東京都中小企業振興公社

no.230

脱「待ちの営業」で看板製品を売り込む

石川工場は「擂潰」(=すりつぶすこと)を極めようとする企業で、ブランド力の高い商品を抱えている。一時期は受動的な営業体制が原因で停滞していたが、現代表取締役の中村雅一氏(写真右)がデジタル手法を取り入れた「攻めの営業」に転換し、業績を回復基調に乗せた

石川工場は「擂潰」(=すりつぶすこと)を極めようとする企業で、ブランド力の高い商品を抱えている。一時期は受動的な営業体制が原因で停滞していたが、現代表取締役の中村雅一氏(写真右)がデジタル手法を取り入れた「攻めの営業」に転換し、業績を回復基調に乗せた

物質を粉砕・混合する「擂潰機」を製造

 石川工場は1897年創業の老舗メーカー。手掛けているのは、乳鉢と乳棒を使って物質を自動的にすりつぶし、混ぜ合わせる「石川式撹拌擂潰(らいかい)機」だ。当初はかまぼこやソバなど食品製造分野を中心に普及したが、昭和初期以降は各種研究機関や医療機関でも使われるようになった。現在は、10~150リットルの製造に適した大型機、0.2~7リットルまでの製造に対応する小型機、ごく少ない試料向けの微量機の3カテゴリーで製品を提供。顧客の要望に応じ、カスタマイズも行っている。
「この装置は、職人が手作業で粉砕や混合を行う動きを忠実に再現します。また、陶磁器や石製の乳鉢と乳棒を使うことで、材料に熱や電気といった影響を与えずに加工できるのです。こうした利点を生かし、固体電池や半導体といった先端材料の研究・開発にも役立てられています」(中村氏)

ウェブサイト拡充で「攻めの営業」に転換

 石川式撹拌擂潰機のブランド力は強力。また、この業界は参入障壁が高く、手ごわい競合は存在しない。だがそうした状況にもかかわらず、中村氏が代表取締役に就任した頃の同社は危機に陥っていた。
「当時は既存顧客からの需要にあぐらをかき、顧客開拓をおろそかにしていました。いわゆる『待ちの営業』が停滞を招いていたのです。そこにコロナ禍が起こり、当社の売上げは大きく落ち込みました」(中村氏)
 ここで中村氏は、2つの方針を打ち出した。1つ目は、研究機関が導入しやすい超小型・軽量製品の開発。そして2つ目が、デジタルマーケティングに力を入れ、受動的な営業体制からの脱却を図ることだった。
「当社製品は『多くの人には無関係だが、必要とする人にとっては喉から手が出るほど欲しいもの』です。こうした層に情報を届けるにはデジタルが最適だと考え、図版やデータをふんだんに盛り込んだ事例記事をウェブサイトに数多く掲載しました。また、学会など専門家が集まる場で展示を行うなどの工夫をしたことで、売上げは徐々に回復したのです」(中村氏)

新製品「Tiny plus」は、理化学領域などで活用されている超小型自動乳鉢「Tiny」にタイマーなどの機能を加えたもの

新製品「Tiny plus」は、理化学領域などで活用されている超小型自動乳鉢「Tiny」にタイマーなどの機能を加えたもの

乳棒の軌道を分かりやすく表示した乳鉢の様子。むらなく乳棒を動かすことで、様々な材料を均一に混ぜ合わせることができる

乳棒の軌道を分かりやすく表示した乳鉢の様子。むらなく乳棒を動かすことで、様々な材料を均一に混ぜ合わせることができる

すでに社内にあるものを最大限生かすべし

 ウェブサイト拡充などで認知度を高め、学会展示などで製品を体験させ購入への導線を整備する手法は、実に戦略的なものだ。だが中村氏は、最初から狙ってこうしたやり方を取ったわけではないという。
「ミケランジェロは、『形はすでにある』と語ったそうですね。作品はすでに石の中に存在しており、彫刻家の役割はそれを取り出すことだけだというのです。経営者にも同じことが言えるかもしれません。外から持ってきた経営方針を無理やり当てはめるのではなく、自社の現状をよく観察して、それに合うやり方を見いだす方が良いというのが、私の考えです。
 少なくない企業が成長のために画一的な経営手法を取り入れますが、そうでない企業があってもいいと思うのです。当社が目指すのは、均一なサービスを提供する大手飲食チェーンではなく、小さいながらも常連に愛される町中華。当社製品を求める方々をうまく見いだして良いモノを届け、支えていきたいですね」(中村氏)

公社の専門家とのやりとりで自社を客観視

 石川工場は2023年、公社の「経営革新計画申請支援事業」を活用して経営革新計画の承認を受けた。これは、新事業に取り組んで経営改善を目指す中小企業に対し、専門相談員によるアドバイスなどによって経営計画の作成を支援するもの。
「それまで私の中では、自社でやりたいことややるべきことが漠然としていました。しかし、公社の専門相談員と話すうちに、それらがはっきりと言語化されていったのです。また、中小企業では手に入れづらい情報を教えてもらえたのも助かりました。
自社を見つめ直したり、外部から客観的な助言をいただけたりするのは貴重な機会。経営革新計画は当社にとって大きな財産になっています」(中村氏)

利用事業:経営革新計画申請支援事業

 経営革新計画とは、中小企業が「新事業活動」に取り組み、「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する中期的な経営計画書です。公社では、専門相談員による申請内容に関するアドバイスや、公社担当者による申請書のブラッシュアップ支援を行っています。
  https://www.tokyo-kosha.or.jp/topics/2506/0015.html

お問い合わせ
総合支援課 TEL:03-3251-7882

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