東京都中小企業振興公社

no.201

消費者のリアルな声を聴き日本茶の需要を喚起

代表取締役社長の橋本久美子氏が手にしているのは、クラウドファンディングで多くの人から応援を得た沈殿抽出式ティードリッパー「刻音(ときね)」。
茶葉自体を濾過フィルターにしたことで、お茶本来の味わいや香りを引き出す。抽出時に落ちるしずくの心地よい音や、手入れが簡単な点も大きな魅力だ

日本茶のパッケージなどを手掛ける企業

 吉村は、日本茶をはじめとする食品パッケージを中心に手掛けている企業だ。社長である橋本久美子氏は2005年、祖父が創業し父が成長させた同社を引き継いだが、当時の経営環境はかなり厳しかった。
「コーヒーなどを飲む人が増え、さらにペットボトルの日本茶が普及したため、袋詰めの日本茶は売れなくなって当社も打撃を受けました。当時は専業主婦だった私も、友達が『急須を洗うのは面倒』『お茶屋さんがお茶の淹れ方をうるさく言ってきてウザい』と話すのを聴き、業界の先行きに不安を感じていたのです。でも、当時の吉村は典型的なBtoB企業。お茶屋さんの先にいる消費者の姿を直視できず、昔ながらの製品を作り続け売り上げを落としていました」(橋本氏)
 消費者のリアルな声を取り入れなければ日本茶に未来はないと考えた橋本氏は、吉村に再入社する前から周囲の消費者を集めて日本茶に関するグループインタビューを開催。その様子を録画し、社長だった父に送っていたという。

リアル店舗がBtoBの提案にも役立った

 橋本氏は社長就任後、消費者ニーズを特に大切にした。例えば2015年に発売した日本茶に合う和風チョコレート「粋町しょこら」は、ある女性社員が産休中に得た気づきから開発された商品である。
「彼女は『私たちにとって日本茶は主役ではなく脇役。おいしいお菓子があってはじめて、おいしいお茶を淹れて飲みたいと思うんです』と言うのです。だったら脇役を牽引する主役を生み出そうと、自分たちの世代が、日本茶と一緒に買いたくなるお菓子の開発に着手し完成させてくれました」(橋本氏)
 吉村は2022年11月、戸越銀座商店街で日本茶ショップ「茶雑菓-Chazakka-」をオープン。これにより、消費者と日常的に触れあう機会はさらに増えた。
「店では、当社のさまざまな茶器を実際に試してもらえます。その中で発見した暮らしの中のストレスや、購入を決めるときの心の動きなどは、すべて新商品づくりに役立つのです。また、消費者のリアルな反応が分かったことで、お茶屋さんに対する提案もより具体的で効果的な内容に変わりました」(橋本氏)

吉村では極小ロットからパッケージ製造が可能。社内デザイナーを抱えていることもあってコンセプトから相談できる

自社だけでなく日本茶業界全体を盛り上げる

 橋本氏は現在の吉村を単なるメーカーでなく、「日本茶需要創造企業」だと位置づけている。日本茶を飲む人の数が頭打ちになる中、業界全体を盛り上げなければ自社の繁栄もあり得ないと考えているからだ。
「日本茶の知識がほとんどない若者に『このお茶は○○製法で作られていて……』と玄人目線で説明しても、いい反応は得られません。逆に、『コーヒーは一度淹れたら終わりだけれど日本茶は二回、三回と楽しめます』と、かみくだいて伝えると、お茶はコスパがいいと反応があります。店舗は『次世代の顧客に日本茶の魅力を伝える場』としても機能しているのです」(橋本氏)
 店舗運営のノウハウがないメーカーが店舗を開くのは、決してたやすいことではない。だが、消費者のリアルな声を直接聴け、さらに未来の消費者を開拓できる利点は何より大きいというのが橋本氏の意見だ。

「茶雑菓」では、現代の暮らし方に合う茶器や抹茶の愉しみ方などを展開中。日本茶ファンを増やすため努力を重ねている

自社にあった支援制度を見つけるべし

 新商品の開発に注力し始めた際、吉村は公社の「中小企業ニューマーケット開拓支援事業」を利用した。
「当社は2013年に高価な機械を導入し、世界的なコンテストで優勝するほど高度なデジタル軟包装が製造できるようになりました。しかし顧客企業には、その価値をなかなか理解してもらえなかったのです。大手印刷会社の下請けとなり、その会社に販売を手伝ってもらう道もありました。でも、それでは当社の技術や利益がすべて吸い取られると感じて公社に相談したところ、展示会に出るなどの打開策を授けてもらえたのはありがたかったですね。また、茶雑菓の開店時には公社の『商店街起業・承継支援事業※』で、開店費用の一部を助成していただきました。公社には、多彩な支援制度が用意されています。探してみれば、自社にあったものが見つかると思いますよ」(橋本氏)

利用事業 : 中小企業ニューマーケット開拓支援事業

優れた開発製品・技術に対して、大手メーカーや商社出身の経験豊富なOB人材が、マーケティング戦略策定、取引マッチング支援やアドバイスを通じて、国内販路開拓を支援します。
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