成功のヒントは現場にあり!東京都内中小企業のSDGs取組事例

「フェアトレード」の精神で雇用・経済・環境に貢献

武州工業株式会社(青梅市)

武州工業株式会社(青梅市)
代表取締役会長 林 英夫 氏

地元社会の豊かさを守る

部品メーカーの武州工業は、青梅市を拠点に半世紀以上、日本のものづくりを支えてきた企業です。周囲には今なお風光明媚な里山や多摩川の清流に恵まれていますが、近年では気候変動による豪雨が多摩川の氾濫を引き起こし、環境問題を特に身近に感じていると語るのは林会長。

「ものづくりを仕事にするということは、電気やエネルギーをたくさん使っていますから、仕事をすることがすでに環境に負荷をかけてしまうということ」

武州工業では、以前より太陽光発電やLED照明導入といった温暖化対策など、様々な取り組みを行ってきましたが、SDGsに取り組むきっかけとなったのは、これまでの成果が認められたNPO法人「環境文明21」主催の『経営者「環境力」大賞』の受賞でした。今では「環境文明21」の組織である『経営者「環境力」クラブ』の代表を林会長が務めていることからも、他の経営者に向けて環境対策の必要性を訴えて続けています。

  • 濁流で氾濫する多摩川。 濁流で氾濫する多摩川。

地域雇用を守る「フェアトレード」

環境対策に力を入れる一方で、武州工業のSDGsでユニークなのは、独自の「フェアトレード」による地域雇用を守る実践です。「フェアトレード」といえばコーヒー豆など、途上国の農家との取引の際に提唱されますが、武州工業が果敢に挑んでいるのは様々なステークホルダーとのフェアトレードです。部品メーカーは、人件費の安い海外メーカーとの熾烈な価格競争に晒されてきました。

「100円ショップでよく買い物しますが、その品物は日本製ほとんどないですよね。私たちの関わる業界でも、LCC価格(ローコストカントリープライス)、世界で一番安い国の値段がグローバルプライスになっています。それができなければ、地域の雇用が守れませんし、日本から仕事がなくなってしまう。私たちが取り組んできたのは、ずっと日本で、LCC価格で作り続けてきたということです」

日本の人件費で、途上国並みの低価格を実現する。普通では考えられないことですが、驚くことに武州工業では、LCC価格を維持しながらも、55年間赤字がなく、リストラもせずに業界の荒波を乗り越えてきたのです。

  • 一人で複数工程をこなす効率の高い生産ライン。 一人で複数工程をこなす効率の高い生産ライン。

新しい発想で課題を解決

なぜ、人件費を下げずに、低価格が実現できるのか。その秘密を林会長は身近な例えでこう説明します。

「スーパーで牛乳を買うとき、商品の列のどこから取りますか?賞味期限を見て後ろの方から取っていませんか?それでは、賞味期限切れのものが廃棄処分になってしまいますね。スーパーの経営者に聞くと「歩留まり」と言って、その分を加味して売値を決めているのだそうです。つまり、消費者がその分高く買って損をしている訳ですが、10円安くするなどインセンティブがあれば、どちらが得になるか考えて行動するようになる」

製造業では「歩留まり」は当たり前のことですが意外に盲点となっています。武州工業が取り組んだのは、部品の価格にインセンティブを持たせることで、過剰な品質を見直すこと。無駄な検査労力と「不良品」を減らし、低コスト化を実現してきました。

「実は製造工程の30%の人が外観検査の仕事をしていますが過剰な品質管理になっている。お客様に検査の簡略化を受け入れてもらうのは容易ではありませんが、工程内品質保証という考え方で「物づくり」で保証をしているので、外観検査は不要とその分コストダウンを提案しました。実際にやってみたところ不良品は出なかったんです。自動車業界でコストダウンがなかなか難しい中で、10%大幅にコストダウンができ、歩留まりも向上して、環境負荷も低減、三方良しの活動になりました」

競争力を高める体制づくり

他にも、いち早くデジタルトランスフォーメーションの先駆けとなるデジタル化や独自の生産体制により生産性を向上。客先だけでなく、協力メーカー、従業員とステークホルダーの皆様に「フェアトレード」という考え方を取り入れ、透明性のある社風が従業員の自発性やモチベーションを引き出しています。

「シリコンバレーの経営者に言わせると、日本人は創造性がピカイチだけれど、行動しないのが最大の欠点だそうです。日本ではPDCAが定着していますが、武州はDCA。短いサイクルで実践して、チャレンジをしてみる、ダメなら元に戻せばいいんです」

また、2050年CO2排出実質ゼロを目指すには、大手企業だけではできません、数値で表現をして、相互の関係を見直すことで環境負荷も低減できます。生産データ管理と、SDGsが鍵になると言います。

「感情論ではお客様と交渉ができませんが、データを見せるとお客様も納得していただける。そして、その改善を何のためにやるのかというときに、すべてSDGsにかかってくる。そういう視点でSDGsを使うと、すごくまとめやすいと思います」

  • デジタル端末を使った生産管理も導入。 デジタル端末を使った生産管理も導入。

武州工業株式会社
所在地:東京都青梅市末広町1-2-3
創業:昭和26 年
事業内容:自動車用金属加工部品 板金、プレス、樹脂加工、自動制御機械製作、パイプグラム、BIMMS
代表取締役社長:林 英夫
従業員数:150名

SDGs