東京都中小企業振興公社

no.207

特装本づくりで培った技術を新しいお客さまへ

渡邉製本の代表取締役である渡邉浩一氏(写真左)と専務の彰子氏(右)夫妻は、市場縮小の危機感から新しい取り組みに着手。あくまでも顧客視点に立ったWEBサイトの拡充。そして特装本づくりで培った技術を活かしたオリジナル製品の開発によって新規顧客をつかむことに成功した

少部数・特殊な注文にも対応可能な製本会社

 渡邉製本は、糸や接着剤を使って印刷物を本や冊子などにする「製本業」を営む企業だ。主に手掛けているのは、学術書や大学教科書をはじめとする書籍類。製造工程をあえてフルライン化せず、特殊で部数の少ない製本にも小回りよく対応できる点が強みである。
 渡邉浩一氏が父・亮二氏の後を継いで代表取締役に就任した2008年当時、出版業界では市場縮小に歯止めがかからない状況だった。危機感を覚えた浩一氏は就任後、まずWEBサイトの拡充に力を入れたという。
「付き合いの古いお客さまだけを相手にしていてはジリ貧だと考え、WEBサイトを充実させることで新規顧客の開拓を目指しました。そこで心がけたのが、徹底してお客さまの視点に立つことです」(浩一氏)
 例えばサイト内に設けた「製本用語集」のコーナーは、集客に直接結び付かなくとも、顧客に役立つ情報を提供しようと制作。また、見積もり依頼フォームは書き込み箇所が多く入力が面倒な仕組みから、チェックマーク中心のやり方に変えた。こうして顧客優先の姿勢を貫いた結果、サイトへのアクセス数や見積もり依頼数は激増。顧客からの直接発注を請けるケースが増えたことで、利益率は大きく改善した。

昔からの夢だったオリジナル製品作りに着手

 同社は2014年から、360度折り返して使えるノート「BOOKNOTE(ブックノート)」をはじめとする自社製品作りに乗り出した。これらの開発に大きな役割を果たしたのが、浩一氏の妻で専務でもある彰子氏だ。
「私には昔から、オリジナル製品を出したいという夢がありました。それでデザイン専門学校を卒業して他社で働いていた娘などと協力しながらノートの試作品を作成。さらに専門家の方から『ペルソナ設定』やコンセプト作りなどの助言をいただきながら完成度を高めたのです」(彰子氏)
 自社製品の売り上げは、国内外の展示会に出展したり文具ファンの間で評判が広がったりした結果、徐々に増えた。その結果、2019年には全売上額の6%、2022年には10%を自社製品が占めるまでになった。

渡邉製本は、機械では作れないような特殊なサイズ・仕様の書籍でも高い技術力と豊富な経験で対応可能だ

事業化チャレンジ道場で新製品開発を加速

 彰子氏は自社製品開発を加速しようと、2018年から公社の「事業化チャレンジ道場」に参加。講義ごとに出される課題をこなすのは大変だったが、ものづくりの知識を学べたことや同期受講生から刺激を受けられたことがとても楽しかったと、彰子氏は振り返る。
 道場で学びつつ、彰子氏中心の開発チームは新製品のコンセプトをまとめた。そして2022年に製品化を果たしたのが、子どもが描いた絵などをポケットフレームに入れて保存できる新製品「えぽっけ」だった。
「私たちは当初、自社の得意分野である『ノート』という形にこだわりすぎていました。しかし、道場のプロジェクトマネージャーから的確な助言をいただく中で『この製品はいろいろな時期に多彩な形で作られた子どもの作品をひとまとめにして飾り、そこから家族のコミュニケーションを生み出せる点が最大の長所』と気づけたのです。そこでノートを作るという先入観から抜け出し、絵などの入ったポケットフレームをゴムバンドでまとめるというスタイルにたどり着くことができました」(彰子氏)

子どもの作品をゴムバンドで束ねて保管できるだけでなく、立てかけたり壁に貼ったりして飾って楽しめる「えぽっけ」

「えぽっけ」はARGUS 2022年8月号の「TOKYO逸品」で紹介しています。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/kosha/public/argus21/ippin/2022/2022_08.html

現在は海外進出支援も利用

 渡邉製本は事業化チャレンジ道場以外にも、公社のさまざまなサービスを利用している。
「海外顧客向け展示会への出展や、海外の販売代理店とのマッチングなどで手厚い支援をしていただいています。また、ジェトロが主催している海外販売支援プログラムの『TAKUMI NEXT』も、公社の担当者の方に紹介してもらって参加できました。海外進出を目指す当社にとってはありがたいサービスですね。公社の担当者の皆様は、役立つ情報を教えてくれたり当社を他社に売り込んでくれたりするなど、熱心な方ばかり。今後もぜひ、お世話になりたいと思います」(浩一氏)

利用事業 :事業化チャレンジ道場
-ものづくりイノベーション企業創出道場-

 事業化チャレンジ道場は、ものづくりにおける新製品開発を通じて、企画・製品化・量産化・商品化・販路開拓までの一連のプロセスを実践的に習得していただき、道場修了後も参加企業が自力で開発に取り組めることを目指すプログラムです。
 新たな事業展開をお考えの企業をサポートします。
お問い合わせ 城南支社 
TEL:03-3733-6284
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/seminar/dojo.html

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