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中国におけるインターネット上の知的財産権侵害への対応策 トップページへ

2015年4月22日 掲載

中国におけるインターネット上の知的財産権侵害への対応策

III インターネットにおける模倣品への対応策

 インターネット環境において、上述のようにドメイン名に係る侵害行為、模倣品のネット販売行為、及び他の侵害行為が存在している。以下に、インターネットにおける模倣品に対する主な対応策を紹介する。模倣品への対応に関する通常の流れについて、下記を参照のこと。

下記のとおり、各ステップを詳細紹介する。

1. 侵害行為の実施主体の明確化

前述のとおり、インターネットは、開放性、不確定性及び隠蔽性等の特徴を有する。そのため、実施主体の判別は、その他の類型の知的財産権侵害に比べてより難しくなっている。権利者は、次のいくつかの面から侵害行為者の情報を調べることができる。

  1. ドメイン名登録者情報
    Whoisは、ドメイン名のIP及び所有者等の情報を検索するために用いる転送プロトコルであり、ドメイン名がすでに登録されているか否か、及び登録ドメイン名の詳細な情報を検索するために用いるデータベースである。権利者は、whoisを通じてドメイン名情報を検索することができる。
  2. ネット経営者情報
    中国の工業・情報化部は、2009年から国内ウェブサイトに対して届出することを要求している。したがって、大部分のウェブサイトの経営者は、すでにウェブサイトの関連情報を届け出ているので、工業・情報化部のICP/IPアドレス/ドメイン名情報届出管理システムサイトを通じて経営者の関連情報を検索することができる。
  3. ネットショップ経営者情報
    大部分の電子商取引ウェブサイトでは、すでに比較的に完璧な身分認証体系を構築しているので、権利者は、関連インターネット取引のプラットフォームを通じてネットショップの経営者情報を検索することができる。
  4. 侵害企業の工商登録情報
    上記の何れかの方法を通じて、侵害者(企業である場合)の確実な社名を確認した後、全国企業信用情報公示システムに登録して、当該侵害企業の経営範囲、登録資本金、登録住所、法定代表者等の工商登録の基本情報を調査することができる。

2. 侵害の確認

 侵害者情報の確定後、更に自分の権利状況と相手の侵害行為に対して評価しなければならない。通常、権利者は、自己の権利、侵害行為の性質と程度等に基づいて、具体的な対策を確定すべきであるが、以下のいくつかの面から分析できる。

  1. 侵害行為地で知的財産権を有するか否か。
  2. 関連知的財産権は有効期間内にあるか否か。
  3. 関連知的財産権の安定性はどうか、無効にされるリスクが高いか否か。
  4. 相手の行為が具体的に権利者の如何なる知的財産権を侵害しているか、同時にいくつかの権利を侵害しているか否か。侵害の程度と範囲はどうか。

3. その他の侵害行為

 如何なる法的手段を採用するかに関わらず、まず侵害証拠を保全することが得策である。もし、関連証拠を入手せずに、直接法的対応を取ると、相手側の警戒心を起こさせるおそれがあり、その後証拠収集と確保ができない可能性があるので、法的対応を取る前に、証拠収集と確保をすることは、非常に重要である。
インターネット侵害事件において通常使用する公証手続は以下の通りである。

  1. ウェブサイト公証
    ウェブサイトにおける侵害品の宣伝している画面、侵害製品の写真等の侵害情報について、公証人の立会いのもとで証拠収集し、かつ、プリントアウト・保存して、侵害証拠として使用することである。
  2. ネット上公証付購入
    公証人の立会いのもとでネットを通じて発注し、侵害製品の郵送物を、公証人の立会いのもとで受領することである。

