東京都中小企業振興公社

no.185

進化する「力覚」が支える次世代医療

代表取締役社長の只野耕太郎氏が操作しているのは、新型手術支援ロボット「Saroa(サロア)」の制御器(マスター)。競合製品が主に前立腺手術で使われているのに対し、Saroaは泌尿器科領域だけでなく、肺など柔らかい臓器での活用も見込まれている

手術支援ロボットを作る大学発ベンチャー

 リバーフィールドは2014年創業の国立大学発ベンチャー。東京工業大学の研究者が中心となり、手術支援ロボットの製品化を目指して設立された。代表取締役社長を務める只野耕太郎氏も、現在、東工大の准教授を兼務している。
 手術支援ロボットの分野には、すでに高いシェアを獲得している競合製品がある。しかし、リバーフィールドの新製品には互角以上の勝負をする力があると、只野氏は見ている。
「他の手術支援ロボットの場合、臓器に触れたりつかんだりした際にどの程度の力がかかっているのか、感覚が直感的には伝わりづらいと思います。これに対し、当社の製品は空気圧シリンダーと圧力センサーを使い、医師の手に力の感覚「力覚」が伝わる仕組みになっています。そのため、以前はかなりの熟練度が必要だったロボット操作が、もっと容易になると期待されているのです。他にも、人に機械が触れたときのタッチが柔らかくて臓器などを傷つけるリスクが低いなど、空気圧方式には多くのメリットがあります」(只野氏)

操作する医師の手元に人に触れた際の力加減などが伝わるため、臓器などを傷つける危険性が従来より下がることが期待されている

競合に勝つため独自の工夫を積極導入

 創業当時は、リバーフィールドより大学准教授の仕事がメインだった只野氏だが、2018年、CTO(最高技術責任者)に就任。そこからは、研究から経営に軸足を移した。
「当時は開発速度を高めるため、空気圧を利用する点以外は競合製品と似たスタイルを採用していました。しかし、競合製品が進化し、ライバルが増える中で、独自の工夫をもっと取り入れなければ勝てないと考えたのです。そこで、大学で次世代ロボットの研究を進めていた私がリバーフィールドに腰を据えて関わるようになり、新コンセプトを提案して開発を進めることになりました」(只野氏)
 競合製品はロボットアームが比較的大きく、アーム同士が干渉するケースがあった。そこで只野氏たちは構造を見直し、より干渉しづらいアームを実現。さらに、競合製品より運用を楽にするため軽量化を図ったり、アームの数を1本減らすなどしてコストを大幅に抑えるなど、競争力の高い製品を仕上げつつある。
「今年5月に薬事申請を行い、うまくいけば年末に承認、来年1月に市販という日程で進めたいですね」(只野氏)

産学連携目指す企業は公募情報を確認すべし

 リバーフィールドは、ロボットの製作についてはさまざまなメーカーの協力を受けている。
「アイデアを短期間で試作品にまとめてくれるものづくり企業は、研究者にとって本当にありがたい存在ですね。また、国の外郭団体などが研究開発を支援する企業を公募していますから、産学連携に興味のある企業はそういった情報をこまめにチェックするといいかもしれません」(只野氏)
 リバーフィールドは国立大学発ベンチャーということもあり、事業の公共性・公益性を重んじている。一方、企業としては自社の利益も大切だ。社会のために役立ちながら、株主などの期待に応えて早い段階で売り上げを拡大できるよう、上手な舵取りが只野氏には求められているのだ。

グリップ(操作部)が「力覚」や操作感などの感触を安定して伝えることで、手術においてより細かく正確な操作が可能に

知財センターは実に頼りになる存在

 リバーフィールドの手術支援ロボットは、世界市場を視野に入れて開発中だ。それには、世界各国で早期に特許出願を行うことが大切だが、その際に東京都中小企業振興公社の東京都知的財産総合センターからバックアップを受けている。
「以前は日本で特許を出願後、その優先権を利用して海外特許に移行する流れでした。しかし知財センターからの助言で最初から国際出願をする『ダイレクトPCT出願』に切り替え、短期間で海外での権利化が可能になったのはとてもありがたかったですね。また、知財センターの『外国特許出願費用助成事業』では、外国特許出願などにかかる費用の半額を助成していただいています。知財センターは私たちにとって、頼りになる存在です。知財センターには今後も、特許出願の分野で支援を期待しています。例えば、当社の技術が海外で特許化されているか確かめる作業には重い負担がかかるのですが、そのあたりを手助けするサービスがあると嬉しいですね」(只野氏)

利用事業:知的財産相談・出願費用助成事業

専門知識を有するアドバイザーが国内外の特許・商標・意匠・著作権等に関する相談に無料で応じます。国内外の知的財産出願費用の一部助成等も行っています。
お問い合わせ 東京都知的財産総合センター
TEL 03-3832-3656
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/index.html

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