東京都中小企業振興公社

no.192

現場から徹底的に学ぶ姿勢が革新的な製品を生みだす

高山医療機械製作所のメイン製品の1つである吸引管を手にする、代表取締役社長の髙山隆志氏。従来型の製品は注水と吸水のそれぞれにボタンがあったが、この製品は注・吸水を1つのレバーだけで操作可能だ。外科医の負担を少しでも減らしたいという思いが実現した製品といえる

大胆な機械化で生産性を向上

 高山医療機械製作所は、手術用医療器具を手がけるメーカーだ。同社製のピンセットや吸引管、手術用ハサミなどは、世界中の外科医から愛用されている。
 同社は、4代目社長の髙山隆志氏が入社した1980年代以降、機械化を大胆に推し進めてきた。
「それまでの当社には1台も工作機械がなく、ステンレスなどの『難削材』をすべて手作業で加工していました。こうした古いやり方を続けていると、効率は上がらないし、技術の継承にも長期間かかる。そこで私は、職人技を機械で置き換えるため、独学で工作機械の研究を始めたのです。先代である父からは、くだらないことをするなとよく叱られました」(代表取締役社長 髙山隆志氏)
 同社は2000年代に入ると、NC(数値制御)の手法を導入。高度な工作機械で品質にバラツキのない部材を作り、そこに職人が最後の仕上げをして付加価値の高い製品を作る工法を確立し、売り上げを伸ばした。

手術に立ち会って「現場のニーズ」を知る

 高山医療機械製作所の代表作の1つに、高名な脳神経外科医である上山博康医師と共同開発した手術用ハサミ「上山式マイクロ剪刀ムラマサスペシャル」がある。現在では国内シェア9割を誇り、海外の外科医からもたくさん引き合いのある製品だが、開発が始まった当初は苦労の連続だったと、髙山氏は振り返る。
「私は医学用語なんて知らなかったし、手術現場がどうなっているかも分からない。ですから、最初の頃は上山先生の要望を全く理解できず、ピントのずれた試作品を何度も作ってしまいましたね。それで、まずは医学部生向けの本を読み、解剖学などの知識を得ました。また、実際の手術に立ち会って医師が現場でどのように動いているか見せてもらうなどした結果、ようやく満足のいくモノができあがったのです」(髙山氏)
 相手の要望を聞き取るだけでは不十分。自らの目で現場を確かめ、医師と協力しつつ製品改善に取り組む髙山氏の姿勢は、他のものづくりメーカーにとっても学べるところが多いはずだ。

若手社員の多くは大学・大学院の卒業者。同社の評判が高まったことで、有望な人材が多く集まるようになった

「勇気ある経営大賞」大賞を受賞

 高山医療機械製作所は2020年に約1億円、2021年には1億円を超える機械を導入するなど、現在も最新設備の導入に積極的だ。
「ハイエンドマシンを導入し、少人数で複数の機械を動かす体制を作る。そうすれば労働生産性が高まって利益拡大が可能になり、さらに次の設備投資につながるというのが、私たちの経営方針です。また、ほとんどの設計データを3次元化するなど、IT化やデジタル化も進めていますね」(髙山氏)
 2016年からは本格的な海外展開にも乗り出し、現在は40カ国以上に進出を果たした。
「海外の有名な外科医に声をかけ、当社の器具を使ってもらいました。その中のお一人から当社器具のおかげで手術時間が短くなったと褒められ、そこから評判が広がったのです。さらに、ISO13485の取得で海外からの注文に応えられやすくなったこともあり、現在では売上額の3割以上を海外で稼いでいます」(髙山氏)
 こうした実績が認められ、2022年には東京都中小企業振興公社の推薦により東京商工会議所の第20回「勇気ある経営大賞」(大賞)を受賞している。

2021年に導入されたスイス製の工作機械。このときも、設備投資の助成金を受けた

助成金は中小企業にとって大きな助け

 高山医療機械製作所が東京都中小企業振興公社の事業を利用し始めたのは、2014年頃のことだ。「設備投資に対する助成金について調べるうちに『革新的事業展開設備投資支援事業』※の存在を知り、これまでに3回助成金を受けました。公的な助成金を受け取るためには、自社の経営体質を普段から良くしておくことが大切です。それは簡単なことではありませんが、努力して体制を整え、助成金を得られれば、経営には大きなプラスをもたらしますね。また、公社には海外進出支援や研究開発支援など多彩な事業があります。中小企業にとって、公社の利用価値はとても高いと思いますよ」(髙山氏)

※「革新的事業展開設備投資支援事業」の新規募集は令和2年に終了し、令和3年度より「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」を実施している。

利用事業:躍進的な事業推進のための設備投資支援事業

更なる発展に向けた競争力強化、デジタルトランスフォーメーションの推進、都市課題の解決に貢献し、国内外での市場拡大が期待される産業分野におけるイノベーションの推進、後継者による新たな取組に必要な機械設備等を新たに導入するための経費の一部を助成します。
お問い合わせ 設備支援課
TEL 03-3251-7884
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/yakushin.html

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