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2016年6月10日 掲載

アメリカ編

 アメリカ合衆国では、特許制度の国際的調和・特許品質の向上・訴訟コスト削減などを目指した法案の審議が数年間継続してきましたが、2011年9月16日、オバマ大統領がサインし改正特許法が成立しました。この改正法は60年ぶりの大きなものと言われ、先願主義への移行が目玉です。
 今回の改正法には、その先願主義への移行のほか、特許局による料金改定、先使用権、第三者による再審理、などに関する項目も含まれています。今回の改正点を踏まえ、アメリカの知的財産制度の概要についてQ&A形式で簡単にご紹介します。

  • Q
    アメリカの特許制度は先発明主義と聞いていましたが、先願主義へ移行されるのですか?
  • A

    そのとおりです。今回の改正特許法により、先願主義が2013年3月16日以降出願される特許出願から適用されました。
    日本を含めほとんどの国々が先願主義を採用しているなか、アメリカだけが先発明主義を採用しておりました。そのため、発明日がいつなのかを争う抵触審査(インターフェアランス)手続きに巻き込まれると、手続きが複雑で費用がかさむとの批判がありました。
    今回の法改正により、アメリカ出願された発明がその出願日(日本から優先権主張をしてアメリカ出願した場合には日本の出願日)前に刊行物へ記載された場合や公然と使用・販売された場合には、新規性がないと判断されます。

  • Q
    そうすると、特許出願より前に、自ら製品を販売する場合や専門誌に掲載した場合も特許が取得できなくなるのですか?
  • A

    いいえ。アメリカでは、発明者による製品販売や専門誌への掲載がなされても、その日から1年以内に出願されていれば、先行技術には該当しないとされています(日本では特許出願前6か月以内)。出願日前であっても自己の販売・公表などは新規性・進歩性の判断に影響を与えないため、グレースピリオド(猶予期間)と呼ばれています。
    しかしながら、このような例外的な仕組みに頼っていると、大きな落とし穴があります。例えば、新製品を発売し6か月以内に日本特許出願をしていても、新製品発売と出願の間に第3者による製品販売があった場合には、日本特許は成立しません。ただ、アメリカでは自己の新製品発売から1年以内に特許出願をすれば、その間に第3者による製品販売があっても特許は成立し、先発表を優先する考え方が採用されています。このように、出願前に発明を公表しても特許を受けることができる場合はありますが、これは例外的な扱いであると理解し、製品販売や専門誌への掲載などに先だって特許出願を済まされることを強くお勧めいたします。

  • Q
    アメリカでは実用新案制度はありますか?
  • A

    日本や中国と異なり、物品の形状や構造等の小発明を保護する実用新案制度はありません。発明については特許制度のみとなっています。

  • Q
    アメリカで商標や意匠制度はどのようになっていますか?
  • A

    まず、商標については、文字や図案、立体形状、サービスマークのほか音や香りについても保護対象です(日本では音や香り等を保護対象とすべく法改正の検討中)。商標については、その使用を前提として商標登録される使用主義が採用されていますので、先願主義を採用している日本とは制度が異なります。
    また、意匠については特許法の中で意匠特許として保護されます。保護期間は登録日から14年間で、日本のような部分意匠の制度もあります。

  • Q
    アメリカでは中小企業の特許料金(出願費用等)が安くなると聞いたのですが…。
  • A

    そのとおりです。米国では1982年以来、Small Entity制度(小規模企業)が導入されており、従業員500人未満の企業は出願費用等が50%減額されます。なお、今回の改正で、極小規模の企業(Micro Entity)に対して、出願料金等を75%減額する法令が盛り込まれて改正法が成立し、2013年3月19日から新料金が適用されています。

    Micro Entity(極小規模企業)の認定要件【概要】(改正法)

    Small Entity
    ・小規模企業(500人以下)

    Micro Entity
    ・Small Entityの要件を満たすこと
    ・過去の出願数が5件未満(外国出願は除く)
    ・出願人(Applicant)の世帯年収が米国平均年収の3倍(年により変動します。参照先:米国特許庁別タブで開く)を超えない
    ・米国平均年収の3倍(年により変動します。参照先:米国特許庁別タブで開く)を超える団体への特許を譲渡等していない

    (※)上記以外にも要件があります。

  • Q
    その他、アメリカで注意することはありますか?
  • A

    日本の制度と同様の先使用権制度があります。侵害訴訟等でこの制度を利用した抗弁が可能です。また、第三者の特許が公開・登録された後、刊行物等の提出によりその取消や無効化を狙った情報提供が可能です。
    先行技術を意図的に隠していたことが判明した場合にはその特許の権利行使ができなくなりますので、権利化の過程で知っている先行技術については特許局に対して包み隠さず情報を提出することをお勧めします。
    また、アメリカでは年間4000件程度の特許侵害訴訟が提起されています(日本は150件、中国は8000件)。特許訴訟でも陪審に付されたり故意侵害の場合には3倍賠償を請求されることもあります。さらに、国際貿易委員会(通称、ITC)に水際で輸入差止めを求めて提訴することもあり、注意が必要です。

 今回の法改正に関係した部分については年により変動する項目もあるため、知的財産の専門家である特許弁護士にご相談されるようお願い致します。

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