4. 採用することができる法的手段

  1. 取引プラットフォームへの申立の提出
    「中華人民共和国権利侵害責任法」第36条には、「権利者が侵害行為を見つけ、ネットワークサービスプロバイダーに通知した後、ネットワークサービスプロバイダーは、遅滞なくリンクの削除、遮断、切断等の必要な措置を取ることによりその侵害行為を中止させるべきである」と規定している。
    当該規定に基づき、もし、取引プラットフォームは当該規定に従わない場合、損害が拡大した部分に対してその連帯責任を負うべきである。したがって、現在、大部分のオンラインショッピング取引のプラットフォームには、何れも権利者向けの申立ルートが設けられている。そのうち、タオバオ(Tモール)とアリババにおける知的財産権保護システムは比較的に整備され、侵害の判断方法もより客観的で公正である。
    上記に鑑み、電子商取引プラットフォームで模倣品が販売されている場合、電子商取引プラットフォームの知的財産権保護システムに申立を提出することにより侵害リンクの削除及び閉店を求めることができる。
    他の法的手段より、プラットフォームの知的財産権保護システムを利用して申立を提出して、模倣品の販売リンクに対する削除、被疑侵害ネット店舗に対する閉鎖を申請した場合、その実施費用が低く、且つ、短期間内に模倣品販売を中止することができるので、紛争を解決する時間的なコスト又は費用上のコストを考えると、比較的良い対策だと言える。
    以下に、タオバオ(Tモール)とアリババのウェブサイトにおいて、知的財産権プラットフォームを利用して申立を提出する流れについて簡単に紹介する。
    1. 申立提出者の情報の登録
      ここに言う申立提出者とは、権利者自身の場合もあれば、代理人の場合もある。取引プラットフォームより確認されることに備えて、登録情報は企業の営業情報と一致しなければならない。しかも、署名した承諾書1部を作成して、今後提出する資料の真実性と合法性を保証しなければならない。
    2. 権利者の権利登録
      著作権登録証書、特許登録証書、商標登録証書等の権利帰属書類の複写本等合法的で有効な権利証明を提出しなければならない。
    3. 侵害リンク及び侵害店舗の提供
      侵害品販売リンク及び侵害店舗に係る情報を取引プラットフォームに提供し、かつ、侵害理由を簡単に説明しなければならない。
    4. 販売者の抗弁に対する対応
      確認された被疑侵害リンクが一時閉鎖される時、販売者から何の反応もない場合、侵害の成立を黙認したとみなされ、関連リンクは直接削除される。ただし、実務上、大多数の販売者は抗弁をするが、その抗弁理由の成立が困難な場合、同様にリンクが削除される結果となる。しかし、その抗弁理由が成立する場合、権利者は、第三者プラットフォームが更に判断できるように、更に侵害理由に係る詳細な説明又は専業鑑定報告等の根拠を提供しなければならない。
      しかし、取引プラットフォームへの申立にはさまざまな限界があることを注意しなければならない。例えば、プラットフォームは、知的財産権侵害に対する判定力に限りがある。しかも、一部の電子商取引プラットフォームの知的財産権に対する保護はまだ遅れを取っており、処理結果もかんばしくないので、具体的な状況に基づいて当該手段を採用するか否かを酌量し、考慮する必要がある。なお、知的財産権侵害に係る証拠は存在しなくなりやすいので、申立を提出する前に証拠保全を行うことに特に留意する必要が在る。
  2. 取引プラットフォームへの申立の提出
    警告は、自力救済ルートの一種として、侵害行為が軽微で、かつ、コストを抑えたい事件に用いられ、行政と司法救済の前によく採用される手段である。また、知的財産権侵害紛争において、善意の抗弁が存在し、侵害者は往々として善意の抗弁を理由に侵害責任の負担を回避しているが、既に警告をしたことは善意の抗弁に対抗できる。
    前述のとおり、模倣品が第三者の取引プラットフォームで販売されている場合、通常、取引プラットフォームへ申立を提出する形式を採用できる。取引プラットフォームへの申立が妨げられたり、申立提出後の効果があまりかんばしくなかったりする場合、被疑侵害者への警告と取引プラットフォームへの申立を同時に進めるか、または、直接に被疑侵害者に警告することができる。
    また、実務において、第三者プラットフォームが申立に対して対応を怠ったり、ずっと躊躇して態度を決めかねたりしている場合、権利者は、「権利侵害責任法」第36条第2項の規定に基づき、当該プラットフォームに対して警告を発送し、直ちに関連事項の処理に着手するように催促することができる。
    しかし、警告書は、不可欠な前置手続ではなく、早急に紛争を解決することに意義があるものの、被疑侵害者の模倣品製造の経験が比較的豊富であったり、又は侵害状況が比較的深刻であったりする場合、警告書は如何なる役割も果たせないだけでなく、無視される可能性が極めて大きい。しかも、逆に相手の警戒心を引き起こし、事前に対策を用意させてしまうことになる可能性も十分あるが、被疑侵害者が不侵害確認訴訟を提起して、権利者が受身になってしまうリスクも排除できない。したがって、具体的な侵害状況に応じて、直接行政摘発又は訴訟の対策を取ることも考えるべきである。
  3. 行政摘発
