TOKYO逸品 ~企業が歩んだ物語~
特別編
時代の変化と、新商品開発
時代が変わってゆくなかで企業が存続するには、みずからが有する価値を忘れないことー。このコラムで1年間取り上げた事例から振り返ってみましょう。

商品紹介
ヒントは自社の足許に

株式会社谷口化学工業所/墨田区
1910年創業の谷口化学工業所は「日本最古の靴クリームメーカー」といわれています。そんな老舗の5代目の渾身作が「自然から作ったケアセット」でした。駆除されたのち行き場のないエゾシカの脂が、実は革製品の手入れに好適と気づいた5代目は、調達価格が既存素材の2~5倍となるのもいとわず、業界初となるこの新商品を開発し、当初想定の10倍の出荷数を記録しています。

株式会社谷口化学工業所/墨田区

株式会社スドウ/墨田区
スドウの創業は1923年。お弁当などを詰める折箱を長年扱ってきた同社の4代目は、主力商品を樹脂製から木製や紙製に戻すことを決断しました。ただ単に環境負荷のことを考えて取引先にそう勧めただけでなく、ネット通販の仕組みを整えて、一般消費者を含めたトライアル購入を促しました。木の折箱の価値を広く再認識してもらえたばかりか、同社全体の売上高を伸長させています。

株式会社スドウ/墨田区
この両社の取り組みは、SDGsという潮流を捉えたという話にとどまらず、老舗を担う経営者としての覚悟がそこに滲んでいるところが見逃せません。

株式会社共生社/江戸川区
市場環境の変化に対応するという意味では、共生社が創業半世紀を超えて初めて自社ブランド開発に挑んだ事例が印象的です。「TAGGED LIFE GEAR」は、雨に濡れても大丈夫なメモ帳。同社はクリーニング業界で広く使われるタグを扱ってきた企業。その技術こそが自社の強みと踏まえ、タグの素材である耐洗紙を基に小さなメモ帳を発案してアウトドア業界とのコラボ商品化も果たしています。

株式会社共生社/江戸川区

米びつ
株式会社田中卒塔婆WORKS
/日の出町
田中卒塔婆WORKSは1912年以来、社名の通り、卒塔婆をつくり続けてきました。4代目が挑戦したのは、米びつの製造と販売。なぜまたいきなり、そんな異分野なのかと思わせますが、卒塔婆の素材であるもみの木の特性や、同社が得意な加工技術を生かすには、これこそが正解と判断したそう。そして、美しく機能的な米びつをものにして、百貨店のバイヤーなどを見事振り向かせています。

米びつ
株式会社田中卒塔婆WORKS
/日の出町
その技術はまだ生きる

山口証券印刷株式会社/千代田区
山口証券印刷はネット専用プリペイドカードの生産が現在の主軸ですが、1921年の創業後、長らくは鉄道のきっぷ(硬券)の印刷を広く手掛けてきました。いまも専用の印刷機を現役状態で所有。この資産と技術を次の世代につなげないかと考えた同社は、硬券のかたちをしたメッセージカード「Kumpel きもちきっぷ」を発売。想定の2倍を超える売れ行きで、鉄道会社からはOEM案件を獲得してもいます。

山口証券印刷株式会社/千代田区
これら5つの事例、自社の持ち味を信じて、外的要素の変化へ果敢に挑むという姿勢が共通していると私は思います。
語り手
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北村 森(キタムラ モリ) 氏 1966年生まれ。「日経トレンディ」編集長を経て独立。 消費トレンド分析、商品テストを専門領域に活動。 サイバー大学IT総合学部教授(地域マーケティング論)。 SNS:https://www.facebook.com/mori.kitamura/ |
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