画面を見ずに移動する「無人ナビガイド」を開発 LOOVIC株式会社

画面を見ずに移動する「無人ナビガイド」を開発

開発したサービスの概要

「無人ナビガイド」を開発

「1人でも多くの方の外出機会を増やしたい」---その山中社長の想いから、これまでLOOVIC株式会社は移動支援技術の研究開発を行ってきた。そして誕生したのが、画面や地図を見ずに「人の声」によって移動をサポートする、スマートフォンアプリケーションの無人ナビガイド「LOOVIC」だ。
従来は街なかで利用する「LOOVIC」では、当事業の助成によってさらに進化させ、動・植物園といった公的施設の職員が園内のエリア情報を自身の声で吹き込み、来園者が来場時、職員が寄り添うように音声が流れるGPSと連動したナビガイドサービスを開発。このサービスは高齢者やお子さん、課題を抱えた人向けのバリアフリーなどはもちろん、一般の来園者、そしてインバウンド対応も可能である。

開発したサービスの紹介

移動のUXを一変する「声」で付き添う新しいサービス

誰かの移動に付き添ってあげたいと考える支援側の「声で付き添う」のが「LOOVIC」の特徴だ。まずは事前に「つくるひと」が街を歩きながら言葉を発し、「赤い看板の○○店を右に曲がって」といったような音声情報を、現場でスマートフォンに向かって録音すると、音声情報がそのGPS位置に紐づけられ、クラウド上に自動で保存されていく。それに「つかうひと」に公開、シェアして、音声を頼りに移動する。
「LOOVICは地図を見ずに音声で移動する“ナビゲーション”と、人が寄り添って“ガイド”する2つの要素を兼ね備えており、人が隣にいるような感覚で移動を作り上げる全く新しいサービスです。我々はLOOVICで、従来の “移動”に対するUX(ユーザーエクスペリエンス)を丸ごと変えているのです」(山中社長)。

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常にタイムリーな情報をアップデートできるSNSプラットフォーム

今回は「LOOVIC」の公的施設での導入を目指して開発を進めた。公的施設ではすでに音声ガイドを使っている場合もあるが、その多くはあらかじめパターンが決められた標準的なもので、施設側の担当者が最も知ってほしい内容は伝えきれていない。
「例えば動物園ならば“今朝、ライオンの赤ちゃんが生まれました!”という最新の情報は、既存の音声ガイドではキャッチアップできません。しかし我々のアプリはアップデートも簡単で、気づいたことをすぐにアップデートすることも可能です」(山中社長)。施設はタイムリーな情報を伝えられ、来園者はいつ来ても新しさを感じられる。そういう仕組みを作り上げた、音声を通じて常にアップデートできる、SNSのような新しい情報共有プラットフォームが誕生した。

サービス開発のきっかけ

個性が生じることで移動がもっと楽しくなる

「LOOVIC」は当初、一人一人にカスタマイズし、パーソナライズ化できる技術から始まったのである。「つくるひと」は「本当は付き添ってあげたいけれど、一緒に移動できない人のための情報」を作り、「つかうひと」は「自分のことを知っている人が、自分のために作ってくれた情報」にアクセスすることから開始された。
従来の地図サービスのような「起点と終点を示しただけの地図に情緒性はなく、さらには、AI音声には心がありません。しかし、その場をよく知る人の生の声によって“ここはこんな場所だった、ここの○○は美味しいよ”などといったローカル情報が付加されることによって個性化されることで共感が生まれ、移動することが楽しくなる。それが外出機会の増加につながっていきます。実は、一つ一つの個性化された情報は多様化した社会で、興味を惹きつける個性溢れる情報になるのです。」(山中社長)。

「自分で考えて人らしく移動する」ことの気づきがきっかけに

「LOOVIC」は山中社長の実体験から生まれた。「私の長男は生まれたときに脳に損傷を負いました。その影響によって、空間認知が苦手な後遺症を持ち、リハビリテーションのため付き添ううちに、自立して移動することの重要さを痛感しました。そして、この課題が解決できれば、認知症のシニア、地図が苦手な方の外出だけでなく、移動を楽しむ方々すべてに応用できるのではないかと思い、移動支援デバイスの開発を始めることにしたのです。」
ところが、開発過程で過度な支援で人をロボットのように動かすことは、自立に対してマイナスに働くことがわかった。「そこから人のようなデバイスがロボットのように明確に指示を出すのではなく、バッファーを敢えて含めることによって“自分で考えて人らしく移動する”方向を目指して、思い切って人のようなデバイスではなく、人がいるように生声を用いたスマホの音声移動支援アプリの開発に切り替えることにしたのです。」(山中社長)。

