TOKYO逸品:特別編

この1年間、このコラムで紹介してきた商品を振り返って、ひとつの確信を抱きました。強い商品を生み出すには、何がその源となるのか。
「答えはあくまで、開発するご自身の中にある」。マーケティング調査などに頼ってもヒントを得られるとは限らない。正解を外にばかり求めては、独自性ある商品は創出できないのではないか、と…。
商品紹介
ストレス解放をカギに

日本電波株式会社(大田区)
5つの事例をここで再度みていきましょう。まず、「MediRack-ioT」です。この薬ラックを完成させたのは、計測器や制御機器の製造を手掛ける企業で、同社にとって消費者向け商品の第一号でした。自分たちが培ってきた技術を用いて何をつくりあげるか、担当者は必死に考えた。その結論は「家族の間でお互いに感じるストレスを減らす」でした。高齢者のいる家庭では、薬の飲み忘れが心配につながるに違いないと仮説を立て、高精度で使いやすい薬ラックを開発したんです。

日本電波株式会社(大田区)

株式会社NOAA(中野区)
高齢者のいる家庭で皆が嬉しくなる、という点では、折りたたんで運べるシニアカー「JOYcart MOBILE-Xplus」も同様です。重くて大きな既存のシニアカーは、旅に使うことは厳しいですね。だから家族が一緒に遠出できない。だったら自分の手で、この問題を解消する一台をつくってしまおう、と開発者は決断しました。さらに、高齢者が進んで使いたくなるような洒脱なデザインにすることも決して忘れなかったのでした。

株式会社NOAA(中野区)

有限会社丸越商事(台東区)
いずれの商品も、消費者がほとんど諦めていた部分に斬り込んだから、存在感を放つものとなっています。「地球履優」もそうかもしれません。浅草の和装履物店がオリジナルのサンダルづくりに挑み、見事成功した事例です。「下駄の鼻緒が痛く感じる」「靴を履くのがつらい」というお客の声を耳にした二代目主人は、だったら鼻緒が指に当たっても痛くなく、しかも履き脱ぎしやすいサンダルをものにしようと、悪戦苦闘の末に完成させたら、今ではインバウンドにも大人気です。

有限会社丸越商事(台東区)

株式会社榛原(中央区)
こう考えると、需要というのは「追うもの」ではなくて「生み出すもの」と表現できそうです。デジタル全盛の時代に、紙の良さを活かして人を振り向かせた商品もあります。便箋のようにも一筆箋のようにも使える「蛇腹便箋レターセット」は、和紙を扱う老舗が、長年のものづくりから得た技術、そして蓄積してきた昔ながらの原画を用いて登場させた商品です。若い世代をも惹きつけそうな魅力がそこにあります。

株式会社榛原(中央区)
疑問こそが出発点

toy-spice!(町田市)
「POSTCARD TOY series」もまた、紙をベースにした人気作です。異業種で仕事をしていたひとりの男性が、子ども向けのデジタルコンテンツを制作し続ける中で、ふと考えたそうです。「そもそも、おもちゃって何だ?」と…。その疑問を放っておかず、仕事のかたわらで学びを重ね、ついにはおもちゃ製作のために独立を果たし、親子で楽しめる紙の工作キットをシリーズ化しました。疑問はヒットの種なんです。

toy-spice!(町田市)
語り手
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北村 森(キタムラ モリ) 氏 1966年生まれ。「日経トレンディ」編集長を経て独立。 消費トレンド分析、商品テストを専門領域に活動。 サイバー大学IT総合学部教授(地域マーケティング論)。 SNS:https://www.facebook.com/mori.kitamura/ |
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