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東京都サービス生産性革新スクール 事例紹介

CASE3 矢萩運輸株式会社

データに基づく業務改善で、継続的な賃上げ実現を目指す

小さな成功を積み重ねて
ボトムアップで業務改善が提案される組織へ

矢萩運輸株式会社

矢萩運輸株式会社が運送業務で使用する車両の外観
矢萩運輸株式会社が運送業務で使用する車両の外観

矢萩運輸は1934年の創業以来、運送事業を起点に、倉庫事業、請負事業へと事業領域を拡大してきた。現在は東京・神田の本社の他に、関東圏に9つの事業拠点を展開し、顧客企業の物流業務を支えている。特定顧客との継続取引が多い同社は、「持続的な成長のためには、生産性向上が不可欠」(代表取締役社長 檜山高志氏)であるとの信念に基づき、業務改善に取り組んでいる。

矢萩運輸の外観

経営環境が激変する昨今、企業はより一層「変化に対応」する力、「稼ぐ力(生産性)」の革新が求められるようになっている。そのためには自社の課題を客観的に捉え、解決しながら「生産性を向上」させ、その結果生じた余力(資金・労力・時間など)を自社の付加価値を高める領域に集中していくことが重要となる。
こうした考えに基づき公社では、令和4年度より商業・サービス業に従事する都内中小企業の生産性向上をテーマとしたスクール「東京都サービス生産性革新スクール」(以下、スクール)を開講している。本スクールでは、現場改善に取り組みながら、自社の新たな付加価値を生み出す「生産性の革新」を担う“中核人材”育成を目的としている。
本稿で紹介する矢萩運輸は、檜山社長と同社・経営管理部 部長の2名で令和6年度開催の第3期スクールを受講。ここで策定した改善計画を確実に実行していくため、令和7年度は現場改善アドバイザー派遣も活用しながら改善活動を継続している。着実に成果を積み重ねている同社の取り組みについてお話しを伺った。

 

代表取締役社長 檜山 高志さん
代表取締役社長 檜山 高志さん

——御社の業務内容について教えてください

檜山さん 
矢萩運輸は、運送事業、倉庫事業、請負事業の三本柱で事業を展開しています。もともと運送事業者として創業し、お客様の要望に応じて倉庫事業や請負事業を始めました。長期的にお付き合いのあるお客様が多く、ご要望に合わせて多種多様な製品の入出庫・荷捌き、流通加工作業、構内作業、商品管理など幅広い支援を行っています。


——「東京都サービス生産性革新スクール」に申し込まれたきっかけについて教えてください。

檜山さん 
ひと言で言えば、会社の収益向上のためです。矢萩運輸は数年前から業績アップを目的に業務効率化に取り組んでいましたが、なかなか思うような成果を上げられていませんでした。原因は、自社で業務効率化に取り組んだ前例がなく、イメージを持てていなかったことにあります。具体的に何から始めればいいかわからず、施策を打ち出せずにいたのです。
そんな時に公社からスクールの案内が届きました。以前、公社の人材育成関連の研修を利用して、その際に一定の成果を出すことができたこともあり、スクールの案内を見て、自社の課題解決にぴったりのプログラムだと考え、応募を決めました。

代表取締役社長 檜山 高志さん
代表取締役社長 檜山 高志さん
①製造されたインキ(700kg前後)の容器にサクションパイプを入れる  ②運転ボタンを押すと充填開始規定量で自動停止、充填完了」  ③充填が終わった缶をパレットに積みつける
インキ充填業務の作業内容
※画像クリックで拡大表示します

——スクールは生産性向上に必要な考え方を講義で学ぶとともに、受講生は自社の改善テーマを設定し、実際に課題解決に取り組むという流れでした。御社はどのような改善テーマに取り組まれたのでしょうか?

檜山さん 当社業務の中でも売上金額が相対的に大きい「インキ充填業務」をテーマに選びました。インキ充填業務は請負業務の一つで、印刷に用いられる染料や顔料を含んだ液体(インキ)を、専用機械を使って一斗缶などの容器に詰め替える業務です。
当時15名ほどのチームで担当しており、効率化が実現すれば残業時間削減や人員削減ができると考えました。浮いた人員には別業務を担当してもらうことで、会社全体の売上拡大にもつながります。
また、スクールで「スモールサクセス、アーリーサクセス」つまり、小さな成功を早い段階から積み上げていくことの重要性を学んだのですが、この視点から見ても比較的取り組みやすいインキ充填業務はふさわしいテーマであると考えました。この取り組みが成功すれば、そのプロセスで学んだノウハウを別業務にも展開して、効率化を進められるという考えもありました。

——取り組みによって得られた成果を教えてください。

檜山さん 作業工程の見える化が進み、その結果、効率的な業務フローへの改善や作業手順書の精緻化を実現できたことが大きな成果でした。そこに至るまでの過程で、「ベテランと新人の作業時間の差」「具体的な指示が業務効率に与える影響力」など多くの学びがありました。
また、インキ充填業務に限らず、効率化実現のためにはプロジェクトごとに「何を」「いつ」「誰が」実行するのか明確化し、管理ツールを活用しながら作業工程を見える化することが重要だと学びました。
スクールでは、業務効率化を進める以前に「業務フローを標準化することが大切」だと教わったのですが、実際に改善活動に取り組む中で「そのとおり」だと実感する瞬間がいくつもあり、このことは様々に学んだ中でも特に印象強く残っています。

——スクール修了後、すぐに現場改善アドバイザーの派遣に申し込まれました。それはなぜでしょうか?