開発期間中の振り返り

コーディネーターの言葉に後押しされ動・植物園向けの開発を決断

「誰もが外に出ていける機会を作る」ため、山中社長は観光も含めた様々な領域での「LOOVIC」の活用を模索。当初はシニアの外出にフォーカスしたシティガイド的な用途を想定したが、ナビゲーションという技術。すなわち、単なる迷う、探すという市場には、残念ながらニーズがなかったのです。そんな折、当事業を知り、公社コーディネーターから「動・植物園やインバウンド対応サービスとして活用できるのではないか、との提案を受けた」との提案を受けた。「当時はまだビジョンがおぼろげでしたが、東京都からの委託で観光地での実証実験をした経験もあり、施設での可能性は感じていました。そこに観光事業に知見があるコーディネーターの方の後押しがあり、それではチャレンジしよう!と決断したのです。」(山中社長)。

現場のフィードバックを受けてプロダクトをブラッシュアップ

山中社長は「どのようにプロダクトを使えるのか、実証実験という形で現場の方に判定してもらい、ブラッシュアップをしよう」と考え、まずは動・植物園を訪ねた。最初は観光ガイドの営業と誤解されたり、既存のWebマップとの違いが理解されにくかったりして、苦戦したという。しかし、SDGs的な観点、施設には個人向けのガイドがなく機会損失していること、多額のコストをかけずとも作り上げていけることなどを話し、結果、6施設での実証実験が実現した。
「不具合の修正や、コンテンツの修正なども実証先と共同で行った結果、1年かけてようやく魅力あるコンテンツと、それに伴う技術ができ上がりました」(山中社長)。

特許の取得と各方面での高評価を得たプロダクトをついにローンチ

LOOVIC の技術は複数の特許を取得。大阪・関西万博において、総務省より選出企業として認定され、また、日本弁理士会からも出展支援の採択を受けた。「それらに加えて、内閣府のSBIR(Small Business Innovation Research)という戦略プロジェクトに採択されたことで、我々がこれまで続けてきたこと、そしてこれからの展開に確信を持てました」(山中社長)。
助成を受けて開発を進めた新生「LOOVIC」は、まずは施設向けにローンチし、2025年6月までには一般個人や、グループでも利用が可能になる予定だ。

これからのビジョン

健康寿命の進展のために「誰もが外出したくなる」技術の開発を

「情報の世界はAIと、人が個性を発揮していくものに2極化していくでしょう。我々はその中でも自社の強みが出ることを目指し、研究開発をしてきました。結果的に個性を生むもので、“個性ある、生の情報の発信”に取り組んできました。この形がスキルシェアのような仕組みです。すでにこの技術は研究開発フェーズを終え、特許化もでき、唯一無二のポジションを確立しました。このような個性のデータは集合知となり各地の魅力を掘り起こし、オーバーツーリズムの解消に役立つ見込みです。また、地域の方々が散歩に使いたいコンテンツにもなる。超高齢化社会に必要なのは自立して健康寿命を延ばすこと。そのためには誰もが外出したくなる社会実装としての仕掛けが必要であり、その実装に取り組んでいます。今後の当社の活動にご期待ください」(山中社長)。

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会社情報

社名 LOOVIC株式会社
代表者 代表取締役 山中 享
所在地 東京都品川区西大井1丁目1-2 タワー西大井イーストタワー 2階
西大井創業支援センターPORT2401
事業概要 2021年設立。「人々が抱えるさまざまな苦手意識に対し、テクノロジーの力で差異を無くせる世界」を目指し、社会的意義のあるサービスを開発するスタートアップ企業。自社開発のナビゲーション&ガイドサービス「LOOVIC」を運営。
主な製品やサービス LOOVIC
URL https://www.loovic.co.jp/ja

代表者情報

山中 享

代表取締役 山中 享
デジタルハリウッド大学大学院 デジタルコンテンツマネジメント科 修士。アイリスオーヤマ、ソフトバンク、NTTPCコミュニケーションズ、アマゾンウェブサービスを経てスタートアップの役員を複数社経験。