東京都中小企業振興公社

no.194

健康に暮らせる社会をロボット技術とアイデアで

代表取締役社長の栄田 源氏(写真左)は、早稲田大学大学院先進理工学研究科生命理工学専攻博士後期課程の学生でもある。「次世代型全自動歯ブラシが製品化できたら、次は歯ブラシを使って口腔内のデータを取得する研究に取り組みたい。歯を磨きながら、手間なく健康状態を確認できる社会を実現できたらいいですね」(栄田氏)

次世代型全自動歯ブラシで大きな話題に

 Genicsは2018年創業のベンチャー企業。同社が手がける「次世代型全自動歯ブラシ」は、複数のブラシで成り立つマウスピース型ブラシを口にくわえるだけで歯を磨ける新しいデバイスだ。
「大学院でロボットの研究をする過程で、私は『面倒なことリスト』を作りました。風呂掃除のように面倒くさくてまだ自動化されていない作業を見つけ出し、それらをロボットで便利にしようと考えたのです。そこで浮かび上がったのが、『毎日の歯磨きの自動化』というアイデアでした」(代表取締役 栄田 源氏)
 歯磨きをおざなりにすると歯周病などを引き起こすし、さらに放置すると脳梗塞や心筋梗塞の遠因になるといわれている。特に、自力での歯磨きが難しい高齢者などにとって、全自動歯ブラシは大きな助けとなるだろう。そう考えた栄田氏は試作機を作り、介護施設で実証実験を重ねた。現在は、歯磨き時間の短縮化や、形が異なる歯・口への対応力強化などを目指して改良を加えているところだ。これまでにテレビなどのメディアで何度も取り上げられ、大きな評判を呼んでいる。

苦境に陥っても、今できることをする

 Genicsは創業の翌年、電子機器見本市「CES2019」に試作機を出展。多くの企業や研究者の関心を集めて栄田氏は自信を深めたが、ここで立ちはだかったのが、口腔内の形状データの収集という壁だった。
「人によって形が異なる歯や口に合わせ、フルカスタマイズで歯ブラシを作ったら、単価が高くなり過ぎます。そこで医療機関の協力を得てデータを集め、人の歯や口の形を数種類に絞り込もうと考えていました。ところがコロナ禍で、医療機関との協力はおろか、大学での研究もできなくなったのです。資金調達も難しくなり、当社は苦境に追い込まれました」(栄田氏)
 こうした状況で栄田氏は、今できることをやろうと切り替えた。起業家である先輩のオフィスの一角を借り、研究を続行。そのうちに、医療機関や介護施設との協力も得られるようになった。現在では多くの歯型を取れる環境が整い、研究は再び加速している。

最新の試作機では歯磨き完了まで約1分半かかるが、これを30秒まで縮め、さらに磨きの精度を高めるのが目標だ

展示会は企業同士が出会うための絶好機

 まだ存在していない製品・サービスを作ることで、世の中をよりよくしていきたいというのが栄田氏のポリシーだ。そのためには医療機関だけでなく、メーカーとの協力関係構築が不可欠だという。
「私たちには研究で培った知見はありますが、製造のノウハウはありません。口の中に入れても壊れず、快適に使いやすい全自動歯ブラシを量産するには、ものづくりのプロと力を合わせる必要があるのです。ただ新しい大学発ベンチャーにとって、よいメーカーと出会う機会は少ないというのが現状です」(栄田氏)
 そういう意味で、ベンチャー企業やメーカーにとって、展示会は貴重な機会だというのが栄田氏の意見。例えばGenicsも、CESに出展する際のGenicsのプレスリリースを目にして声をかけてくれた歯ブラシメーカーと、現在も協業を行っているそうだ。
「展示会での出会いが、その後の成長につながる可能性は十分にあると思います」(栄田氏)

アメリカ・ラスベガスで開かれた世界最大級の電子機器見本市「CES2019」で、Genicsの試作品は注目を集めた

今後は特許などに関する支援に期待

 Genicsは2022年、各分野の専門家から新規事業計画の総合評価・事業化支援を受けられる「事業可能性評価事業」を利用した。
「私たちは研究者なので、経営や事業化に関する情報はあまり持っていません。そこで、さまざまな専門家に経営面で手助けしてほしいと思ったのが、このサービスを利用した動機です。専門家の皆さんは実務経験が豊富なので、私たちの事業計画の中で欠けていた部分や、机上の空論のようになっていた箇所にもいち早く気づき、適切なアドバイスをいただけています。
 公社には今後、特許とエクイティ(株主資本)に関する助言を期待しています。自社の技術を守るためにはどうしたらいいか、そのためにはどの程度の資金が必要かなどを教えてほしいですね」(栄田氏)

利用事業:事業可能性評価事業

各分野の専門家が個人・企業の新規事業計画を総合的に評価し、事業化に向けて支援する事業です。新たな事業計画について面談等にて客観的なアドバイス・評価を行い、さらに評価委員会で成長性が高いと認められた事業計画に対しては、公社の各種メニューを活用して継続的な支援を行います。
お問い合わせ 経営戦略課
TEL 03-5822-7232
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/hyoka/index.html

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