東京都中小企業振興公社

no.193

社員一人ひとりが自ら考え 仕事をする組織へ

代表取締役社長の宮川容子氏(写真中央)は、製造部門を取り仕切る専務取締役の及川友明氏(写真右)や、埼玉工場の責任者でもある取締役兼社長室長の宮川岳大氏(写真左)などと協力しながら、さまざまな分野で社内改革を進めている

ニーズ対応力と人材育成に定評のある企業

 大森クローム工業は1951年の創業以来、「工業用クロムめっき」を手がけている企業だ。最大の強みは対応力の高さ。3万リットル級めっき槽などの設備を備えているため大型製品にもめっき処理ができ、研磨などの前処理から治具製作まで社内でまかなえることもあり、要望に合った処理方法を提案できる。
 同社はまた、先進的な人材育成制度を取り入れていることでも知られている。例えば、社内で求められる100項目のスキルに対し、各社員がどの程度まで到達しているか示す評価シート「巨匠への道」を導入。一人ひとりが伸ばすべき能力を可視化して研修に役立てたり、「職人」「匠(たくみ)」「巨匠」などの社内資格を認定してモチベーションアップにつなげている。こうした取り組みが評価され、2018年には東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞の大賞にも選ばれた。
「多様化した人々のニーズに対応し、働き方改革を一歩前に進めるため、人事制度やマネジメントに関するセミナーや本などに触れ、学ぶよう心がけています」(代表取締役社長 宮川容子氏)

組織に「横串」を通す活動に取り組む

 コロナ禍以降、売り上げは一時的に落ちた。しかし宮川氏は、あえてこの時期に、ピラミッド型だった組織を、「自律・共同体型」の組織に変えると宣言した。
「上司からの命令を待つのではなく、社員一人ひとりが自ら考え仕事をする組織にする方が、変化の激しい世の中に対応しやすいですし、何より、社員が幸せを感じやすくなると思ったのです」(宮川氏)
 その一環で取り入れたのが「5分ミーティング」。これは、問題が起きるたびに部門の枠を超えて関係者が集まり、全員で1つずつ意見を出し合ってその場で結論を出すやり方だ。こうした取り組みを通じ、社員の間には自分たちで考え動く習慣が根付きつつあるという。
「ただ、一足飛びに組織を変えようとするとうまくいきません。当社には以前から、部門横断的に各プロジェクトメンバーが集まり、イベント企画やIT化などに取り組む『委員会制度』がありました。ここで社員が、組織に横串を通す活動に慣れていたからこそ、5分ミーティングなどの新制度にもすぐ対応できたのだと思います」(宮川氏)
 大森クローム工業は小中学生への体験学習の受け入れなど、地域貢献にも尽力している。受け入れ時は「イベント委員会」が対応し、社員は楽しみながら工夫して受け入れを行っているという。このような社会活動など、都内中小企業経営者の範となる取り組みをされていることから、宮川氏は2022年に公社の中小企業表彰功労賞を受賞された。

若い世代の不安や不満を解消しながら高度な技術を伝承していくため、さまざまな工夫をこらしている

ピンチで高まった危機感が改革の原動力に

 大森クローム工業では他にも、さまざまな人事制度導入を進めているところだ。その背景にあるのが、全社員が幸せになってほしいという企業理念である。
「人生の中で、仕事をする時間の割合はとても大きいじゃないですか。ですから、社員には幸せを感じながら働いてもらいたいのです。そのために力を尽くすことが、経営者の役割だと思っています」(宮川氏)
 コロナ禍のようなピンチは、企業が改革を進める上で逆にチャンスになり得るというのが宮川氏の意見。
「コロナ禍により、経営陣はもちろん、全社員が強い危機感を覚えました。『何とかしなければ生き残れない』と一丸となったことで、改革を加速できたのです。今後もピンチに萎縮せず、良いものは貪欲に取り入れて社内をさらによくしていきたいですね」(宮川氏)

埼玉や東北の工場と一体となって、一点モノの製品から量産品までを製造。全国の顧客から高い評価を受けている

公社は企業の背中を押す力強い存在

 公社との付き合いが始まったのはリーマン・ショックの頃で、専門家派遣を受け就業規則を見直した。その後も、「BCP実践促進助成金」や「5Gによる工場のスマート化モデル事業」などで助成を受けている。
「設備の新設・改修に多額の費用がかかる業態の場合、新分野に大きな予算を振り分けるのは勇気がいります。公社の助成金は、そうして新たな挑戦に踏み出せなかった企業の背中を押してくれる、力強い存在ですね。2022年には、上司や人事だけでなく同僚からも評価を受ける『360度評価』を導入するため、改めて専門家派遣を受けました。今は激動の時代。これまで通じていたことも10年もすれば古くなってしまいますから、公社や専門家の方々の支援を受けながら、常に制度をリニューアルしたいと考えています」(宮川氏)

利用事業:専門家派遣事業

中小企業の皆様が抱える経営課題の解決を図るため、公社に登録されている中小企業診断士・税理士・社会保険労務士・ITコーディネータ等、幅広い分野の専門家を派遣する事業です。皆様の事業所や工場などの現場へ専門家が直接出向き、アドバイスいたします。
お問い合わせ 総合支援課
TEL 03-3251-7881
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/specialist/index.html

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