東京都中小企業振興公社

no.199

社員一人ひとりの人生を支える会社へ

松下産業が手掛けた物流倉庫の模型を前に打ち合わせ中の代表取締役社長 松下和正氏(写真左から2人目)。設計や施工はもちろん、土地探しや事務機器のレイアウト・選定など幅広い領域をカバーしつつ、顧客企業の思いを最大限に実現できる点が、同社の大きな強みだ

顧客の「真の目的」をかなえる建設会社

 松下産業は、オフィスビルや商業施設、マンションなどの新築・リニューアル工事から、建築や不動産に関する企画・提案までを手掛ける総合建設会社だ。虎ノ門ヒルズや日本生命丸の内ガーデンタワーをはじめとする大型ビルのプロジェクトへの参加や、隈研吾氏、安藤忠雄氏といった著名建築家とともに建物を生み出していることで知られている。
 そんな同社のモットーは、「ホテルのコンシェルジュのような建設会社」。
「建物を作る目的はお客さまによって千差万別です。そこで私たちは、顧客と徹底した打ち合わせの元にワーキンググループを作って顧客企業の社員から肉声を集めることなどにより心の奥に潜む『真の目的』を引き出し、それにかなう建物を建てるのです。このとき力を発揮してくれるのが女性。建設業界ではまだまだ女性の比率が低いのですが、相手の気持ちを丹念に引き出しそれに合った建物を提案する力は、女性の方が高いと感じます」(代表取締役社長・松下和正氏)

不況期は優秀な人材を得る好機でもある

 かつての松下産業では、ある元請けからの受注が売り上げのほとんどを占めていた。ところが、1990年代になって建設業界全体の景況が悪化。元請けからの発注が激減し、松下産業の売り上げも落ち込んだ。
「当社にとっては大きな危機でしたが、人材獲得においては絶好機でもありました。他の建設会社が手放した優秀な人材を中途採用したり、普通なら当社に応募しないような学生を採用できたりしたのです。人材の層が厚くなったことで、当社は以前から目指していた元請けへの脱皮に成功できました」(松下氏)
 1980年代前半における松下産業の社員数は数十名。しかし1990年前後には100名を突破、現在はグループで250名を超えた。こうした中、同社が2013年に設立したのが「ヒューマンリソースセンター」だ。これは社員の人生すべてを支える部署として作られ、2016年には「東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞 優秀賞」を受賞するなど大きな評判を呼んでいる。

新入社員研修の様子。全社員のスキルやキャリアなどの情報は一元管理され、一人ひとりのサポートに生かされている

社員の悩みをワンストップで解決

 ヒューマンリソースセンターは社員の職歴や現時点で持つスキル、志望キャリアなどを一元管理し、それに合う仕事を割り当てることでモチベーションアップにつなげている。また、子育てや介護、引退後のマネープランなど、社員が抱えるさまざまな悩みにワンストップで対応する点も大きな特色だ。
「近年は、がんなどの病気にかかった際に産業医や家族と連携しながら復職までの道筋を整える、不妊治療中の業務調整を行うなど、新たな取り組みを進めているところです。社員の間には、『いざというときは、ヒューマンリソースセンターに相談すればいい』という強い安心感があるのではないでしょうか」(松下氏)
 人材育成や労働環境の改善などの分野で革新的な試みを重ねている松下産業だが、経営者の松下氏はそうした動きを特別なこととは捉えていない。
「会社が社員を支えるのは当たり前で、特筆するほどのことではありません。それに、社員のプライベートが充実して幸福感が高まれば、いい仕事ができ、ひいては業績アップにもつながるのです」(松下氏)

AEAJグリーンテラス(公益社団法人日本アロマ環境協会拠点施設)
設計:隈研吾建築都市設計事務所 施工:松下産業

次世代リーダー育成プログラムに参加

 松下産業はこれまで、研究開発に必要な経費の一部が助成される「新製品・新技術開発助成事業」などの公社事業を利用してきた。そして2022年には、経営者と同じ思考力や判断力を持つ次世代リーダーの育成を目指すプログラム「経営人材育成による企業力強化支援事業 経営人財NEXT20」(現:中小企業人的資本経営支援事業 経営人財育成スクールNEXT)に参加。一般的には40~50代の参加者が目立つ同プログラムだが、松下産業は20代後半の総務部員を参加させている。
「オーダーメイドで面倒見が良いのがこのプログラムの魅力で、若手に合った厳しい指導をしてくれると期待し参加を決めました。受講することで本人の成長へのきっかけをつかめるのではと、さらには会社の新展開にも期待を寄せています」(松下氏)

利用事業 : 経営人財育成スクールNEXT

企業の持続的な成長を実現するために「組織課題解決に役立つマネジメントスキル」「イノベーションを起こす事業開発スキル」を理論から学び、企業での実践を通して「経営者を支える次世代リーダー(経営人材)」を育成します。
お問い合わせ 企業人材支援課 
TEL 03-3251-7904
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/jinteki_shihon/school/index.html

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