檜山さん スクールを修了して終わりではない、そこで策定した改善計画を着実に実行し、より大きな成果を得ていくことが本来の目的だからです。1社に1人の担当講師がつき、直接会社に来てもらってアドバイスいただけるという形式にも魅力を感じました。専門家に伴走いただくことで、自社だけで取り組むよりも確実に成果が出ると考えました。

①製造されたインキ(700kg前後)の容器にサクションパイプを入れる  ②運転ボタンを押すと充填開始規定量で自動停止、充填完了」  ③充填が終わった缶をパレットに積みつける
インキ充填業務の作業内容
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請負事業部 部長 兼品川センター長 石村 一久さん
請負事業部 部長兼品川センター長 石村 一久さん

——ここからは実際の改善活動をリードしている事業本部長の片桐義則さんと請負事業部長兼品川センター長の石村一久さんに伺います。具体的な業務改善の取り組みとその成果を教えてください。

石村さん 私は前年度に引き続き、インキ充填の効率化に取り組んでいます。担当講師からの助言をもとに、改善の第一歩として業務を細かく分解し、それぞれの作業時間を計測することを行いました。
そこで得たデータをもとに作業時間の基準値を定め、作業員ごとの時間差を分析。その結果を踏まえて作業手順書を見直し、経験にかかわらず効率的に作業を進められる準備を進めています。今後は、改訂した作業手順書に基づいて、あらためて作業時間を計測し、さらなる業務効率化に取り組む予定です。残業時間の削減とそれに伴う利益確保により、会社の業績向上に貢献できればと考えています。

請負事業部 部長 兼品川センター長 石村 一久さん
請負事業部 部長兼品川センター長 石村 一久さん
作業工程ごとに各作業員の作業時間を計測した結果を表に記した。表の内容を各作業員の作業時間を棒グラフ、作業員全員の平均値を折れ線グラフに記した。
作業工程ごとの各作業員の作業時間計測結果をグラフで表示。
ベテランと新人で大きな時間差があることを確認したことで、作業手順書の見直しや
具体的な指示の必要性、プロジェクト管理の重要性に気づくことができた。
※画像クリックで拡大表示します

事業本部本部長  片桐 義則さん
事業本部本部長 片桐 義則さん

片桐さん 私は今年度からの新たな取り組みとして運送業務の改善に着手しました。当社の運送は複数の荷物を積み合わせて、関東近郊の複数箇所に配送する形式です。複雑な運送システムのため、当初はどのようにすれば効率性を高められるのかが見えていませんでした。
担当講師からの助言を受け、まずはデータ分析の基盤づくりに着手しました。積み合わせ配送では、距離・重量・時間という3つの指標でデータを収集するのが良さそうだと気づき、それらのデータを収集・分析する方法を構築しました。今後は、このデータ収集・分析環境をベースに、効率化のための施策立案を進めるつもりです。
さらに、収集したデータは荷主への運賃交渉にも活用できると考えています。様々な物価が値上がりする昨今、これまでの運送料金を維持することは当社にとっても厳しい状況です。しかし、苦しいのはどこも同じですから、単に値上げを相談するだけでは受け入れてもらえないでしょう。
今回の取り組みで各種データの収集・分析体制が整えば、荷主様に客観的な指標を示しながら説明できるようになります。当社が業務効率化することにより生じる荷主様にとってのメリットを数字で明確に示すことで、納得感のある交渉が可能になると期待しています。

事業本部本部長  片桐 義則さん
事業本部本部長 片桐 義則さん

 

運送業務を担う配送用トラック
運送業務においても、効率化のための施策立案準備として、
各種データの収集と分析環境整備をスタートさせた。

——社長として、実践に取り組むお二人に期待することがあれば教えてください。

檜山さん まず、それぞれが担当する業務効率化プロジェクトの成功に期待しています。そのうえで、業務効率化の知識・ノウハウを各部署の社員を中心に浸透させ、最終的には全社に業務効率化の取り組みを波及させてほしいと思っています。
理想は、現場社員から作業効率向上のためのアイデアが自発的に出てくるようになることです。トップダウンではなくボトムアップで、効率化が自律的に進む組織に生まれ変わりたいと思っています。

——スクールでの学びを踏まえた、今後の展望を教えてください。

檜山さん 現在当社では、業績に先行して3%の昇給を実施しています。昨年度と同じ業績では利益が減るだけになり、そうなれば同じ賃上げ率を来年以降も維持することが難しくなってしまいます。付加価値をつけてサービス料を値上げするだけでなく、業務効率化を実現してコストを減らすことが何よりも必要です。
生産性の向上によって持続的な賃上げを実現できるよう、今後もスクールでの学びを最大限活用し、業務改革を進めていきたいと考えています。 

運送業務を担う配送用トラック
運送業務においても、効率化のための施策立案準備として、
各種データの収集と分析環境整備をスタートさせた。
本社 東京都千代田区内神田3-5-3 矢萩第二ビル2F
代表者 代表取締役社長 檜山 高志
事業拠点 神田本社/所沢営業所/埼玉営業所/草加センター/川口営業所/群馬営業所/品川営業所/志村センター/館林センター
創業 1934年12月
事業内容 倉庫業/流通加工業/運送業/荷役受託業/不動産賃貸業
URL https://www.yahagiunyu.jp/別タブで開く

□ 問い合わせ先 □
〒101-0025 千代田区神田佐久間町1-9 東京都産業労働局5F
公益財団法人 東京都中小企業振興公社
総合支援部 総合支援課 生産性向上担当
TEL:03-3251-7917
E-mail:seisansei【AT】tokyo-kosha.or.jp
※迷惑メール対策のため、「@」を【AT】としています。