東京都中小企業振興公社

no.203

環境に優しい新商品を経営者自ら作り売り出す

「即売会でピンク色の食器を売っていたとき、あるお客さまが『あら、サーモンピンクね』と仰いました。『これだ!』と思い、次回からサーモンピンクの食器と銘打って売り出したところ、反応が全く変わったのです。お客さまから教わることは本当に多いですね」(代表取締役社長・近藤伸二氏)

外需頼みから抜け出すため製品開発に着手

 三幸電機製作所は、プラスチック製品の開発・製造を手掛ける企業である。代表取締役社長を務める近藤伸二氏が創業者である父から経営を引き継いだ2000年代前半は、ハードディスクの製造や加工に使用される治工具のプラスチック製部品が大いに売れ、業績は好調だった。だがリーマン・ショックが起きた2008年以降、受注が激減する時期がしばしば訪れたという。
「当時の私たちは外需頼みの状況で、世界の景気が良い時期は工場をフル稼働させる一方、景気が悪化すると全く仕事がなくなっていました。そこで、経営を安定させるため、国内向けの製品を作れないかと考えるようになったのです」(近藤氏)
 そんな三幸電機製作所にとって大きな転機となったのが、公社から紹介されたベンチャー企業との出会いである。そのベンチャーが開発した新素材「紙パウダー」を使い、近藤氏は新製品作りに乗り出したのだ。

環境に優しい新製品が大きな売上に

 三幸電機製作所は2013年、紙パウダーとプラスチックを混ぜた原料で食器の試作品を作った。紙パウダーが51%以上含まれているため、使った後の食器を、可燃物として安全に捨てられるのが特長だ。
「プラスチック樹脂は180度以上に加熱しないと溶けないのですが、紙はその温度になると焦げやすいのです。そこで実験を重ね、焦がさないように加工するためのノウハウを蓄積しました」(近藤氏)
 試作品を展示会に出したところ、期待以上の反応があった。評判を聞きつけた金融機関から近隣の地方自治体を紹介され、その縁で、自治体が主催するイベントで使われる食器を製作することになったという。
「最初は赤字続きでしたが、地方自治体への納入実績を作れればいいと思いました。また、製品を使った人から感想をもらい、それを元に改良を重ねることが大事だとも考え、採算度外視で受けたのです」(近藤氏)
 同社は2018年、この燃やせるプラスチックに「東京未来素材」という名前をつけた。そしてコップやトレイといった関連製品を次々に発売。現在では、同社の売上のうち約3割を占めるほどに成長した。

「東京未来素材」で作られた三幸電機製作所の新製品。脱プラスチックのアイテムとして注目を集めている

経営者が現場に出て学べることは多い

 近藤氏は「東京未来素材」の製品をアピールするため、たくさんの展示会や即売会に足を運んだ。
「地方自治体とビジネスをしたときは、環境に優しい素材というキーワードが関心を呼びました。そこで最初の頃は、一般の方にもそういったアピールをしたのですが、反応は今ひとつ。むしろ、色やデザインのかわいさの方が受けたのです。私自身が現場に出向いてお客さまから直接学べたことが、製品作りにとても役立ちましたね」(近藤氏)
 新製品作りにおいては、多くの試作品をフットワーク良く生み出すことが重要だと近藤氏は見ている。
「かわいくて受けそうだと考え、ハート型の皿を作ったことがありましたが、全く売れませんでした。小売店に聞くと、バレンタインデーなど限られた日にしか需要がないという話でしたね。やはり、実際に作らないとわからないことは多い。新製品を生み出すには、試行錯誤の回数を増やす必要があるのです」(近藤氏)

イベントでの展示ブースでは「東京未来素材」をアピール。ここで集めた意見を反映することで、売れる製品を生み出していく

公社の専門家は孤独な経営者を支える存在

 三幸電機製作所は1990年、公社が協力して運営されている異業種交流グループ「ACE-21」に参加。2018年からは「中小企業ニューマーケット開拓支援事業」も利用した。
「社長業は孤独で、相談相手がいる経営者は意外と少ないものです。その点、公社から派遣された専門家に知恵を借りたり悩みを話せたりできたのは、とてもありがたかったですね。また、今後の中小企業には、自ら仕掛けることが必要になります。その時、公社の専門家が横についていてくれれば、途中で挫折する危険性を下げることができるのです。今後も私たちは、公社のサービスを使いこなすことで、『東京未来素材』などの事業を前進させようと考えています」(近藤氏)

利用事業 : 中小企業ニューマーケット開拓支援事業

都内中小企業が開発した優れた製品、技術について、売れる仕組み及び販路開拓に係る支援を行います。実施にあたっては大手民間企業等で開発・製造・営業経験等を豊富に有する人材(ビジネスナビゲータ、マーケティングオーガナイザー)がビジネスのノウハウを共有し、総合的な営業力、製品力の強化をはかります。
お問い合わせ 販路・海外展開支援課
TEL 03-5822-7234
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/new_market/index.html

バックナンバーを見る