東京都中小企業振興公社

no.195

自社製品を生み出し社員に誇りを持たせる

小沢製作所の代表取締役 小沢昌治氏が手にしているのは、自社ブランド製品の「MOSS™ FIRE(モス・ファイア)」。5枚のパネルを組み合わせると2~3人用、4枚を組み合わせるとソロキャンプ用の焚き火台として使えるもので、アウトドア好きから高く評価されている

提案力の高さが強みの精密板金加工企業

 小沢製作所は、板金加工の中でも特に高い精度が求められる「精密板金加工」を手掛け、大手メーカーなどに電子部品や精密機器用の金属部品を納めている企業だ。試作から量産までを短期間で実現する能力は、業界からの評価が高い。また、発注元と議論を重ね、より良い製造方法などを提案する力も大きな強みだ。
「当社は1969年の創業以来、『気づいて築くものづくり』を続けてきました。設計段階から開発に参加し、短期間で安価に製造できる方法を見つけ図面に反映する。そうしたやり取りを通じ顧客の利益を最大化することが、当社の得意分野です」(代表取締役 小沢昌治氏)

「これは私が作った」と胸を張れる製品を

 小沢製作所は2018年から、自社の魅力を発信する取り組みを始めた。その狙いは2つあったという。
「一つ目は、社員の誇りを育てることでした。飲食店の店主は来店客から『おいしかった』と褒められると嬉しく感じるでしょうし、建設会社に勤めている人なら自分が携わった建物が完成すると自慢に感じるはずです。ところが板金職人の場合、自分が何を作っているのか分からないケースが少なくありません。そこで、目に見える成果物を自社で手掛けることで従業員に『この商品は私が作ったんだ』と胸を張れるようにし、仕事への熱意を高めたいと思いました。
 二つ目の狙いは採用対策です。部外者には分かりづらい精密板金の仕事も、完成品があれば『技術を磨けばこんな仕事ができるよ』と伝えやすくなり、就職志望者を引きつけられると期待したのです」(小沢氏)
 その一環として開発したのが、2021年度のグッドデザイン賞も受賞した大人気の焚き火台「MOSS™ FIRE」である。機能性が優れているだけでなく、美しい金属加工も魅力的なこの商品は小沢製作所の知名度を一気に高め、社員にとってまさに自慢の商品となっている。

青梅商工会議所が主催して行われた工場見学イベント「おうめオープンファクトリー」の様子。イベントの企画は手間もかかるが、それ以上に得られるものが多いのだそうだ

人の心をつかむものづくり企業へと脱皮

 板金に興味を持つ人を募り、社員が指導者役となってものづくりを体験させるワークショップの開催も、小沢製作所の魅力を発信する取り組みの一つだ。
「事前準備などもあり、指導役の負担は決して小さくありません。でも彼らは、苦労を上回るいい経験が得られています。板金未経験の受講生にわかりやすく教えようと試行錯誤したことは後輩を教える際に役立っていますし、決まった時間内に完成させようと努力したことで仕事の段取り力も磨かれました。また、コロナ禍以降はオンラインで社外向けイベントを開いたのですが、このとき、リモートツールの使い方や、カメラを使った伝え方などで新たな発見ができました。イベントは当社の魅力発信だけでなく、社員教育など幅広い分野で効果をもたらしているのです」(小沢氏)
 現在、同社の社是は「気づいて築くものづくり、目だけでなく心も奪うものづくり」と書き加えられている。製品を実直に作るだけでなく、自らの強みや魅力を社外へと積極的に伝え、多くの人の心をつかめるような企業へと脱皮を果たしたのだ。

精度の高い仕上げは小沢製作所の得意分野。公社の助成金制度を使って新鋭機器を導入したり、社員の多能工化を進めたりして、より高精度・高品質なものづくりを目指している

公社で企画のまとめ方を学び開発が加速

 小沢製作所は2018年から公社の「事業化チャレンジ道場」に参加。前述の「MOSS™ FIRE」は、ここで開発を進めて商品化されたものだ。
「焚き火に魅力を感じる人は多く、社内でも同様でした。そこで、工業的なイメージと金属加工の創意工夫で、既存製品とは異なる魅力を持った製品を造り、私達のものづくりの魅力を提案したいと考え開発を始めました。最初は企画書の作成等に四苦八苦しましたが、専門家の方から『小沢さんはモノを作りながら企画を創れる』とアドバイスを頂いたことで、プロジェクトが一気に加速。企画設計2カ月、試作評価5カ月を要し開発することができました。結果的に、クラウドファンディング支援者からのご好評と、機能性が高く評価されたことでグッドデザイン賞も受賞でき、私だけでなく社員達にも大きな自信になりました。」(小沢氏)

利用事業:事業化チャレンジ道場

自社製品の開発や新規事業の立ち上げを通じて、新たな自社ビジョンの実現に挑戦する企業をサポートする事業です。
新製品の企画・製品化・量産化・商品化・販路開拓までのプロセスを実践的に習得し、企業の成長・発展に向けた事業の創出にチャレンジします。道場修了後も企業が自力で事業を推進していけることを目指しています。
お問い合わせ 城南支社 TEL 03-3733-6284
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/seminar/dojo.html

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