    侵害品のネット販売に対して、第三者プラットフォームへの申立は、販売流通における問題を解決できるだけで、その根源を絶つ能力は欠如しているので、単純に第三者プラットフォームを介する申立提出方法を採用すると、通常、侵害が相次いで発生することがある。したがって、侵害が深刻で、権利侵害品がインターネット上で氾濫している場合、第三者プラットフォームに申立を提出することにより、販売段階から侵害品の流通を阻止すると同時に、インターネットにおける販売を手がかりにして、できる範囲内で在庫のある実店舗、代理店、倉庫、製造者等を芋蔓式に追及し、取り調べることができる。権利侵害品の製造からネット流通までの各段階における実体経営者を突き止めた場合、行政摘発又は訴訟の手段によって、製造分野における権利侵害行為を阻止し、根本的に権利侵害品の販売を解決することができる。
    また、権利侵害店舗が第三者のプラットフォームに設置されず、独自に開設したウェブサイトを有する場合、当該ウェブサイトが届出されているか否かの情報に基づき、工業と情報化部への訴え又は行政摘発又は訴訟の方法を採用して解決するか否かを確定する必要がある。
    行政摘発の手段を採用する場合、次の問題に注意を払うべきである。
    まず、権利者は、それぞれ異なる知的財産権侵害に基づき、それに対応する行政部門へ取締りの申立を提出すべきである。具体的に言えば、被疑特許権侵害製品の販売行為については、製造者又は販売者所在地の知識産権局へ、被疑商標権侵害又は不正競争に係る製品販売行為については、製造者又は販売者所在地の工商行政管理局へ、被疑著作権侵害製品の販売行為については、製造者又は販売者所在地の版権局へそれぞれ取締りの申立を提出することである。また、模倣品が外国から輸入されたものである場合、当該製品輸入地の税関へ取締りの申立を提出する。
    次に、取締前の調査が極めて重要である。ネット上の店舗について、ネット販売店舗のサーバー所在地の当局に取締り申立を提出する事はできるものの、そのサーバー所在地を確認することはさほど容易なことではなく、かつ、多くの権利侵害ウェブサイトの相当部分は海外に設置されている。しかも、ネット上の店舗に対する取締りの最終的な効果は、当該ウェブサイトを閉鎖することに過ぎないが、侵害者は、また別のウェブサイトを開設することができるので、再犯の可能性が非常に高い。したがって、事前の調査を経て、模倣品の製造者及び販売者の実体経営者を確定し、実体経営者に対する取締りを行えば、より良い取締りの効果を確保し、侵害者に打撃を与え、侵害の再発を防止することができる。
    なお、行政摘発の際、行政機関は、侵害行為が非常に深刻で、刑法に違反し、犯罪になるおそれがあると認めた場合、事件を公安(警察)機関に移送する。その他、権利者が侵害者の被疑犯罪の手がかりを把握した場合、公安機関に刑事犯罪を告発することができる。
  4. 民事訴訟
    侵害品のネット販売に係るさまざまな対策の中でも、民事訴訟は、被疑侵害者に対して非常に大きなプレッシャーを掛けることができると同時に、和解等の形式を介して早期に紛争を解決することにより、長引く訴訟手続を回避することができる。特に上述のさまざまな手段によって効果がさほど見られない場合、訴訟の意義は非常に重大なものになる。しかも、訴訟は、侵害行為を差し止められるだけでなく、侵害行為による損害賠償金も請求することができる。
    訴訟ルートを選択する際には、以下のことに注意を払う必要がある。
    まず、訴訟の場合、前期の調査・証拠収集作業は非常に重要で、行政摘発と同様に、侵害品のネット販売行為の製造元を確定することが難しく、被疑侵害店舗の住所地も真実でない可能性があるので、立件請求を提出する前に、被告の真実の身分及び住所地を確定しなければならない。しかも、行政摘発に比べ、証拠に対する裁判所の要求がより厳しく、かつ、通常行政機関のように現場での調査・証拠集めをすることはできない。したがって、勝訴をするために、原告は、十分な証拠を入手し、かつ、製品購入する際に購入過程に対して公証手続を行う等証拠の証明力を確保しなければならない。
    次に、訴訟管轄地に対してもさまざまな選択がある。現在実務については、通常、北京又は上海を証拠保全をする優先地域としているが、特に知的財産権裁判所の設立によって、北京、上海等の都市の知的財産権保護に対する重視程度及び司法保護レベルが、その他の国内地区より著しく高くなり、ある程度司法に対する地方保護主義の影響も減少することが期待される。

おわりに

 インターネット、特にモバイルインターネットとオンラインショッピングの急速な発展に伴い、人々の生活は、すでにインターネットとは切っても切れない関係になっている。このようなインターネット環境において、インターネット上の知的財産権侵害事件は増加の一途をたどっているが、インターネット上の侵害行為は様々であり、隠蔽性、開放性、ボーダーレス性などの特徴を有する。インターネット侵害という新しい侵害タイプに臨み、如何に自社の知的財産権を保護するということは、企業にとって重要な課題となっている。企業は、知的財産の早期権利化だけではなく、インターネット上の侵害リンク監視・削除メカニズムを構築すべきである。また、侵害行為を見付けた場合、侵害の具体的な状況に応じて、相応しい対策を取るべきである。なお、知的財産権の専門性に鑑み、かつ、インターネット上の知的財産権侵害が伝統的な侵害とは異なる侵害タイプであることを考慮し、企業は、専門的でかつ豊富な経験を積んでいる代理事務所を介して対策を求め、その権利を代行してもらうことも非常に重要である。本稿がインターネット上の知的財産権侵害へ対応するために少しでも資することができれば、筆者としてこれにまさる喜びはない。

資料協力 北京林達劉知識産権代理事務所別タブで開く

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