東京都中小企業振興公社

no.187

伝統と革新を融合し感動を生み出す

「江戸木目込人形」は、粘土の一種である桐塑(とうそ)でつくった原型に溝を掘り、衣装の端を埋め込む(木目込む)伝統的手法で作られる。柿沼人形は、そこに新発想・新手法を取り入れた。従来のひな人形(写真左)に対し、新商品itowa(右)はコンパクトで飾りやすく、顔もかわいらしく現代風に

伝統技術を踏襲し斬新な発想と手法で挑む

 柿沼人形は、「江戸木目込人形」と呼ばれる手法でひな人形や五月人形を製造する企業である。初代・柿沼東光氏が1950年に創業し、経済産業大臣と東京都知事認定の伝統工芸士である二代目・柿沼東光氏(現会長)が継承。そして現在は、二代目の長男である柿沼智徳氏が三代目として経営の指揮を執り、次男の柿沼利光氏が製造部門を率いるという体制で会社を運営している。
 柿沼人形は以前から、斬新な発想・手法を大胆に取り入れる企業として知られてきた。代表取締役社長の柿沼智徳氏はこう語る。
「例えば、二代目は30年ほど前、お内裏様・お雛様と五人囃子が桜の下で宴を楽しむひな飾りセットを作りました。当時のひな飾りは、お内裏様とお雛様の下に三人官女や五人囃子が整然と並ぶセットばかりでしたが、当社は固定観念にとらわれず、華やかな宴というシーンを設定して見る人を楽しませようとしたのです。このような『伝統を踏襲しつつ常に革新を目指し、喜びや感動を生み出す』という考え方は、今も当社を貫いています」

季節に左右されない商品作りに取り組む

 業界内で確かな地位を占めている柿沼人形だが、少子化が進中で強い危機感を覚えていた。
「子どもの数が少なくなれば節句人形の市場も小さくなるため、常に焦りを感じていました。また、節句人形は売り上げが春に集中します。閑散期をなくすことも、当社にとって重要なテーマでした」(智徳氏)
 そこで同社は、季節に左右されず、子ども以外にもターゲットを広げた商品を作ろうと取り組みを開始した。2015年には社外デザイナーと協力し、東京都中小企業振興公社主催の「東京手仕事プロジェクト」に参加。また、海外の展覧会に、顔にスワロフスキーをあしらった招き猫を出品するなどして知名度を高めた。
「空港のショップなどでの取り扱いが増えるなど、海外ニーズは伸びました。現在はコロナ禍でインバウンド需要は厳しい状況ですが、国内市場が縮小する中、海外市場には今後も力を入れる予定です」(智徳氏)

智徳氏(写真右)と利光氏(左)は共に異業界で働いた経験がある。伝統工芸以外の世界を知っていることは、現在の仕事にも生きている

消費者と直接触れあい商品のヒントつかむ

 柿沼人形は2020年末、従来の商品よりずっとコンパクトなひな人形「itowa(いとわ)」を新発売した。
「当社1階の直売所では、『コンパクトなひな人形がほしい』『現代風でかわいい人形はないか』という要望を数多くいただいていました。itowaは、そうしたお客さまの声に応じて作った商品です」(智徳氏)
 この業界では販売を卸業者に任せる企業が多いが、柿沼人形は早い段階から小売業にも乗り出していた。自社の店頭で消費者のニーズに直接触れていたことが、新たなヒット商品を生み出す原動力になった。
 なお、智徳氏は公開できる技術はオープンにするし、同業他社とも積極的に協力する方針をとっている。
「縮小している業界で互いに争っていてはダメ。皆で一緒になって、業界全体を盛り上げる姿勢が大切だと思います」(智徳氏)

2015年「東京手仕事プロジェクト」の普及促進支援となった招き猫。プリント布地や革など従来の木目込みにない素材を使い、個性が光る

公社の支援受け新商品開発を加速中

 柿沼人形はこれまでに、公社のサービスをいくつも利用してきた。前述のitowaも、東京の地域資源を活用した新製品開発を支援する「TOKYOイチオシ応援事業」を利用して生まれたものだ。
「普段から『ARGUS』を読んだり、公社の担当者の方からお話を聞いたりして、さまざまな公社サービスの情報を得てきました。中小企業の場合、予算やマンパワーなどの面で限界があって新商品の開発は大変ですから、公社からの支援はとても助かります。現在は『TOKYO地域資源等活用推進事業』を利用し、他の伝統工芸の技術を組み合わせた新商品に取り組んでいます。まだ開発中なので詳細は明かせませんが、2023年くらいには、従来の江戸木目込人形に新たな魅力を加えた商品を、世に送り出したいですね」(智徳氏)

利用事業:TOKYO地域資源等活用推進事業

東京の地域資源を活用または都市課題を解決する新製品や新サービスの開発・改良にかかる経費の一部を助成しています。開発期間中は専門家が円滑な事業遂行をサポート。開発完了後には展示会出展や動画制作による販路開拓支援を行っています。
お問い合わせ 総合支援課
TEL 03-3251-7881
助成課(助成に関すること)TEL 03-3251-7895
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/chiiki.html

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