経営人財NEXT20修了企業紹介
生産性向上の取組みを人材育成に直結させるカギ
羽田空港に近く製造業が集まる大田区東粕谷に、1962年創業の昭和機器計装株式会社がある。同社は、主に工場の冷却水や冷却用空気など、様々な流体を測定する流量計「フラプター流量計」をメインに製造販売している。過酷な環境に耐える設計と技術で、業界のトップメーカーとして知られている。
篠原社長は、2014年に4代目として経営を引き継いだ際、技術や顧客からの評判は高いものの、旧態依然とした会社の様子に危機意識を持った。そこで、経営者として、経営方針や中期経営計画を策定するなど、速やかに経営改革に乗り出した。その中で最も痛感したのは「社員の意識や知識をあげること」「人材育成の大事さ」であった。社員に『5年後、10年後も働きたいと思ってもらえる会社』にするため、人材育成に本気で取り組むことを決意。同じ思いで自社を支える次世代リーダーを育成したいと「経営人財NEXT20」に、製造課長の金子能久さんを送り出した。
生産性向上が経営の最重要課題に
5期生として参加した金子さんは、15年前に入社し、製造部をリードしていく中核人材。篠原社長は、金子さんには製造課長としての立場だけではなく、全社的な視点、また経営者の立場から見て組織をマネジメントしていく力を求めていた。
経営人財NEXT20で行ったワークショップでは、会社の強み、弱み、機会、脅威を洗い出し、自社の知的資産を活かした成長戦略を検討した。その中で、同社はコロナ禍で経営環境が大きく変わり、海外向け製品の需要が伸びていたものの、現状の生産能力では需要に対応できていないという重要課題が挙がった。そこで、「人手が足りないから増員」という単純な結論に逃げず、「限られた人員でいかに生産能力を上げるか」という視点で、この経営課題に取り組むことにした。
リーダーシップは「率先垂範」から
当該製品に係る生産能力としては現状3名体制で月60台であった。そこで金子さんは、取組みテーマのゴール目標として「多能工化を進め、作業可能者を3名から6名に増やしながら、作業時間を20%短縮することで、月産60台から120台に増やす」ことを掲げた。目標に向けて取組みをどう進めていくか、チームメンバーに説明。コーディネータの助言を受けながら、解決のためのモチベーションを高めるため、データや数値で議論ができるよう一人ずつ作業時間を計測し、要因分析を行い、作業内容の見直しを図っていった。
金子さんが特に苦労した点は、「自分では解っていることでも、人に対してどう伝えるか」ということ。そして「人を巻き込んでいく訴求力」にあった。コーディネータからは、まず「結論先行」で伝えることの重要性を学んだ。自分だけがわかる資料ではなく、誰が見ても理解できるように見出しや項目、ストーリーを作る必要があることをアドバイスされた。金子さんは、人によって作業時間が異なる点も、メンバーに丁寧に寄り添い、どうすれば作業時間が短縮できるのかを根気よく探していった。経営人材として、人を動かすためにはまず自分が手本となる『率先垂範』を実践していくことで、誠実で親しみやすい金子さんがリーダーとしての力を発揮できるようになっていった。
経営人材の成長から企業全体の成長へ
経営人財NEXT20の成果発表会で、金子さんは「海外向け製品の生産体制向上」という一つのテーマに対して、二つの成果を発表することができた。「作業可能者が増えて、柔軟な生産対応が可能」、更に「1台あたりの平均作業時間が32%削減」。この成果は、金子さんが一人で達成できるものではなく、チーム全体で取り組んだからこそ得られたもの。金子さんは試行錯誤しながら、難易度の高い課題にも真摯に取り組むことによって、論理思考が向上し、全社の視点で考えて答えを出すことができる経営人材として、真の成長を果たした。
発表会終了後も取組みは続き、当時60台の生産能力が半年後には136台まで伸びたという。篠原社長も金子さんの全社視点での考えや発言から意識の変化が見え、経営人財NEXT20の効果を実感している。
経営人財NEXT20で得た経験と自信をもとに、更なる飛躍に向かって日々まい進する金子さんから刺激を受けた社員達は、自分たちもじっとしてはいられなくなる。社員達の成長の扉を開けるカギを握るのも経営人材なのである。—ひとりの成長が企業全体の成長にもつながっていく— 取組みの真価はそこにあるのかもしれない。