病院での接触を避けるため、
薬局でオンライン診療を行うサービスを開発 株式会社下島愛生堂薬局

会社情報

1920(大正9)年に、漢方薬なども扱う薬店として創業。その後、調剤なども行う薬局となる。以来八王子市内で営業を続け、健康という価値を提供する「よろず相談所」として地域住民に親しまれている。

社名 株式会社下島愛生堂薬局
所在地 東京都八王子市本郷町3-20
代表者 下島 宏文
URL https://www.shimojima-j.com/

代表者情報

代表取締役社長 下島宏文

ニュージーランドの高校を卒業した後、日本の大学へ入学。大学卒業後は外資系の人材会社への就職などを経て、2014年に実家である下島愛生堂薬局へ就職することに。2018年に事業承継し、五代目の代表に就任。

開発したサービスの概要

IT弱者の高齢者に向けた、分かりやすいオンライン診療サービス

コロナ禍に医療のスタイルが変わり、オンラインや電話による診療が本格的にスタートした。コロナ後も引き続きオンラインでの診療は行われているが、そのメリットを最も享受すべき高齢者には、なかなか浸透していないのが現状である。下島愛生堂薬局では、「オンライン診療になっても足を運ぶ可能性があるのが薬局」である点に着目し、薬局においてオンライン診療を行う「くすりモール」というサービスを開発。薬局内に設置されたモニタを通して医師の診察を受け、患者が指定した場合その場で処方された薬を受け取るというもの。これは病院のように長い時間診察を待つ必要がなく、患者同士の接触も減らせるといったメリットがある。

開発したサービスの紹介

アナログとデジタル、双方のメリットを活かしたサービス

「くすりモール」は、薬局内でオンライン診療を受診し、その場で薬を受け取ることも可能な、薬局内オンライン処方サービス。いつもの薬局へ行けばオンライン診療を受け薬を受け取ることができる気軽さと、薬局スタッフがオンライン診療をサポートしてくれるという安心感が大きな強みといえる。「コロナ禍でソーシャルディスタンスの重要性が認識されました。特にお年寄りの場合はその重要性が増すのですが、お年寄りほどITが苦手という方が多く、医療デジタル化のメリットを得られていません。薬を処方する薬局へ足を運び、その場でオンライン診療を受けるというデジタルとアナログ双方のメリットを活かしたサービスです」(下島社長)。

分かりやすいサイト作りを心がけ、デジタルのハードルを下げる

患者は薬局で登録されたクリニックの診察予約を行い、その日時に薬局へ来店。オンライン診療後は処方された薬を患者が指定すればその場で受け取ることができる。医師側もオンラインでの対応のみの診療時間を設定していることが多く、定期診断の患者が大半ということもあり、診療の待ち時間もほとんどかからないのが特徴。「くすりモール」を紹介するサイトに関しても分かりやすさや親しみやすさに配慮して制作し、簡単な操作で目的の情報にたどり着けるなど、オンライン診療へのハードルを下げる工夫を施した。

サービス開発のきっかけ

新型コロナウイルスによって電話やオンラインでの診察が本格的にスタートしたが、コロナ収束後はオンラインでの診察のみが許可されることに。このような状況に「IT弱者でもある高齢者は最もソーシャルディスタンスに留意しなければならない存在なのに、結果的に蔑ろにされている」と感じた下島社長。患者が必ず薬を受け取りにやって来る薬局で、オンライン診療を受ければいいのではないかと考えたことが、本サービス開発のきっかけに。このアイデアを地元である八王子市の産業振興課の知人に相談したところ、東京都にも助成金支援のサービスがあると教えられ、申請することとなった。

開発期間中の振り返り

コーディネータとのやり取りで、本ビジネスの意義を再確認

「公社に申請した段階では、まだアイデアというレベルでした。そこでコーディネータの方に付いていただいて、そのアイデアをビジネスモデルへ昇華させていくというところからスタートしました」と、下島社長は当時を振り返る。「なぜ、このシステムを構築するのか、どのような社会的意義があるのか」といった部分にフォーカスしながらコーディネータと二人三脚で作業を進めたことで、自分たちが提供できるソーシャルインパクトとは何なのかが明確になっていったという。

課題は「薬局内で診療行うこと」の法律的解釈

「くすりモール」のサイト自体は、同社のホームページを制作していた会社に発注。「『薬局内でオンラインを介して医師に診察してもらい薬を処方する』というシステム自体は、決して難しいものではありません。ただ、オンライン上とはいえ薬局内で診察を行うことに対する法律的解釈が非常に難しいのですね」と下島社長。国会にも議案として提出されているということなので、現在はその様子を見つつ、運用開始の時期を探っている状況だという。

法に関わることの多い医療ビジネスの進め方を体感

「くすりモール」自体はまだ運用されていないものの、手をこまねいているわけではなく、「高齢者の方にもITに慣れていただこうと、薬剤のモバイルオーダーサービスを行う既存のアプリも積極的に活用しています」と下島社長。「また今回の経験を通して、医薬の分野では法規制緩和によって大きな変革を起こせる、突破口が見えるということも実感しました。そしてその際にはどこに何を問い合わせるべきなのかなど、これまで漠然としか捉えていなかったことへの解像度がかなり上がったと思います」と、今回新たなサービス開発に取り組んだことのメリットを強調。

これからのビジョン

「近隣のさまざまなクリニックの薬を処方するという意味で『くすりモール』と名付けたのですが、地域の中核病院とも連携することで、そうした病院特有の待ち時間の長さの短縮にもつながればいいなと考えています。これは患者さんだけでなく、働き方改革の進む医療従事者対策にもなるのではないでしょうか。同時に我々も他の薬局と連携するといった横展開を進めることで、患者さん、病院、薬局のすべてがメリットを享受できるようになればいいと考えています」(下島社長)。