東京都中小企業振興公社

no.219

諦めない気持ちで挑み続けメーカーへと脱皮

東成エレクトロビーム株式会社

高く評価されている「ビーム溶接」に加え、レーザー光で金属などを溶かして接合する「レーザー溶接」や、レーザークリーニング装置『イレーザー®』の製造・販売も手掛ける。代表取締役社長の上野邦香氏(写真左から2人目)は地域の中小企業との連携を行いつつ、提案力のさらなる強化も図っているところ

ビーム溶接で幅広い業界を支える専門家

 東成エレクトロビームは1977年、「電子ビーム溶接」の専業会社としてスタートを切った。これは電子をぶつけて金属などを接合する溶接手法で、熱や酸化による影響が出づらい、対象物に対し深い溶接が可能、精密な加工ができるなどのメリットがある。
「当社はこれまで、自動車、航空宇宙、半導体、医療など幅広い業界で仕事をしてきました。その分『技術の引き出し』が豊富で、だからこそお客さまからの要望に対してさまざまな角度から提案が可能。豊富な経験に裏打ちされた技術力と提案力が、私たちの強みだと自負しています」(上野氏)
 その象徴が、小惑星リュウグウの地下サンプル採取に成功した小惑星探査機「はやぶさ2」だ。東成エレクトロビームは、地表に人工クレーターを作る装置「インパクタ」(右ページ写真参照)の溶接を電子ビームにより実現。他にも多彩な分野で高難易度なものづくりを進めている。

政策提言などもしつつメーカーを目指す

 加工業で成長してきた同社は2005年、対象物にレーザーを当てて汚れを除去する装置『イレーザー®』を開発してメーカーへの脱皮を果たした。これは、上野氏の実父である先代社長・保氏の念願だったという。
「『好調な電子ビーム溶接もいつか陳腐化する。その前に、我々中小企業はメーカーを目指すべし』というのが父の考えでした。それで父は装置開発に取り組みつつ補助金などの仕組みを整えるよう国などに提言し、制度ができると真っ先に利用したのです。私は父のやり方に当初は反対だったのですが、せっかく作った装置が売れず批判されるのを聞き、『父を悪く言えるのは息子の俺だけだ』と反骨心に火がつきました」(上野氏)
 上野氏は保氏の後を引き継ぎ、省コスト化や製品改良を実現。イレーザーは評価を高め、数百万円という価格ながら10年間で100台以上を売り上げた。
「成算はありませんでした。ただ、とにかく諦めずしがみついたことが結果につながったのです」(上野氏)

自社製品の「イレーザー」は環境にやさしく操作する人への負荷も軽いうえ、洗浄コストを抑えることができるとあって人気が高まっている

自社製品の「イレーザー」は環境にやさしく操作する人への負荷も軽いうえ、洗浄コストを抑えることができるとあって人気が高まっている

人材獲得には攻めの姿勢が大切

 イレーザーの製品化では、中小企業庁の補助金により採用した博士課程修了者が大活躍した。優秀な人材の確保は中小企業にとって命綱だと、上野氏は言い切る。
「最近は、豊富な地域ネットワークを持つ信用金庫などから地元の大学や工業高校を紹介してもらい、有望な若手の採用を目指すケースが増えました。また、私自身が大学や各種セミナーでゲスト講師を務め、就・転職希望者にアピールすることもあります。『人が来てくれたらいいなあ』と待つだけではダメ。自ら外に打って出て、人を求める姿勢が大切だと思います。
 それから私は経営において、腹を割って相手にぶつかることを大事にしています。当社はいくつかの企業と連携していますが、それらの経営者には財務内容までオープンにしているほど。そうした姿勢を示せば、信頼も得やすいのではないでしょうか」(上野氏)

はやぶさ2に搭載された「インパクタ」装置。発射に耐える強度と、起爆時に溶接箇所が均一に外れる精密性を両立する実に難しい案件だった

はやぶさ2に搭載された「インパクタ」装置。発射に耐える強度と、起爆時に溶接箇所が均一に外れる精密性を両立する実に難しい案件だった

公社の手厚いサービスは利用しなければ損

 東成エレクトロビームが公社のサービスを利用し始めたのは20年以上前のこと。イレーザーの開発でも、公社や国からの補助金が大いに役立った。
「あるとき公社の方から『何か悩みはありませんか』と聞かれ、開発資金が不足気味だと話したところ、『こんな制度ができたので使ってください』と案内されたことがあります。あのときは、公社の親身さに心底驚きました。イレーザーでは全部で5,000万円以上の助成を受けていて、公社の助けなしでは実現できなかったと思います。また、痒いところに手が届く様々な支援策もありがたいです。私は他県の企業ともお付き合いがありますが、どの経営者も東京都の手厚い支援をうらやましがっています。助成金や経営指導、知財など本当に幅広い分野で助けてくれる公社は、中小企業の課題解決になくてはならない存在。これからもぜひ、相談していきたいと思っています」(上野氏)

利用事業 : 革新的事業展開設備投資助成金(事業終了)

 最新の設備投資関連の助成事業は「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」となります。
 都内中小企業者が「製品・サービスの質的向上」による競争力強化や「生産能力の拡大」のための生産性向上を進める際に必要となる機械設備等の導入経費の一部を助成します。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/yakushin.html

お問い合わせ
設備支援課 TEL:03-3251-7884

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