no.209
海の課題を識ることで技術の可能性を拡げる

代表取締役CEOの野城菜帆氏は、慶應義塾大学大学院理工学研究科で機械工学を専攻。学部生の頃に長期インターンシップで知り合った仲間が学生起業したことなどがきっかけで、起業に興味を持つようになったという。「海の課題を解決したいと思ったのは、人類未到の海の底にロマンを感じたからです」
IoTで水産業を支えるスタートアップ
MizLinxは、代表取締役CEOを務める野城菜帆氏が慶應義塾大学大学院在学中の2021年に設立したスタートアップだ。現在は主に、IoTの力を生かした海洋観測システムの開発を手掛けている。
「地球温暖化や海の環境変化などで漁獲量が減少傾向にある中、養殖業に注目が集まっています。
そこで当社は、カメラやセンサーを組み込んだ観測機器で海中の映像・画像や、水温、流向・流速など
さまざまな数値をチェックし、得られたデータを研究機関や水産試験場などに提供することで、漁業に
まつわる課題の解決に役立ちたいと思っています」(野城氏)
同社は各地の水産業者などと連携し、すでにいくつかの実績を上げている。
静岡県沼津市では、マアジの挙動をカメラでモニタリングして大量死防止を目指す取り組みを推進中。
これが評価され、「TECH BEAT Shizuoka AWARD 2022・フードテックセッション」では静岡県知事賞に
輝いた。他にも、東京都主催のビジネスコンテスト「TokyoものづくりMovement」に採択されたり、
中小企業の製品や技術、サービスを表彰する「東京都ベンチャー技術大賞」で特別賞に選ばれるなど、多くの受賞歴を誇る。
導入しやすさを考え価格の安さにこだわる
多くの機能を持つMizLinx製の観測機器だが、部品は比較的安価なものを組み合わせ、価格を競合サービスの3分の1程度に抑えている。また、メンテナンスの手間をできるだけ小さくするため、省電力性にも気を遣っている。
「私たちの目的は、当社のシステムをできるだけ多くの漁業関係者に使っていただき、日本の水産業を支えること。そのためには、安くて手間のかからない機器を作ることが何より大事だったのです」(野城氏)
順調な道のりを歩んでいるように見えるMizLinxだが、創業当初は苦労が多かったという。
「最初の頃はどうやって販路を開拓すればいいのかわからず、地方自治体の水産課に片っ端から電話をかけて漁協や水産試験場を紹介してもらいました。当時は不勉強だと怒られたり、すぐに追い返されたりしたことも少なくありませんでしたね。その過程で学んだのが、『技術以外』の大切さです」(野城氏)

センサーやカメラが組み込まれた観測機器。顧客の要望に応じてカスタマイズの幅が広い点も、MizLinxの強みだ
ビジネスには現場が大切だと学んだ
水産業界にはさまざまな関係者がいるが、彼らの利害関係は必ずしも一致していない。例えば、自治体などは地域の水産資源を長期的視点で管理しようとするのに対し、短期的な漁獲量を重視する漁師もいる。
「プロジェクトを持続的に進めるには、関係者の皆さまに納得してもらうことが不可欠です。そのため、ビジョンを示して全員の視点を一致させようと心がけました。また、現場に何度も足を運んでこちらの熱意を伝えたり、地域のキーマンとお酒を飲んで相互理解に努めたりもしました。
ビジネスには技術だけでなく、現場が、泥臭さが大切なのだと学びましたね」(野城氏)
今の目標は、3年以内に全国で1,000台の観測機器を設置すること。また、海外進出も視野に入れている。
「日本の水産業を守りたいと思う一方で、企業としては、国内市場の縮小に対応する必要もあります。そこでこれからは、東南アジア、特にフィリピンでのビジネスを模索しようと考えています」(野城氏)

海洋観測システム「MizLinx Monitor」。養殖給餌の最適化、魚病・赤潮の検知など養殖いけすの状態をリアルタイムでモニターできる
インキュベーション施設は有益な場
MizLinxは現在、荒川区南千住にある都の施設「白鬚西R&Dセンター」で事業を営んでいる。広さは約50平方メートルで、家賃は月額約5万9,000円。
「当社はものづくりを行う企業なので、広い場所を安く借りられるのがとてもありがたいですね。また、『インキュベーション・マネージャー』から定期的にいただける助言も助かりますし、知的財産に関するセミナーや経営相談などの支援も有益だと感じます。
同じ施設に入っている企業の活躍ぶりを見て刺激を受けられるのも、インキュベーション施設のメリットです。将来的には、そうした企業とコラボする機会があるかもしれませんね」(野城氏)
利用事業 : 研究開発型創業支援施設
白鬚西R&Dセンター
東京都は、白鬚西共同利用工場施設の空区画を活用し、インキュベーション施設として提供しています。
公社が運営管理する白鬚西R&Dセンターは、創業を図ろうとする個人又は創業間もない中小企業者や新製品・新技術の研究開発や試作を行おうとする中小企業者を対象としたインキュベーション施設です。
お問い合わせ 創業支援課
TEL:03-5220-1141
https://www.tokyo-kosha.or.jp/incubator/shirahige/index.html