東京都中小企業振興公社

no.205

お客さまと、仲間と共に未来への種まきを行う

日逓テクノ工業代表取締役の山村哲氏(写真左)は、普段から言葉の始めに「良かった良かった」と付け加えるよう心がけている。「経営者は時に、厳しい状況に追い込まれます。そんなとき、発想をポジティブに変えようと自分に言い聞かせるスイッチが、この言葉なのです」(山村氏)

難削材の加工に強みを持つ部品製造会社

 1930年の創業当時から自動車整備業を手掛けていた日逓テクノ工業は、1950年代に入ると部品製造業にも進出。自動車整備部門を2003年に閉鎖した後は、医療機器関連部品の製造に注力している。現在の主力製品は、手術室などで使われる医療照明用のアーム。他にも、各企業からの依頼を受けてさまざまな特注器具・装置の設計や開発、製造を手掛けている。
 同社の強みの1つは難削材加工技術の高さだと、代表取締役の山村哲氏は胸を張る。
「タンタルやジルコニウムなどは削りにくい上に高価で、一般的な工場では対応が難しいものです。その点、当社にはこうした金属の加工ノウハウが豊富にありますから、お客さまのご要望に応じて対応が可能です。また、製造はもちろん、設計や溶接、組立といった工程まで一貫して手掛けられる点も、当社の特長の1つかもしれません」(山村氏)

本業が順調な時期に未来への種まきを

 現在、医療機器関連部品の需要は堅調だ。ところが日逓テクノ工業は数年前から、新製品の開発を加速している。背景にあるのは、将来への危機感だ。
「医療技術が進化して手術が減れば、手術用ライト関連製品の需要が落ちる危険性もあります。また、他の製品もいつまでも安泰とは限りませんから」(山村氏)
 本業が順調な時期に、あえて未来への種まきを目指す山村氏の姿勢は、他業界でも参考になるはずだ。
 そうした新製品の1つが、コロナ禍の最中に生み出された「感染防護カプセル」だ。開発のきっかけは、知人の医療従事者から受けた要望だったという。
「ウイルス感染者のCT検査時には、感染者を他の患者や医療スタッフから隔離したり、検査後のCT機器をその都度消毒するなどの手間がかかります。『患者を隔離したままCT検査ができれば』とのアイデアを具現化しました。
 私は普段から、社外のさまざまな人・企業とのつながりを求めています。例えば医療関係者と企業との交流機会を提供する『東京都医工連携HUB機構』は、そうした場の1つです。ここで医療機関や他企業とのネットワークを広げたことが、新製品開発に一役買ったのは間違いありません。ただし、単に名刺を配るだけでは人脈は広がらないでしょう。例えば医師の方に対しては、各先生の専門分野について猛勉強してから質問するなどの努力が大切。そういう『熱量』が相手を動かすのだと、私は考えています」(山村氏)

現在は、腹腔鏡用部品の開発も進めているところ。医療従事者からのニーズを上手に吸い上げ、製品化に活かしている

三方よし精神で他社とのコラボを実現

 感染防護カプセルはCT検査を可能にするため、木とプラスチックで作られている。日逓テクノ工業は金属加工が専門なので、製造時には他社に協力を仰ぐ必要があった。このときに山村氏が心がけたのが、共に知恵を出し汗をかく姿勢と、「三方よし」の精神だ。
「新製品づくりに協力いただくのは、他社にとってもリスクがあること。ですから、決して人まかせにはせず私たちもアイデアを出します。また、協力相手にも利益がもたらされるよう工夫もしています。
 現代は、自らの都合ばかりを優先する企業が多すぎると感じます。でも、自社の利益を最大化しようとして外注先を買いたたくようなことをすると、いずれは業界全体が疲弊してしまうでしょう。それより、利益を全体で分け合い、皆が持続的に成長できる仕組みをつくる方が、結局は自社の成長にもつながるのではないかと私は信じているのです」(山村氏)

感染防護カプセルを医療機関で使ってもらい、現場の意見に基づく機能改善を施すことで、さらなる需要アップを目指す

困ったときは公社サイトで支援策を探す

 日逓テクノ工業は10年以上前から、公社の各種サービスを利用している。感染防護カプセルも、公社の「医療機器産業参入促進助成事業助成金」に採択されて助成金を得ただけでなく、プロジェクトマネージャーからのサポートも受けることができた。
「公社は、中小企業を支える仕組みを数多く提供しています。ですから、何か困りごとができたら公社のWEBサイトを見て、自社で使えるサービスや助成金がないか探すようにしています。現在は新製品を海外で売り出せないかと模索している最中なので、海外販路の開拓や海外展示会などに関する支援が受けられないかと期待しているところです」(山村氏)

利用事業 : 医療機器産業参入支援事業

都内の“ものづくり中小企業”が医療機器産業へ参入することを支援します。専任の医工連携コーディネータが伴走しながら、医療機器メーカーや臨床機関とのマッチング等を実施することで、新たな医療機器を開発・事業化することを支援します。
お問い合わせ 取引振興課 医工連携担当
TEL 03-5201-7323
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/medical/index.html

バックナンバーを見る