの登録件数は、2020年のサービス開始からわずか1年半で1万3,000件を突破。すでに200以上の自治体で活用され、人口カバー率は20%弱に達しています。21年8月に発生した大雨では、九州地方・広島県・岡山県だけで100万回以上のアクセスがありました」(河野氏)

技術力はより良い社会実現のための手段

 バカンのミッションは、「いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる」というもの。技術の力で混雑を減らし、人々の心に余裕を生み出すことで「優しい世界」の実現を目指しているのだ。こうした考え方は、新サービスを企画する際にも貫かれている。
「最近オフィスビルなどから、トイレの長期滞在者が増えて困っているとよく相談されます。最初は携帯電話の妨害電波を出してスマホを使えなくしようかと考えたのですが、それでは『優しい世界』とは言えませんよね。そこで中にいる人に、トイレを待つ人がいるとさりげなく気づかせたいと考えて開発したのが『AirKnock(エアノック)』です。個室内の端末に滞在時間と周囲の混雑状況を表示することで自然な気遣いを促し、長時間利用者の大幅減に成功しました」(河野氏)
 バカンはセンサーなどから得た情報をAIで自動分析する仕組みで特許を取得するなど、高度な技術力を兼ね備えた企業だ。社内には優秀エンジニアも多い。しかし、技術はより良い社会を作るための手段に過ぎないと考えていて、それが顧客から多くの支持を集めている理由の1つなのかもしれない。

地図をタップすれば混雑度が簡単に確認できる仕組み。店舗ページから来店予約できる機能もあり、消費者・店舗の双方にメリットが大きい。

伴走してくれる専門家が心の支えに

 バカンは、経験豊富な専門家が企業の新たな事業計画についてアドバイスを行い、成長性が高いと認められる事業計画に対しては助言等の継続的支援も行う「事業可能性評価事業」を利用している。
「当社が手がけているサービスは斬新すぎて、最初はビジネスモデルや貢献できる分野について説明するのが一苦労でした。ところが、公社の専門家の方が親身になって『事業内容をこのように説明すれば、バカンの良さがもっと伝わりやすくなる』などとアドバイスしていただきました。人的資源に限りのあるスタートアップ企業にとって、伴走してくれる専門家の存在は本当に助かりましたね。また、当社は今後、海外進出を強化したいと考えているのですが、そこでも公社からのサポートを期待しています」(河野氏)

利用事業:事業可能性評価事業

新たな事業計画についてアドバイス・評価を行い、成長性が高いと認められる事業計画に対しては、公社の各種支援メニューを活用して、事業化に向けた継続的な支援を行います。
お問い合わせ 経営戦略課
TEL 03-5822-7232
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/hyoka/index.html

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