no.217
ユニークなオフィスや制度で「ここで働きたい」と思える会社に

オフィス2階の「発想スペース」(上写真)は、ハンモックやさまざまなオブジェ、ガチャガチャなどが並ぶ場所。アイデアを出しやすい環境を整え、社員の自由なアイデアを導こうとしている。こうしたユニークなオフィス・工場の設計には、行動経済学的な知見が取り入れられているそうだ
特注品のエレベーター表示器を手掛ける
島田電機製作所は、エレベーターのボタンや操作パネル、階数表示灯などの製造を主に手掛ける企業だ。
「高級ホテルやデザイン性の高いオフィスビルなどの建物では、それぞれのコンセプトにあったオーダーエレベーターが設置されます。当社の製品は、こうしたオーダーエレベーターのために用意する特注品です。この分野では着実に売り上げを伸ばしていて、現在は国内シェアの6~7割を確保しています」(島田氏)
最大の強みは、デザイン提案から生産工程までを一貫してこなせること。ボタンなどの外観に力を注ぐのはもちろんだが、背後にある機械のメンテナンス性や耐久性にもこだわる。また、製造を社内で行うことで顧客からの細かな要望などにも応えやすい。
「当社はオーダーメイドにも関わらず、競合よりずっと短期間で納品が可能。内製率の向上は、当社成長の大きなカギを握っていると思います」(島田氏)
海外経験が「人が大事」という信念を生む
2007年、島田電機製作所は中国に進出。当時専務だった島田氏は、現地責任者として陣頭指揮を執った。この経験が経営者の骨格を作ったと、島田氏は語る。
「デザインの好みなどが全く違う中国でゼロから商売を始めるのは、簡単ではありませんでした。そこで学んだのが、文化も価値観も違う人や企業に自分を理解してもらうには、己の強い思いを言語化することと、相手を思いやる気持ちの大切さ。そこから、『結局、人が一番』という信念が生まれました」(島田氏)
島田氏は2013年、5代目社長に就任。社内からの抵抗を感じつつ、さまざまな社内改革を断行した。その結果、売り上げは5~6年で1.5倍程度に伸び、就任当初に掲げた目標を達成したものの、達成感を感じることはできなかった。
「私や社員がなぜ喜べなかったのか自己分析して浮かび上がったのが、『目標』と『経営の目的』は違うという結論でした。売上目標は単なる通過点。それより、人を大事にするという原点に立ち返って、皆が『ここで働きたい』と思える会社をつくる経営目的の方がずっと大切だと気付いたのです」(島田氏)

出勤時に社員が押す「やる気ボタン」。職場に遊び心やゲーム性を取り入れ、楽しみながら働けるような仕掛けが随所に施されている
工場見学の積極受け入れでファンを増やした
そこで島田氏は、社員一人ひとりが個性を発揮し、自社に誇りを持てる会社づくりに舵を切った。新卒社員には約5カ月間の研修を行い、島田氏自らが講師を務めスキルアップを目指す「島田塾」も開講するなど教育に注力。一方、社内会議や採用面接などにゲーム性を取り入れる、社員が無料でお酒などを楽しめる社内バーを設置するなど、楽しみながら働ける仕掛けも数多く導入してきた。中でも注目されている施策の1つが、2018年から始めた工場見学だ。
「当社はBtoB企業で知名度が低かったのですが、見学者が増え、メディアで『日本一予約が取れない工場見学』などと紹介されたことで多くの人に知られるようになりました。そして多くのファンが押し寄せる様子を見て、従業員も自社にプライドを持てるようになったのです。そして2024年には、押すことをテーマにした遊び空間『OSEBA』をオープン。今は1カ月に2,000~3,000人もの来場者が訪れています」(島田氏)

企業マスコットである「ボタンちゃん」の名が冠された社内バー「ボタン ちゃん Bar」。部署の枠組みを越えて交流する場としても機能している
脱・下請けの発想を学べたのが大きな転機に
これまで利用した公社事業で印象的だったのは、自社製品の企画・製品化・商品化・販路開拓までの流れを学ぶ「事業化チャレンジ道場」だったと島田氏。
「中国進出を控えていた時期に参加しました。下請的な思考に陥りがちだった当社が、市場を分析し売れる製品を作るやり方を学び、『ニーズからシーズ』という発想に切り替えられたのは大きな転機でした。
当社は『三方よし』の考え方を大切にしているのですが、自社の製品やサービスが社会のために役立っているかどうか、客観的に判断するのはなかなか難しいことです。そうした視点で専門家が助言してくれる公社サービスがあれば、ぜひ使いたいですね」(島田氏)
利用事業:事業化チャレンジ道場-ものづくりイノベーション企業創出道場-
事業化チャレンジ道場は、ものづくりにおける新製品開発を通じて、企画・製品化・量産化・商品化・販路開拓までの一連のプロセスを実践的に習得していただき、道場修了後も参加企業が自力で開発に取り組めることを目指すプログラムです。
新たな事業展開をお考えの企業をサポートします。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/seminar/dojo.html
お問い合わせ
城南支社 TEL:03-3733-6284