東京都中小企業振興公社

no.186

創業130年企業が取り組む新事業チャレンジ

代表取締役社長の下平克彦氏と、代表的製品「自動引火点試験器」。同社は石油試験器のマイコン制御を世界に先駆けて導入したリーディングカンパニーであるが、脱炭素社会の到来に備えて新たな分野へも挑戦している

石油試験器のグローバルニッチトップ企業

 1892年創業の田中科学機器製作は、1950年代後半から石油・石油化学分野の品質管理用試験器に的を絞って事業を展開。主力製品の引火点試験器や蒸留試験器は世界70カ国以上で使われている。流動点・曇り点試験器の分野では世界シェア13%以上を獲得し、これにより2020年には、経済産業省が認定する「グローバルニッチトップ企業100選」にも選ばれた。
 ただし、海外売上が伸びたのはここ十数年のことだと、代表取締役社長の下平克彦氏は振り返る。
「当社製品は、高い信頼性と使いやすさで海外でも好評を得ていました。ところが、1990年くらいまでの当社は海外顧客とのやり取りを商社に任せきりで、きめ細かなフォローができていなかったのです。そこで、2000年代に迅速なメンテナンスサービスができる販売網に再構築しました。さらに、流動点・曇り点試験では新たな試験法を開発し、事実上の世界標準である『ASTM』(アメリカ材料試験協会)に採択されました。これら一連の取り組みの結果、海外売上比率が、2008年には75%を突破したのです」(下平氏)

石油はグローバル市場で取引される「国際商品」。田中科学機器製作は厳格な品質管理をベースに、常にグローバル対応力を磨いてきた

脱炭素に対応し「石油以外」への進出目指す

 海外市場での躍進には成功した田中科学機器製作だが、脱炭素社会の到来に備え、以前から石油関連製品以外の事業の柱を求めていた。そこで同社では、経済産業省の「中堅・中小企業とスタートアップの連携による価値創造チャレンジ事業」を利用し、新事業の立ち上げに乗り出している。
「まずは燃料ガス向けの試験器づくりに取り組み、やがては他の工業用ガスに使える機器を生み出すのが目標です。私たちのお客さまである石油会社の中には燃料ガス事業を手がける企業も多く、当社のブランド力と販売ルートを生かしてガス試験器の販売が可能ではと期待しています。一方、石油は液体でガスは気体という違いがあり、今後は製品化に向け、技術的に超えなければならないハードルも出てくるでしょうが、当社とパートナーのスタートアップ企業さまの力を結集して乗り越えたいと考えています」(下平氏)
 社内資源に限りがある中小メーカーにとって、ゼロから新分野に進出するのは難しい。そこで、社外研究者や他社に知恵や技術を借り、こちらからは製造能力や販売網などを提供する、産学連携・産々連携への取り組みが大切だと下平氏は指摘する。
「今回の経済産業省のスキームでは、親和性の高い中小企業とスタートアップ企業を引き合わせることで事業創出を目指しています。こうした機会を利用して社外とつながりを持てば、中小メーカーにもチャンスが広がるかもしれませんね」(下平氏)

地道な取り組みで社風変革に注力

 利益向上を目指す一方、下平氏は社員の自己実現も大切にしている。その一環で取り組んでいるのが、社風の変革だ。
「当社は2015年に企業理念や行動指針を策定したのですが、それだけでは企業は変われません。社員が働きやすい仕組みをつくるためには、人事制度の改革など地道な取り組みが不可欠です。今後は、社員がモチベーションを高め、仕事を楽しめて熱中できるような仕組みや雰囲気を作るために、さらに努力したいと考えています」(下平氏)

130年の社歴の中で、石油試験器は120年前から製造販売してきた。昨今は石油試験法の国際規格の立案・メンテナンスにも積極参加している。写真は初期の総合カタログの石油試験器掲載ページ

スクールでの出会いが大きな刺激に

 下平氏と営業部長は2020年、東京都中小企業振興公社のメールマガジンがきっかけで「東京都新サービス創出スクール」の存在を知り、ベーシックコースを受講した。
「参加したのは、石油関連製品以外の新サービスを生み出すヒントがほしいと思ったからです。実際に受けてみると、どの講座も実に刺激的でしたね。事業プランの発表会では、私たちは試験器のレンタル事業を提案。生粋のメーカーである当社がサービス業について考えることで、視野が広がるなどの効果があったと思います。また、一緒に受講した皆さんのプランを聞けたのも貴重な機会でした。こんなに斬新なアイデアがあるのかと驚きましたし、中には最終発表会以前に事業化にこぎ着けた企業もあって、『彼らのスピード感に負けず、当社も頑張ろう』と改めて感じたものです」(下平氏)
 コロナ禍で受講スタイルがオンラインになり、同級生たちと肩を並べて学ぶ機会が無かった。しかし、ネットでつながった他社受講生に刺激を受けた下平氏たちは、新事業に向けた取り組みをさらに加速させているのだ。

利用事業:東京都新サービス創出スクール

東京発の新たなサービスモデルの創出や、サービス分野で生産性向上を図るうえで必要な基本的知識の習得、実践力を養成するスクールです。
お問い合わせ 企業人材支援課
TEL 03-3251-7904
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/service/school.html

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